第八十三夜『天網恢恢疎にして漏らさず-Sun,Gazer-』

2022/08/02「黄色」「銅像」「燃えるツンデレ」ジャンルは「ミステリー」


 夏である。今年の夏は例年より酷く暑く、それこそ銅像に卵をぶつけたり石畳に卵を落としたら目玉焼きになるのではなかろうか? と、訳の分からない事を考える程度には酷暑であった。

 日中、それはもう黄色い太陽が殺人光線を照射しまくっており、体調が崩す人が出る事、火を見るよりも明らかと言わんばかりに注意報をマスコミが流す。

 しかしそれでも人は外出する。外出せねばならない者、興味本位で外出する者、酷暑を舐め切っている者、そして熱中症に陥る者、全くもって世も末である。ゆで卵は生卵には戻らない。

 しかし、この例年とは比べ物にならない突然の異常気象の中で、不思議な出来事が起こった。この暑さで意識をやられ、そして回復した人達の意識に変化が見られたのだ。

 この怪現象に遭逢した人物は、日中の間ずっと何者かに凝視されていると訴え、陽が落ちてからも何者かに覗かれていると主張をした。まるで犯罪者か、もしくは幻覚症状患者のような反応と言える。

 また、これらの症状を訴える人々はモラルの意識にも変化が見られ、社会規範であったり道徳だったりモラルに反する事に強い忌避感を持つようになり、それらに反する事を他人で行なった場合、言葉で諭し説得を試みる事が分かった。

 ここまで来ると熱で脳がやられたのでは無いかと疑わしいものだが、検査をして見たところ目立った異常は見られない。むしろ盲が啓けて見えないものが見える様になったと言った方が正しい風まである。熱で頭がやられた結果、常人には見えないものを感知できる様になり、今まで感知できなかったものに監視されていると恐怖していると言う仮説だ。

 モラルに関する意識改革は不思議だが、その感知出来る様になった存在が、自分が善人ならば襲われないと言う理解をする様な姿形性質をしていると仮定すればいいだろうか?

 これがホラー作品ならば、見えないものが見える様になった結果、暴動が起こりそうなものなのだが、逆に民度が良くなる様な言動をしだすのだから分からない物だ。

 こうなると、仮称見えない監視者に関する仮説や興味はムクムクと盛り上がる。

 見えない監視者のせいでモラルが向上したのだと言うのなら、見えない監視者は乱暴狼藉を働きそうな人の元に出るのだろうか?

 これはありそうな話だがしかし、熱中症で倒れた人々は皆口を揃えて見られていると発言するのだ。この仮説はお釈迦だ、大日如来だ。

 ではもっと単純に、軽率に準備無しに外出し熱射病にかかると言う社会悪を忌避し、日射病に対する恐怖から意識に変革が起こったと言う仮説はどうだろうか?

 モラル向上は広義であって、本意は日射病の予防に過ぎない。いやしかし、それでは陽が沈んだ後も監視されていると言う言葉があやふやになる。日射病を恐れる余りのトラウマと呼ぶには少々風変りに過ぎるし、しかも日射病で意識をやられた人々が口を揃えて言っているのが理解し難い。

「それで君は日射病にかかった後、どうしてそんなに人が変わった様に善い人になったんだい?」

 私は巷では非行少年で知られていた学生に質問する。そして帰って来た答えはこれだ。

「お天道様が見ていますからね、お天道様に顔向け出来ない事はしないと心に誓ったんですよ」

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