第十七夜『お気に召すまま-Commentarii de Buono Gallico-』

2022/05/27「島」「いけにえ」「新しい物語」ジャンルは「SF」


 円を描くように並んだ石の中央に、どこから来たのか茶色く節くれ立った茶色い人が立っていた。

 人間と呼ぶには大き過ぎ、巨人と呼ぶには小さ過ぎる背丈で、左目があるべき場所には何もなく、眼窩がんかは右目の分一つしかなく、その右目も赤い光を宿した水晶玉の様。顔に口は無く、腹部には人一人呑みこめそうな大口が付いていた。

 茶色い人は近隣の村の家々を巡り、何かを要求する様に手を出した。誰も茶色い人の言葉は分からなかったが、態度から何か食べ物を要求している事は理解した。

 これには村の住民も大いに肝を潰した。何せ戸を開ければ茶色い長身の怪人が腹に空いた大口を開けて、食べ物を寄越せと身振り手振りで要求してくるのだ。断れば何をしてくるか分かったものではない。

「これは私の頭です」

 ある者は肉の詰まった饅頭まんじゅうを渡して命乞いをした。

「これは私の君主の血と肉です」

 ある者は酒とパンを渡して命乞いをした。

「わたしのこどもをあげるから、たすけてください」

 ある子供は布と綿で出来た人形を渡して命乞いをした。

 茶色い人は手渡された品々を一瞥いちべつすると腹部の大口で丸呑みにし、村の裕福そうな家々を巡り終わって満足したのか、村から去って行った。

 村の人々の半分ほどは茶色い人を恐れて家に閉じこもった。村の人々の半分ほどは茶色い人が何者なのか調べるべく、それの後をつけた。

 その人達が見たのは、並んだ石の中央へ移動し、天を仰ぎ自然発火か、はたまた焼身自殺か自然に燃え始めた茶色い人だった。茶色い人が呑みこんだ品々は村の人達の手に戻る事は無かった。跡に残ったのは茶色い人の右目だけだった。


 星の海に船が浮いていた。船の中に居るのは調査員で、青い星についてあれこれと報告をまとめんとしていた。

「これだけ調査すれば十分でしょう、ここで一区切りとしましょうか」

「そうだな。飢えた異邦人に食料を提供してくれる善良な住民が居たのは、我々にとっても幸運だった」

「おかげで文化水準の情報も円滑に集まりましたからね、毎回こんな楽な仕事ならばどんなにいいか」

「なるほど、火を起こし発酵を促すだけの文明があり、麦や獣の肉に果汁、それから綿や獣の毛を好んで食す、と。これなら我々の手でも手に入る代物だし、青い星の食事も再現が可能だな」

「私も丁度そう思っていたところです。どうでしょう、もう一度調査用無人歩行機を遣わせて、青い星の人達に私たちから感謝のごちそうをするというのは」

「それはいい! 調査が一区切りついたのだから祝杯をあげねばならないし、この調査の最大の功労者は彼らに違いないからな」


 その後、茶色い人から村へ晩餐ばんさんのお誘いがあったが、村の人々は誰一人応じなかった。

 理由はいろいろ考えられるが、船の調査員達はただただ首を傾げる他なかった。

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