第六十夜『盗作のすゝめ-Prometheus-』
2022/07/09「雑草」「時間」「無敵の主人公」ジャンルは「大衆小説」
・バレたら困るのはパクリ。
・バレないと困るのはパロディ。
・バレたら嬉しいのはオマージュ。
盗作ばかりしている、あまり感心できない男が居た。
彼が盗作するのは主にクラシックやモダンクラシックだ。発表されたばかりの作品を盗作してもすぐに露見するし、発表から五十年以上(勿論戦時を数えないで、だ)経過した物だけを狙えば、仮に露見しても、やれパブリックドメインだ、やれこれは古典のパスティーシュだ、と言い訳がし易いと言う寸法だ。
しかし彼の作品は古いし、アレンジが効いてないし、手垢がついたネタだしで、若者にウケない。彼はアマチュア作家だったが、成績は鳴かず飛ばず、ランキングは振るわないし、コンテストに送っても審査員も現代人なのだから、うんともすんとも言いはしない。こういう作家には固定客が居て、固定客以外は閑古鳥と言うのがよくある筋書きだが、彼にはそれすらなく、炉端の雑草程の知名度も無かった。
そんなこんなで、幸か不幸か彼の盗作はバレず仕舞いであった。しかし彼は不満でいっぱい、炎上上等、悪名は無名に勝る、自分の本が読まれて盗作を指摘されるのであれば願ったり叶ったりだ! その為に古典やクラシックばかりを盗作しているのに、これでは余りにも無味乾燥だ。
しかし盗作だってカロリーが必要で、入力が要る。あの古典では駄目だったのだ、こっちのモダンクラシックはどうだろう? そのクラシックならひょっとして……そうだ、いっその事神話から丸パクリしよう! と彼は懲りる事を知らず、動機不純な勉強を繰り返す。
ある日の事だ、彼は夢を見た。彼は心のどこかで盗作を大勢から指摘されたい、そして自分の作品を読んで欲しいと承認欲求を募らせていたのだろう、夢の中には十数の神々が出て来た。
繰り返すが盗作とは最低限の読書量が必要で、そして彼は盗作を繰り返している。しかも、盗作する作品はくどい様だが古い作品ばかりだ。故に夢の中で彼が作ったか、はてさて彼の夢の中にお邪魔したか定かでない神々は名のある神々であり、彼もまた夢に出た神々の事を知っていた。
あの犬の顔をした神はあの世の神か、こっちには目隠しをした正義の女神が三柱居るし、そっちには眼帯をした戦死者の神、向こうで鏡とやっとこを持っている死者の神は一柱だけでは気がすまないのか十柱一組でお越ししている。
なるほど、ここに居る神々はあの世と言う
神々は自分なりの方法で彼を問い詰めようとするが、彼は元より盗作が露見する事を暗に望んでいたのだ、神々は折角持ち寄った鏡だ秤だ帳面を出す機会も無く判決を言い渡す。
判決は下り、
彼はウェルギリウスに導かれるダンテの様に、神々に引きずられて地獄の刑罰を見る事となった。それはもう、この世の物とは思えぬ地獄絵図だ。
浸かると苦痛を感じる赤い水に沈められる者、魂を地獄のワニの餌にされて消滅する者、肉体を失った魂だけの存在で檻に幽閉され続ける者、非常に重そうな金塊を空役の様に運んでは戻す者、人体が燃え上がる岩戸に投げ入れられる者や、逆に氷漬けにされつつもこちらへ視線を向けている者、何も見えない暗闇の中でただただ何かを啜る音がするだけの空間へ投げ込まれる者など、罪状別に様々な光景を見せられた。
これに
こう言う事は往々にして稀にある。あの世だとか裁判だとか裁きをなんかを司る神々が、生きた人間を
しかし彼は汗びっしょりで、釘を刺されて脅されていたが、その心は晴れやかだった。
俺にも見てくれているファンが居たのだ! それも一人ならず! しかも誰もが知っているビッグネームが! 早速次の作品を書かなくては!
彼は次の作品を書くべく、本棚を漁り始めた。
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