第二十四夜『神様のお客様-Path to Exile-』

2022/06/03「島」「彗星」「歪んだ記憶」ジャンルは「童話」


 ある島に彗星すいせいが落ちて来た。その彗星は死んだ星の欠片で、つまりは星そのものであり、即ち星の神でもあった。

 彗星は落ちて来た島で盛大に歓迎された。その島には既に神々が多く居たため、人々は驚きもせずに素直に喜んだのだ。

 新しい神様はどんなところから来たのですか? 名のある神様の御子息なのですか? 元居た場所では何の神様をしていたのですか?

 人間達にそう矢継ぎ早に質問され、彗星は満更でも無かった。何せ星が死んだ後、幾千光年も闇ばかりの宇宙を旅して来たのだ、人恋しい等と言う言葉では表現しきれぬ。

 彗星は元の星を知る者は居ないのをいい事に、自分の出自や経歴を少々誇張こちょうして人間達に話した。すると人間達も宇宙の向こうの話に感心してもっともっとと要求するし、神酒みきなど貢物みつぎものもどんどん持って来るわで、彗星は気を良くしてもう少しだけ誇張を、もう少しだけ誇張をと、雪ダルマの如く助長した。

 これを面白くないと思ったのは元から島に居た神々だ。何やら訳の分からぬ闖入者ちんにゅうしゃがホラを吹いてはちやほやされるのだ、これが面白い訳がない。

「いやいや、謙遜けんそんする事はありません。新しい神様のご活躍はそんな物ではない事をわたくし共は存じております」

 嘘の神は逆に面白がって彗星を持ち上げる。それを見た真実の神は嘘の神以上にその様子を面白がって、鏡を覗き込みながら秤とやっとこをみがき始める始末。

「新しい神が居るなら私は要りませんね」

 と、太陽の神は顔を伏せ、騒動はますます大きくなった。

「太陽の神が戻らないならば、わしが雷を落としてこれをいてしまおう」

「いいや、それではぬるい。俺が四肢を裂いて、自らの力では起き上る事すら出来なくしてくれるわ、ワハハ!」

「私にも一枚噛ませてください。バラバラにした体は私が踏んづけて、身動き一つとれなくしてしまいましょう」

 神々がそう言うと、彗星に雷が落ち、嵐に揉まれ、火山に呑みこまれてしまった。

 誰だって新参がちやほやされたら面白くはないのだ、度を越えたデカい顔などするものではない。それが例え神様であっても。

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