第七十八夜『千の願いのジン-choose one-』

2022/07/28「電気」「ファミコン」「無敵の子ども時代」ジャンルは「SF」


 あるところにだらしのない少年が居た。

 性格は横着極まりなく、予習復習は勿論しない、うちに帰ってまずやるのはゲーム、ランドセルには全教科の教科書を入れっぱなし、お小遣いはあっと言う間に使い切るし、お菓子は一度にあるだけ食う、夏休みの宿題は八月下旬になってからやるし、読書感想文には口に出すのもはばかられる様な文字数稼ぎをロビンソン・クルーソー、即ち『自分以外の全員が犠牲になった難破で岸辺に投げ出され、アメリカの浜辺、オルーノクという大河の河口近くの無人島で28年もたった一人で暮らし、最後には奇跡的に海賊船に助けられたヨーク出身の船乗りロビンソン・クルーソーの生涯と不思議で驚きに満ちた冒険についての記述』で行なう。

 一言で言って、とんでもないガキである。


 そんな彼だが、河川で遊んでいる際にある物を見つけた。

 中東の伝承に出て来る様なデザインの金のランプだ。

 彼はもしやと思い、そのランプを持ち帰って部屋で擦ったところ、伝承に違わず魔神が中から出て来たではないか!

「解放してくれてありがとう、私はランプの奴隷です。私を解放してくれたお礼に、何でも願いを千回叶えてあげましょう!」

 何と言う事だろう、ランプの魔神はなんと何でも願いを千回叶えてくれると言ってのけたのである。

 こうなると小狡い少年は最後の方で願いを増やして欲しいと言えば良いと画策し、千回も願いを叶えてくれると言うのならば、思いつくままにケチな願いでも叶えてもらえばいいと考えた。

「よし決めた、担任の先生の頭を一発殴ってきてくれ。先生ったら、お前は他人の二倍ダメなのだから他人の二倍頑張りなさい。とか言って、僕に一日の宿題を他のみんなの二倍出すんだぜ? しかもまだ授業でやってない場所を! 一発痛い目に遭ってもらわないと気が済まない」

「はい、分かりました。では行って参ります」

 そう言うと魔神は部屋の窓から飛んでいった。

 先生を殴って欲しいと言う願いをランプの魔神に叶えてもらうだなんて、こんな贅沢ぜいたくがあるだろうか? もっとも、願いの数は千回もあるのだ、何の問題も無い。

 魔神が帰ってきたら、次は何を願おうか? 新しいゲームを遊びたいし、美味しい物をたくさん食べたいし、お金持ちにもなりたい。

 何にしろ、魔神が帰って来るのが楽しみだ。

「ただいま戻りました」

 そう魔神が帰還を告げる声を告げ、少年は早速二つ目の願いを言おうとした。

 人の欲に再現は無いし、それは少年であっても変わらない。しかし、魔神は少年の言葉を遮って告げる。

「約束通り願いは千度叶えた、それではさらばだ!」

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