第八十一夜『出たり入ったりする話-the haunter-』

2022/07/31「月」「墓標」「おかしな恩返し」ジャンルは「悲恋」


 これは私が人づてに聞いた、いわゆる本当にあった話なのだが、S区のある場所には幽霊が出る。

 幽霊と言うのはつまりはホラークリーチャーであり、S区のその場所を夜にカップルで歩いていると出るそうだ。しかし、視線や呼吸音や足音を感じるのみで、これと言った目立つ被害がある訳では無く、ただただ気味が悪いと人通りが少なくなったり、逆に幽霊目当ての人達が訪れると言った他愛の無い心霊現象だ。

 その幽霊の人となりを私は知らないのだが、幽霊とは言うのはつまりは死んだ人間なので、生前から、或いは死んでタガが外れた結果、カップルをのぞき見したり、カップルを驚かせたりする事が好きと言う性質を持っているのだろう。全く、困った話だ。

 そもそも何故幽霊がカップルを襲ったり驚かせたりするかと言う話だが、例えばあるホラー映画の怪人はカップルに見殺しにされ、その結果溺死したためカップルを憎んでいる。もしかしたらこの幽霊も同じ様な怨みを抱いているのかも知れない。

 しかし、この話には続きがあり、先述のカップルに怨みを怨んでいると言う説はどうやら全く違う様だ。何でも、S区のその地域にアダルトビデオの撮影スタジオが建ってからは全く出なくなったと言うのだ。何でもその撮影スタジオで撮ったポルノ作品では、度々ポルターガイスト現象等の心霊現象が見られると言う。

 全く呆れたデバガメ幽霊である。カップルを襲ったり驚かせる積もりが無いならば、それはホラークリーチャーとは言い難いし、世の幽霊にはもっと心霊現象に励んでほしい物である。

 しかし、この話にはまだ続きがある。ある日、その撮影スタジオでスカトロ物の作品を撮ったところ、撮影中ついぞポルターガイスト現象は発生せず、それ以降心霊現象の類はパタリと起きなくなったそうだ。

 私はそのビデオを観た事は無いのだが、恐らくは一般人が観る分には、それこそ死ぬより辛い酷い絵面だった事は想像に難くない。

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