第八十六夜『報告、連想、想像-Seeing is believing-』

2022/08/06「おもちゃ」「風船」「見えない記憶」ジャンルは「ギャグコメ」


 ラーメン屋のカウンター席で男がラーメンを啜っていた。男の隣にはバスケットを下げた少女が座っており、少女は男に向って石弓を撃った。男は倒れて動かなくなった。

 少女は湖の底に勤務する鍛冶師で、そして死の商人だった。今日も湖の底で鍛えた剣や槍を売り歩く、そして今回の商談相手は全身鎧を着た集団だ。

「お姉さんお兄さん、時雨重工の新作、王様の剣はいかがですか? 今なら三万ネイで結構ですよ」

「おいおい、人間様をからかっちゃいけないぜ。俺はこれから西側諸国を滅ぼしに行くんだ」

「そうでしたか、こちらも神仏に仕える身の端くれ、無事を祈らせて下さいな」

 そう言われた全身鎧の代表者は長い祝詞を挙げ、そそくさと徒歩で戦地へ向かう。どうやら乗り物は苦手な様子だ。

 そんな鎧の集団の後ろからは妖怪後ろ隠れが、前からは悪魔の集団が訪れた。

「こんばんは、魂と引き換えに何か買っていってくれませんか? こちらの空飛ぶスーパーカーは人工知能や自動操縦もついており、言語機能が拙い以外は何の欠陥もありません。今ならミントの種子が一山ついていてお得ですよ!」

「それはいい、早速一つ頂こう」

 悪魔のセールスマンと商談が成立した全身鎧の人物はスーパーカーに乗って隣の星まで飛んでいった。どうやらその星は知的生命体から情報をすっぱ抜く事で知的好奇心を満たす生物が生息しているらしく、立派な個人用の宇宙船がたくさん並んでおり、触腕をせわしなく動かして何かを描いていた。

「おはよう、何をしているんですか?」

「何って締め切りが間近の原稿だよ、今日中に線画を完成させないと入稿が間に合わないのよ。脱稿が終わったら次の入稿、トレンドは次々変わるから今できる事は今の内にしないと」

「ふーん、それなら針治療はどうだい? 一発で全身生まれ変わったようだぜ」

 全身鎧の人物は自慢げにそう言うと、風船を使って森へ飛んでいった。森では鹿撃ち坊を被った男が虫メガネでしきりに地面を精査しており、全身鎧の人物が風船で飛んで来た事に気が付くと帽子を取って会釈した。

「こんにちは魔女さん、我が事務所に何の御用ですか?」

「死んだ恋人に会いに参りました。ここではそういうまじないの道具が売っているのでしょう?」

「それならば向こうのマンションの管理人さんの管轄です。陽が高い内に行けば間に合うと思うぜ」

「ご丁寧にありがとうございます、あなたたちもお礼を言いなさい」

「―――――!」「―――――!」

 全身鎧の人物に命令されて、モルモットのつがいは敬礼しながら鼻をひくつかせた。一人と二匹は懐から巨大な天球儀の様な装置を取り出し、中央の座席に腰を下ろすと瞬きする間に移動した。

 移動した先は広大な麦畑がすぐ横に見える集合住宅で、集合住宅から亜麻色の髪をした幼い女の子が出迎えてくれた。

「おはよう、おねえちゃん。なんのごよう?」

「はい先生、私は大蛇に死体を食べさせに来ました」

「ひどいことするのね、ごめんなさいは?」

「はい先生、ごめんなさい」

「わかればよろしい! これからはちゃんと、あさはおきるように!」

 鎧の人物は亜麻色の髪の毛の幼い女の子にたしなめられ、停まっていた幌付きの車に乗ってそそくさと走り出した。すると、車についていた液晶が鎧の人物に話しかける。

『冠婚葬祭なら春樹天主堂まで! 結婚式承ります!』

「それはいい、姉上もそろそろ身を固めるべきです。善は急げです」

「全く面白くない! 私は讃美歌にアレルギー持ちなんです」

 幌付きの車の助手席に座っていた外科医の男は自分の提案を否定されると悲しそうにし、鎧の人物は運転席から車の外へと転がり逃げた。幌付きの車は制御を失い、田んぼに落ちた。

 すると鎧の人物の周辺には半透明の人影が大量に居て、彼女を囲んでいた。

「おめでとう、我々は神だ。あなたは我々の列に加わる」

「それはいい! ボクの魂で良ければ二束三文で薄利多売してやってもいいぜ」

 すると鎧の人物は天へと昇って行き、その場には片目だけが残された。


 地球の上空に円盤が飛んでいた。いわゆる未確認飛行物体と言う奴で、乗組員として宇宙人が数人乗っていた。

「これが地球人の一日か。目が回る様なスケジュールだな」

「ああ、地球の報告書らしい文書を幾つか翻訳してみた結果こうなった」

「そうか、幾つかと言うのならば、これはその地球人一人の平均の一日と言う事だな。他の地球人はどうだ?」

「それも似たり寄ったりだ。ただ、死後記憶や意識を保って新しい肉体を得たと言う報告もあって、その報告と似た報告も多数発見した。それ以外は最初の報告書と似たような感じだ」

「なるほど、つまりこれらは地球人の平均と言っても間違いでないのか。全く、毎日の報告書を読むだけでも退屈しなさそうな生き物だな」

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