第八十夜『夢の簡単な時間遡行-live a evil-』
2022/07/30「過去」「兵士」「希薄な恩返し」ジャンルは指定なし
あるところに冴えない少年が居た。彼は軍学校に通っているが、先生からは「同じ事を何度も言わせるな!」と毎日の様に怒られる始末だった。
自分は軍学校に向いていないのだろうか? と思案するも、彼にとっては他に道に無かった。
「もしも今日をやり直せれば、今度はヘタをうたないのにな」
今の彼に出来るのは自室のベッドの上で無い物ねだりをするだけだ。
すると、自室の戸をノックする音がした。少年は心当たりがなく、また何かヘマをした為先生が寮の自室までやって来たのかと思って戸を開けた。しかし、そこに居たのは見た事の無いセールスマン風の真っ黒い服の男だった
「突然の来訪失礼します。あなた、今日をやり直したいと思っていませんか?」
「いや、突然なんですかあなた? 学校の関係者じゃありませんよね?」
「ええ、学校の者ではありません。ですがご安心を、わたくしこう言う者で、活動の権利はきちんととっております」
そう言ってセールスマン風の男は名刺を取り出して渡す。少年には書いてある肩書はよく分らなかったが、とにかくマーク商会から来たセールスマンと言う事は分かった。
「それでそのマーク商会のセールスマンが何の用ですか? 僕はあまり自由に使えるお金は持っていませんよ」
少年は警戒して言った、学校の敷地で許可を得てセールスをしていると宣う、教科書販売の悪徳セールスの話は先輩方から聞いているのだ。
「いえ、お代はいただきません。わたくし共は試供品やお客様の満足に力を入れており、もしも気に入ったらお代を払っていただく形で商売をしております故」
「はあ、それで今日をやり直したいと思っていないかってのはどう言う事なんですか? 明日の授業の内容を書いたあんちょこでも取り扱っているのですか?」
セールスマン風の男は少年の言葉を聞き、我が意を得たりと言った風にニヤリと笑った。
「それは少々異なります。わたくし共が本日提供するのは時間遡行、簡単に言うとちょっとした時間旅行です」
「時間旅行? 一体何を言っているんですか」
「まあまあ、見て下さい」
そう言ってセールスマン風の男は懐中時計を取り出し、針を動かす。すると部屋の時計がさかしまに動き出した。これだけなら電波時計を用いた手品と断定する事も出来ただろう、しかし窓から見える光景が夜から夕方に遡っているではないか!
「すげえ、これは一体?」
「時間遡行です。あなたは今日をやり直したがっていた、わたくし共は時間遡行を提供する。そうですね、あなたが眠って朝起きたら昨日になっていたと言う形でご提供しましょう。もしも気に入ったらいつでもリピーターになって下さい。よろしいでしょうか?」
「すごい、気に入りました。これで明日こそ先生から、何度同じことを言わせるんだ! と怒鳴られずにすいすい授業をクリアー出来る。ありがとうございます」
「いえいえ、気に入って頂けたようで何よりです。それではまたのご利用を心からお待ちしております」
それから少年は今日の授業を振り返り、今日の復習……じゃなかった、明日の予習をし、明日……ではなく今日に備えて早めにベッドに入った。
あるところに冴えない少年が居た。彼は軍学校に通っているが、先生からは「同じ事を何度も言わせるな!」と毎日の様に怒られる始末だった。
自分は軍学校に向いていないのだろうか? と思案するも、彼にとっては他に道に無かった。
「もしも今日をやり直せれば、今度はヘタをうたないのにな」
今の彼に出来るのは自室のベッドの上で無い物ねだりをするだけだ。
すると、自室の戸をノックする音がした。
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