第十一夜『生存者の記録-dead on Commedia-』
2022/05/21「地獄」「迷信」「禁じられたトイレ」ジャンルは指定なし
僕は怪談が嫌いだった。別に怖いとかそう言う事ではない。あんな馬鹿馬鹿しい物は無いと思っているからだ。
クラスの連中は楽しげに怪談がどうの、怖い話がどうのと話しているが、何が面白いのか全く分からない。何せ全ての怪談がそうだとは言わないが、大抵の怪談は語り部や目撃者が死ぬか殺されるか行方不明になるからだ。全くもって馬鹿馬鹿しい。
「これは本当にあった話なんだけど……」
ほら、出た! まーた本当にあった話だ。そこはせめて友達の友達から聞いた話とでもしておけ、同じ
「……という訳で、その人は怪人に殺されてしまったんだってさ」
だから一話完結の中に明確な矛盾点を盛り込むな。それならその人に関する話はどうやって伝わった? オチは恐ろしさのあまり気絶してしまい、怪人は最初から夢の存在だったのだ。とでもいった方が
「へえそうなんだ、怖かったー」
僕は色々と思うところがあったが、ここで水を差すのははっきり言って輪を乱す行為だからやめた。もっと言うと、そう言った攻撃的な批判は『ならお前はもっと面白い作品が出来るのだな?』みたいな
クラスの連中は楽しげだった。怖かっただの面白かっただの互いに言い合っている。僕にはそれが本音か
だから僕が乗り込む。ターゲットは怪談の舞台にされている近所の
廃墟は2階建てのアパートメントっぽい建築物で、埃っぽくて
居住施設としては、ガラスは割れてたり地面に破片やら何やらが飛び散ってて
僕は放置されて生い茂った草ぼうぼうの
怪談の舞台になっているのは二階だ。周囲からは一階の様子は
曰く、この建物で女性のバラバラ殺人が起こって、今でもバラバラになった女性の肉体はアパートメントの二階をさ迷っているとか。よくある怪談だ、そしてまず警察を呼べ、しかし
僕はそんな事を思いながら二階へ上り、正面の壁を見てぎょっとした。
『わたしはこのへやのなかにいるよ』
赤色で、
僕は赤い文字を指でなぞる様を
部屋の中に入ると、想像を絶する足の踏み場の無い汚い廃墟の中に赤い文字が奥の壁に書いてあった。
『わたしはひだりにいるよ』
僕は荒れ放題の室内を足で無理やりかき分け、壁の指示通りに進んだ。
『あたまはひだり からだはこのおく』
相も変わらずゴミだらけで歩きにくい部屋を無理やり進む。これを書いた奴は怖がらせる目的で以て全部ひらがなで書いたのだろうか? それはそれとして読み辛いから句読点や改行くらいはちゃんと書け、どんな文章でも読んでもらえなかったら0点しか
とりあえず僕は壁の文字が先に書いてある頭があるらしい左へ向かう。指示の先にあるのは個室だった、恐らくトイレか。
個室の扉の開閉を
『わたしのあたまはこのうえだよ』
なるほど、トイレの上に棚か屋根裏か何かがあって、そこに
「わたしのからだがうしろからきてるよ ふりかえらないでね」
棚の中から声がして、反射的に振り返ってしまった。喉が枯れ、胃が締まり、心臓が早鐘を打った。扉の外、部屋の奥に確かに頭の存在しない女性がこちらを見ていた、頭部は無いが確かにこちらを見ていた。死者がうごめき、立ち上り、言葉も無し、表情も無し、まるで奇妙な夢の様に
逃げなくては! しかし足が言う事を効かない、無理矢理足を動かしたら縺れてその場に崩れてしまいそうだ。女はこちらを見ているような素振りをしていたが、こちらを存在しない目で凝視した後にゆっくりと近づき始めた。
やばいやばいやばいやばい! 足よ動け! 息が
こちらに近づいて来ているだろうバケモノ女の行進は、バックグラウンドミュージックに何やら口笛が聞こえてきた。棚の中に居る頭部が嬉し気に舌なめずりをし始めたのか、もうおしまいだ。せめて一矢報いてやろうと僕は目を開いた。
男が居た。中世ヨーロッパが舞台のファンタジーに登場する流しの詩人の様な後ろ姿だった。男はギターの様なシタールの様な
「おいお前、運が悪かったな」
男は僕の方を見て言った。怒るような素振りではない、皮肉でも何でも無く言葉通りの口調だった。
「人を驚かせて満足する霊ならば俺は相手をしない。だがお前は別だ、消え失せろ。」
そう言うと男は抱えた楽器を鳴らし始め、それに呼応したのか女の身体は走り始め、棚の中から女の頭が飛び出した。
「無駄だ。俺を誰だと思っている? 年功序列と言うやつだ。」
男がそう言いながら楽器を鳴らすと、女の頭部はその場に落ち、女の身体もその場にうずくまった。
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男が歌い終わると女の肉体は
「お前、どこから紛れ込んだが知らんが、ここはもう大丈夫だ。最早ここは地獄じゃない」
男は僕に振り向き、手を差し伸べた。言い方はぶっきらぼうだったが優しさが感じられる声で、僕にとっては正しく救いの手だった。
「二度とこんな目に遭いたくなかったら
クラスで休み時間、怪談話が聞こえる。最後には語り部役が死んでしまう下らない怪談だ。
昨夜の出来事は、カメラで撮っていた映像は原因不明のクラッシュでダメになっていたが、僕は彼と出会った日の事は鮮明に覚えている。地獄に近づくな、
「その話が終わったら僕も混ぜてくれよ、とびっきりの本当にあった怖い話をしてやるからさ!」
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