第八十四夜『覚妖怪に関しての知っている二、三の事-It’ll see you dead first-』

2022/08/03「火」「パズル」「バカなカエル」ジャンルは「王道ファンタジー」


 読心術を使う覚と言う妖怪が居る。読みは通常は「さとり」だが、「かく」とする資料もあり、ここではどちらでもいいものをする。

 そもそも覚妖怪とは元々なんなのか、一節によると中国のカクと言う妖怪がルーツだと言われている。中国の他にも美濃山中にも生息しており、自分を傷つける人間の心を察知して逃げ去ると言われている。

 これがカクではなく、さとりになると少々話が変わる。山中で出会った人間の心を読んで怖がらせ、場合によっては人間を取って喰うとも言われている。しかし、さとりも旅人も思いもしなかった焚火が爆ぜ、それにさとりはびっくり仰天、火傷を負って飛び上がって逃げ去り、結果として事なきを得ると言うのがさとりに関する民話である。

 この事から、覚や読心術への対抗策は意外の攻撃とされているが、それ以外の方法が考案されている。しかし、それらは大半がお粗末な物としか言いようがない。

 一つ、圧倒的な量の思考をする事で相手に考えを悟らせない。

 何を言っているか分からない。あなたは大衆食堂やカフェで相席している相手の声が聞こえないなんて事が普通あるだろうか? 周囲の人間がわざと耳元で叫んでいる訳でも無ければ、そんな事はそうそう無いだろう。周囲の声も聞こえるが、肝心の声は普通に聞こえるのが当たり前である。そんな対策法が認められたら、覚妖怪は人里で過ごす事も勿論出来ないし、山で虫や鳥や獣と暮らす事すらままならない。意識を向けた相手の心を読めるだけだと仮定しても、人間一人が頭をフル回転させた程度で音を上げるのであれば、棋譜を猛スピードで読む方がよっぽど脳のキャパテシティーに対してヘビーと言う物だ。

 一つ、異常な事を考える事で相手の困惑を誘発する。

 全く持って馬鹿馬鹿しい。人間は常にマトモで真面目な思考をしている訳で無いし、獣もどこに何を埋め、食事中に意識が別の事に向いて思考停止し、自分の寝言に驚いて目を覚ます。その様な獣の思考にも一挙一動呆然するなら話は分かるが、無為な事を考える事は人間の特権などでは全くない。

 覚や読心術に心が読まれようが関係ない手段で覚に対抗すると言う手段も多く見られるが、そもそも覚に心を読まれても関係ないのだからそれは覚対策ではない、詭弁である。

 覚や読心術を名指しで対策するなら簡単だ、悪意や殺意を無尽蔵に抱けばいいのだ、一度害しても二度害しても飽き足らず、七の七十倍回ほど殺す様を想像すればいい。人間目の色や言葉で殺意を示しただけで大騒ぎするのだ、心が手に取るように分かると言うのならば心で殺す殺すと示してやればよいではないか、何せ心の中で殺す殺すと唱えても罪に問われる事は無い。

 もっと言えば、現代社会では誰からも全く悪意や害意の対象にならないと言うのは不可能なのだ。道端の石や草ですら、人々から悪意や害意を投げかけられる、誰がどうして一切の悪意や害意を向けられないと言う事が可能だろうか?

 そう、丁度今のあなたの様に。

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