第四十三夜『夜、口笛吹けば-manticora-』

2022/06/22「森」「笛」「最後の廃人」ジャンルは「偏愛モノ」


 二人の青年が山の中、重そうな荷物を運んでいた。時刻は夕方、まだ充分明るい時間帯だ。

「なあ、夜に口笛吹くと蛇が出るって言うけどさ、あれ何でだ?」

「ああ、あれな。昔は電灯なんて物は無いから、夜になると外は真っ暗になるんだ。それこそすれ違った相手の顔も見えない位な」

「ふんふん。まあ昔からある言い伝えなら、そう言う事もあるな」

「で、こっからが本命なんだが、口笛は笛の一種だから、人間の時間じゃない時に笛を吹くと霊とか悪魔を呼ぶって言われていたのさ」

「なるほど、な。逆に外も碌に見えない闇夜にピーヒャラピーヒャラ笛が鳴ってたら、俺なら恐怖を覚えるかもな、それこそ理解できない存在が潜んでいるんじゃ? って気になるぜ」

「それで夜に口笛を吹くと邪悪が出る、転じて蛇が出るって言われてるのさ。分かったかな?」

「ああ! わかりました、せんせー」

「で、突然蛇の話をしたのは何でなんだ?」

「いやさ、この山って地元の伝承でオロチのバケモノが出てたって言うだろ?」

「ふむふむ!」

「それで調べてみたら、この山ってば人の手があまり入っていなくて、それでいて行方不明者がちょくちょく出ているのよ。」

「なるほどなるほど!」

「因みにこれは与太話……いや、蛇足なんだが、この山に足を踏み入れた人の中には、嘘か誠か、人を丸呑みしそうな程バカデカい大蛇を見たって言いふらしている奴もいる訳よ」

「ツーツーカーカー」

 二人は運んで来た重そうな荷物を山の奥に置いた。まるで人が一人倒れたような、重い音がした。

「ここでいいかな?」

「まあ、見つかりにくい事は確かだろうな。獣道だし、山頂からも見えなさそうだし」

「丸呑み、してくれるかな?」

「さあな、俺は虫とか土とか微生物のお世話になると思う。少なくとも死人は口笛を吹かないからな」

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