第十三夜『僕らの学校を守れ!-egoism-』

2022/05/23「人間」「レモン」「最強の小学校」ジャンルは「ギャグコメ」


 自由研究に使おうと思っていたレモンの木が荒らされていた。ちょうどいい具合に緑色の実が実っていたのに、気分は最悪だ。

 レモンの木の実は地に落されて地面で虫がたかっており、オマケに葉っぱも滅茶苦茶に落されている。連休中に校庭に入って来た何者かの仕業か? まだじゅくしていない実が地面に落されているに、害獣がいじゅつ仕業しわざとは考えづらい。

 折角人がクソ熱い中わざわざ校庭まで観察かんさつしに来たのに、こんな事をする奴が居るとは心の底からムカッ腹だ。

 仕方が無いと俺は観察対象を皆が飼っているウサギに変えようとウサギ小屋に足を運ぶが、様子がおかしい。校庭のケージの中のどこを見てもウサギが居ないのだ。

 ウサギが逃げ出したにしてはケージの中が掘り荒らされていると言う事は無く、ケージがへし曲げられてウサギの姿が消えていた。

 これはいよいよもっておかしい、何か俺に怨みを持つ人物が学校中の動植物をダメにしているのではないか? と俺の中で疑惑ぎわくが泡のように湧いては消えた。しかしウサギが消えるのはただ事ではない。連休中で教師が居ない今、俺は俺に出来る事を調べるべきだと思い、実行に移した。


 犯人は案外すぐ見つかった。校庭の裏山側のフェンスに、黒くて毛むくじゃらの何かがうごめいていた。その黒い毛むくじゃらの何かが、みんなのウサギをまるでモズが食べ物を木に突き刺すようにフェンスに刺していたのだ。ウサギは外敵がいてきに対して暴れる事があっても声を挙げる事は無い為、発見者もおらず悠々と餌食えじきにされたのだろう。

 俺の目にはその黒くて毛むくじゃらの何かは動物図鑑ずかんで見たアイアイに見えたが、その黒くて毛むくじゃらの何かはアイアイよりも一回り以上大きく見えた。

 俺が串刺しにされたウサギと黒い毛むくじゃらの何かを見て呆然していると、そいつがウサギに前肢をかけたままこちらを振り向いた。皿のように丸く黄色い目、赤い黒で形成された地獄の様な顔、虫か猛禽類もうきんるいに近い形状をした悪魔の様な指と爪、どことなく狂暴な肉食の獣を思わせる鼻と口、恐ろしさと凄惨せいさんさを満遍なく全身に充たした黒くて痩せこけたサル!

「ヒサルキだ……」

 俺がそいつの名前を言ったからか定かではないが、ヒサルキはウサギなどどうでもいいと言わんばかりにこちらへ飛び、地をって近寄って来た!

「テメエエ! お前が! 俺の自由研究を! 絶対に許さん!」

 俺はベルトのスイッチを思いっきり叩き、その瞬間ベルトから飛び出したナノマシンが全身を這ってよろいを形成! 頭部には骸骨がいこつの如き白いフルフェイスのかぶと! 首には犠牲者ぎせいしゃの血の色を表わす真っ赤なスカーフ! 胴体には動きを阻害しない黒と青のプロテクターに、車一つを持ち上げる膂力を実現する人工筋肉! 腕には瓦礫がれきや障害物を物ともしない強化フレーム! 両手には感覚をスーツ全身へと送るセンサーグローブ! さらに脚部きゃくぶには人体の最大パフォーマンスを実現し、何倍にも飛躍ひやくさせるパワーユニット! ブーツには地面をる力を、摩擦まさつをゼロにする反地面機構はんじめんきこう

 この間、一秒の十分の一。例え秒速四百メートルの弾丸も四十メートルしか飛ばず、一秒に十の悪事をはたらける存在でもなければこの隙を付くのは不可能!

「コープスライダー見参! 小学校の動植物をいたずらにあやめる妖怪め、貴様はこの俺が絶対に許さん!!」

 ヒサルキは俺が突然全身鎧姿に変身した事を全く意に介せず飛びかかって来た! 俺はふところから棒鞭ぼうべんを抜き、これでヒサルキを叩き落とす形で振るう! しかし、ヒサルキを叩いた感触は油分たっぷりの動物の毛皮のそれで、棒鞭は滑って力が入らなかった。

 ヒサルキが猿叫を挙げながら再び俺の顔に飛びつく! 俺は間一髪でこれを蹴りを入れたが、ヒサルキは余裕綽々と言った様子で、四足の姿勢のままで舌なめずりしながら様子を見ている。お前が武装しようが、俺にとってお前はレモンの実やウサギと同じだ。そう言っている様だ。

 その時、ヒサルキが身震いをし、小型のサルに毛が生えた程度の大きさだった体躯が植物の成長の早送り映像みたいに大きくなった。もはや自動車並みの大きさで、こちらを狩りの対象だと言わんばかりにニタニタ笑いを浮かべながら威嚇をしている。

「それがどうした」

 俺は肥大化したヒサルキの顔面に飛び蹴りを入れ、毛皮に覆われていない額に棒鞭を突き刺した。

 ヒサルキは姿同様この世の物とは思えない叫び声をあげ、肥大化した反動だろうか、その醜悪しゅうあくな体を爆発させた。

「これで学校の平和は守られたな」

 俺がそう独り言をつくと、うしろから具足かスキーブーツで走るような金属音が三人分聞こえてきた。

「コープスライダー、あの爆発はまたしてもあなたの仕業か」

 三人分の足音はレンジャースリーを名乗る自警団じけいだんだった。三人ともフルフェイスの全身スーツを着ていて素性は定かではない。声もボイスチェンジャーを使っているのか、誰だと断定できず、正体は俺にとっては全く不明。もとい、顔を隠して活動している人間の正体を探るのは、俺は失礼だと思う。

「遅かったな、レンジャースリー。もっとも、あなた達が出る程の強敵でなかっただけだ、気にする事はない」

 俺は多くを話すのは様式美に反すると考え、鎧に仕込んである端末を操作して二輪車の自動操縦じどうそうじゅうを起動、レンジャースリーに断りを入れて校庭を後にした。

「ヒサルキにダメにされた自由研究どうしようかな……」


 ある学校の校庭で生徒らしき男女三人が話し合ってた。三人はクラスで何か同じ班に所属しているのか、親しげかつ真面目に話し合っていた。

「手柄取られちゃいましたね、またしても」

「僕らは手柄目当てに活動をしている訳じゃないだろ、そう言う態度はあっちにとっても迷惑だと思うよ」

「しかし独りでよく戦ってんねーあの人。私らには同じ事しろって言われてもムリと言うか」

「いいんだよ、僕らは力を合わせて助けを求める人のために戦っているんだ。それが一般人でもコープスライダーさんでも同じ事だよ」

「しかし独りで悪と戦えるってどんな気持ちだろうな? 俺らとは違うと言うか」

「さあね、でも独りで悪と戦ってるんだ。きっと我欲で力を振ったりしない、無私で戦う善人に違いないよ」

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