第八十七夜『おかしな保護運動-sweet way-』

2022/08/07「海」「裏取引」「役に立たない中学校」ジャンルは「邪道ファンタジー」


 あるスーパーマーケットで暴動が起こった。

「ポテトの畑を解放せよ! ポテトの畑にも生活があり、家族がある!」

 そんな事を叫びつつ、暴徒達はスナック菓子を開封してぶちまけたり、或いはスナック菓子を奪って去って行った。

 この様な暴動は全国各地で起きていた。そんなまさかと思うだろうが、お昼のニュースでも話題になっており、ニュースキャスターも酷く困惑していてあちこちで話題だ。

「なんで連中はスナック菓子なんかに保護運動を行なっているんだろう?」

「あれはポテトの畑派の連中を貶める為に、トマトのハウス派が成りすまして行った狂言らしいぜ」

「マジかよ、トマトのハウス派の連中は本当に人間じゃないな」

 もうこうなると人の噂は止まらない、今度はスーパーマーケットでトマトのハウス派が暴動を起こすのではないか? と冗談交じりに言われるが、そんな事は無かった。何故だか暴徒が解放や保護を行なうのはポテトの畑なのだ。

「どうしてポテトの畑を食べるの? ポテトの畑だって生きているのよ!」

 こんなトンチキな事は狂言では言えない、いやそもそもスナック菓子の保護運動や解放運動なんてものがそもそもトンチキなのだ。あなたは正気で、誰か他人を陥れる目的でスナック菓子の拉致反対運動などと言う事が出来るだろうか? 出来ないだろう。

 恐ろしいのはこれらの運動を行なっているのが一人ではなく、あちこちの集団と言う事である。まるで集団ヒステリーが感染しているかの様な有様だ。

「ポテトの畑の保護を!」

「ポテトの畑の生育条件や保護区の整備を!」

「ポテトの畑を野生に返せ!」

 しかしそれでもこの騒動は規模を縮小しない、本当に感染しているかの様だ。どんどん雪ダルマ式に大きくなり、今ではポテトの畑解放前線と言う呼称がついている。

「ポロンとカトリーヌとチョビを放して! あなたはポテトの畑を何だと思っているの?」

「ポテトの畑に人権を!」

「トマトのハウスはトマトを詐称している! トマトのハウスはトマトを自称しているが成分の大半はジャガイモ由来のデンプン、トマトパウダーが心ばかりに使われているだけに過ぎない! トマトのハウスをポテトの畑から隔離かくりせよ!」

 最早ポテトの畑暴徒の間でも派閥が生じ、一枚岩ではなくなってきている。もう誰にもどうしようもない。

 そもそもこの様なトンチキな騒動は何が原因で起こったのだろうか? それは神仏でもなければ分からない。


 ある神社を二人の男が参拝していた。賽銭さいせんを入れてみたはいいが、はて、何を願えばいいのか分からない。何せ人間の欲望なぞ俗な物がたくさんあるのだ、願い事として念じる価値がある物はそうそう無いし、それを一つに絞れと言うのなら猶更なおさらだ。

 賽銭を投じた方の男がそう考えていると、もう片方の男と酷く些細ささいな事で言い争いになった。境内けいだいであり人の目もあったため表立って大騒ぎはしなかったが、それ故禍根かこんはそれは深く残った。

(何が『ポテト派はトマト派よりも情や懐が深い』だ! やれ、あんなバカな輩共やからどもには国中でバカを言わせておけばいいのだ。全く、これだからポテト派の連中は困る)

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