第百五夜『大勇者スーパー斉天大聖デ・ラ・マンチャ公-The Young Duke-』
2022/08/26「砂漠」「鷹」「暗黒の目的」ジャンルは「王道ファンタジー」
本作は
貴種流離譚なのだから主人公は王弟の子であったり、
* * *
夜空を見ると流星が降って来た。
いや、一見空から降って来る岩のようだが、あれは実のところ異星から来た宇宙船だ。
乗組員はただ一人、何故なら貴種流離譚に出て来る異星人は一人ぼっちで地球に来ると決まっているからだ、昔からの決まり事を軽々しく考え無しに破るものではない。
中から出て来たのは肩に金色の
何故かと言うと、これもそう決まっているからだ。
様式美通りなら中から出て来るのは青年か赤ん坊でなければならず、これで親が中々
「ふむ、ついたか。なるほど野蛮で
「殿下の仰る通りでございます!」
見た目麗しい青年は一人用の宇宙船から出て、周囲を見渡すなり開口一番酷く失礼な言葉を吐き、肩に止まった金色の鷹は調子の良い言葉を
「では
「殿下の仰る通りでございます!」
見た目麗しい青年はそう言うと地を
何も
そうで無ければ悪党に袋叩きにされて、お話が終わってしまう。
見た目麗しい青年が地を蹴って空を飛んでいると、早速彼の求める物を見つけた。なんと、美女が胡散臭い老婆からリンゴを手渡されているではないか!
「見ろバレット! 見るからに邪悪そうな魔女っぽい老人が、世にも美しい姫君に見える女性に、恐らく毒リンゴだろうと思われるものを手渡しているぞ! 今こそ悪を糺し、正義を成すべきだ!」
「殿下の仰る通りでございます!」
「うむ! ならば善は急げ、だ!」
見た目麗しい青年は金色の鷹と一方通行な会話をすると、美女と老婆の間に着地する形で割って入る。
「ええい、そこまでだ、悪党! 貴様の悪事はまるっとお見通しだ!」
これには美女と老婆もビックリ呆然である。
なにせ空からもの凄い勢いで人が降って来て無事着地し、しかも自分達に対して何やら言っているのだ。
「ええと、どちら様ですか? 私達どこかでお会いしましたか?」
あくまで丁重に、相手に
金色の鷹はその言葉を聞くと、待ってましたとばかりにバサリバサリと大げさに翼を振う。
「やあやあ! 遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ! この方をどなたと心得る、恐れ多くも大勇者スーパー
金色の鷹は大見得を切り、君主の身分をここで明かす。
見た目麗しい青年は澄まし顔で、
これには美女と老婆は再び呆然である。
何せ異星から来た、青い血流れるやんごとなき殿下の名乗りなのだ。そんなもの知る訳無いし、にわかには信じられないし、狂言か狂人だと言う方がまだ分かる。
見た目麗しい青年はこの沈黙を威光の前の調伏、余りの
「邪悪な魔女よ、反省した様だから行きなさい。これに
「殿下の仰る通りでございます!」
見た目麗しい青年はそう言うと、高笑いをしながら地を蹴って跳躍し、この場を跳び去った。
残された二人はただただ呆然するばかりであった。
「善を成すのはやはり気分が良いな、そう思わないかバレット?」
「殿下の仰る通りでございます!」
見た目麗しい青年は地を蹴り木の枝を蹴り、遥か上空で金色の鷹に話しかけつつ
すると地上の、大地や生態系の様子が変わった。
周囲から木々が消え去り、辺りは砂漠となり、遠くには宮殿が見える。
そして見た目麗しい青年が持つ超人的な視力で見通したところ、なんと王宮では美女が胡散臭い中年男性に言い寄られているではないか!
「見ろバレット! 見るからに邪悪そうな右大臣っぽいおっさんが、世にも美しい姫君に見える女性に、恐らく
「殿下の仰る通りでございます!」
「うむ! ならば善は急げ、だ!」
見た目麗しい青年は金色の鷹と一方通行な会話をすると、砂を蹴って壁を超えて街へ侵入し、壁を蹴り家屋を蹴り宮殿へと跳び入りした。
「ええい、そこまでだ、悪党! 貴様の悪事はまるっとお見通しだ!」
これには美女と中年男性もビックリ呆然である。
なにせ街の方からもの凄い勢いで人が跳ねて来て、しかも自分達に対して何やら言っているのだ。
「ええと、どちら様ですかな? 本日はどの様な御用件で?」
あくまで丁重に、相手に癇に障らない様に中年男性が尋ねる。
本来ならば然るべき
そして中年男性のそんな態度に、金色の鷹は大見得を切る。
「やあやあ! 遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ! この方をどなたと心得る、恐れ多くも大勇者スーパー斉天大聖デ・ラ・マンチャ公であらせられるぞ!」
これには美女と中年男性、並びに衛兵の皆さまは再び呆然である。
何せ街から宮殿へ砲弾の様に飛び込んで来た、不審者が青い血流れる身分であるかの様な名乗りをしたのだ。
そんなものはにわかには信じられないし、狂言か狂人だと決めつけた方が絶対に楽だ。
見た目麗しい青年はこの沈黙を、威光の前の調伏、余りの魅力の前にした恍惚だと理解し、早合点のまま己のペースで話を進める。
「邪悪な右大臣よ、反省した様だから真面目に日常に戻りなさい。これに懲りたら二度と姫君に婚姻を迫ろうとしたりするなよ!」
「殿下の仰る通りでございます!」
見た目麗しい青年はそう言うと、高笑いをしながら宮殿のテラスから地を蹴って跳躍し、この場を跳び去った。残された人々はただただ呆然するばかりであった。
「悪を糺すのはやはり気分が良いな、そう思わないかバレット?」
「殿下の仰る通りでございます!」
見た目麗しい青年は岩を蹴り、
すると水平線の向こうに大きな島が見えた。
ささやかな文明や豊かな自然、そして人々の活気が感じられる島だった。
そしてその島の領空には、自由に空を飛ぶ少年が居るではないか!
「見ろバレット、あの島の上空には空を飛ぶ少年の姿が見えるぞ! きっと彼もまた私の様に特別な存在に違いない! ここは一つ高貴なる者の義務として、彼を啓蒙してやるべきではないか?」
「殿下の仰る通りでございます!」
「うむ! ならば拙速は
見た目麗しい青年は金色の鷹と一方通行な会話をすると、船のドックを蹴り、流木を蹴り、島へ辿り着き、島民が呆然する中、地を蹴って空を飛ぶ少年の元へ飛び跳ねた。
「やあやあ! 遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ! 我こそは大勇者スーパー斉天大聖デ・ラ・マンチャ公! 貴殿をこの島にとって特別な人物とお見受けする、私と
「殿下の仰る通りでございます!」
これを聞いた空を飛ぶ少年は、これは何の事だろうか? と
「えっと、おっさん誰? ここ俺達の島なんだけど、従者とか旅とか訳分かんない事言わないでくれるか?」
これまで通りならば、大人達は呆然するばかりで見た目麗しい青年の思うままに事は進んだ。しかし、今回は相手が悪かった。
相手は妖精の様に空を飛んでいるが、少年なのだ。少年なのだから歯に衣着せぬ様な物言いをするし、大人じゃないので穏便に行こうと言う考えも弱いと言える。
見た目麗しい青年は自分に口答えする人間を初めて見た故、この空飛ぶ少年を悪党だと思い込んだ。
だってそうであろう、貴種流離譚で主人公が身分を明かしても噛みついて来るのは悪党と決まっているのだから。
「ええい、さては貴様悪党だな!」
「殿下の仰る通りでございます!」
見た目麗しい青年は
貴種流離譚で主人公にあくまで食い下がる人物は
「何が悪党だよ! 勝手に他人を悪党と決めつけて武器を振りかざす、あんたみたいな大人の方がよっぽど悪党だろう!」
空飛ぶ少年もそう
「ええい、大人しく成敗されろ!」
「殿下の仰る通りでございます!」
「だーかーらー、俺は成敗されるような事はしてねーよ!」
見た目麗しい青年の身勝手極まりない言葉に少年は大いに怒り、
見事なまでに腹部に蹴りをもらった見た目麗しい青年は、島の上空から海の方へと蹴り飛ばされた。
何も驚く事は無い、この様なお話で子供をいじめる正当性の無い大人はこの様な目に遭う事が必然だ。さすがの異星から来た王子様も、このお約束からは逃れられない。
「一昨日来やがれ、ぺっ!」
少年は見た目麗しい青年が視界の外へと蹴飛ばされて行くのを見て、唾を吐いて言った。
見た目麗しい青年が落ちた先は、先程足蹴にした船の上だった。
お供の機械の鷹は
それだけならば良かったが、船員たちはガラの悪い悪人顔で、短筒を抜いたり剣を抜いていたりしており、一言で言うとその船は海賊船だった。
しかし
見た目麗しい青年は自身に危機が迫っていると悟るや否や、意識を
「まて、降参だ、降参する。今からあんたが俺達のキャプテンだ」
船長らしい海賊はシャポーを脱いで命乞いをし、見た目麗しい青年は満足げにそれを奪い取る。
その様子を見た海賊は、ゴマをする様な口調でお伺いを立てる。
「さすがお似合いです! それでキャプテン、今からあっしらは何をすればよろしいでしょうか?」
「決まっている、あの島へ攻め入るぞ。俺は
* * *
これから海賊船長となった跳躍力のすごい元貴族の黒髪の男と、妖精の様に空を飛ぶ少年との長きに渡る
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