第二夜『低俗深夜三流報道-STAY TUNE!-』


2022/05/12「月」「中学校」「テレビ」ジャンルは「偏愛作品」


「これが深夜の高揚感こうようかんの力だ!!」

 テレビに映った俺はスタジオでそう叫び、全裸になって自慰じいを始めた。しかも愛用の書籍とゲームの感想や使用感を丁寧懇意ていねいこんいに口頭で説明しながらというオマケつきでだ。

 無論俺はそんな事をした覚えはないし、生まれてこの方テレビ局やら何やらに訪れた事もない。

 こんなふざけた捏造報道ねつぞうほうどうは観る価値が無い! そう心の中で叫びながらテレビの電源を落としたが、テレビはそれでも報道を止めない。

 それからもう恐慌状態きょうこうじょうたいだ。俺はテレビのコンセントプラグを引っこ抜いたが、それでもテレビは止まらない。俺は恐ろしさが止まず、テレビに覆いをして布団を被って耳を塞いで縮こまった。


 事の経緯はこうだ。クラスで仲のいいグループが他愛のない事を駄弁っている。曰く、古物商で見るようなデカくて四角いテレビを使えば、満月の深夜三時に誰も知らない本当の本物の真実がテレビを通して見えるらしい。

「本当の本物の真実ってなんだよ、都市伝説の常套手段的じょうとうしゅだんな滅茶苦茶怪しい売り文句じゃないか」

「まあまあ、作り話だとしても作り手の意図ってのはある訳で、この話を作った人はどんな内容を想定していたのかは興味があるな」

 名前は出さないが、俺の隣の席の男子生徒がなだめる様と言うより、自分の言いたい事や知りたい事を主張する様に言った。

「本当の本物の真実ねえ、大統領暗殺の真実とか?」

 隣のクラスの、要領と頭が良くて突飛なバカな友人が言った。なるほど、それは夢のある話だ。

「いや、もしかしたら未成年犯罪の実名報道とか?」

 そりゃ夢の無い話だ。そんな話で自分の案を上書きするな。

「でねでね、こっちからがこの話の肝要なんだ」

 言い出しっぺの女子が俺の方を向いて言った。

「電源が入って何も受信していないテレビの前で言うの『太尾露姿ダオロス様、太尾露姿様、私の盲をひらいてください。』って」


 こんな話を試すんじゃなかった! 何が本当の本物の真実だ! 俺の痴態ちたい(それも冤罪えんざいだ!)が映っているだけじゃないか!

 当然これを話した連中は全員が全員かは知らないが、同じことを試した奴も居るだろう。つまり学校中に俺の痴態が知れ渡っている。かと言ってずる休み、もっと悪ければ転校でもすれば、(可哀想に、あんな事があったんじゃ仕方ないね)と思われてしまう!

 俺は意を決め、明日グループの連中に何を観たか問いただし、何とも思っていない事、何も無かった事、そして口外させない態度を取ることにした。


 展開は予想と真逆だった。

 グループ全員が何も話したがらない。或いは何も観なかった事にしたい風の態度で居た。それも俺に対してでなく、グループ全員がグループ全員に対してだ。

 オマケに言い出しっぺの女子はどうやらズル休みをしているらしい。俺には彼女が観たくない物を観て心に傷を負ったように思えた。

 俺はあの忌々いまいましい報道番組について調べる事にした。内容から所在、噂の出所や視聴者のその後に至るまで。

 しかし結果は殆んど梨のつぶて。調査をすればするほど全く異なる情報が出て来て、結果として調査が無駄になる様だった。まるで全貌ぜんぼうが掴めない。

 一つ共通しているのは、二度報道を観ては絶対にいけないと言う事だけだった。曰く視聴者は口をきけなくなるだの、正気を失うだの、もしくは今は刑務所に居るだの、死んでしまうとか、その情報もバラバラだった。

 全くバカげてる! 口がきけなくなるだけなら筆談でも何でも俺に真相を教えてくれればいいだろう!

 こんな嘘っぱちのインチキ報道にこれ以上バカにされてたまるかと、俺はもう一度あのふざけた捏造番組を視聴する事にした。


「うるさい! こんなものは全部まやかしだ! 死んでしまえ! お前! お前が! お前だ!」

 俺らしき人物は右手を黒く四角く肥大化させて、スタジオのキャスターらしき人間をその拳で撲殺していた。

「ふざけるな!」

 俺はテレビを殴った。手が痛いだけだった。

 もはや堪忍袋が完全に四散した。

「こんなもの! こうしてやる!」

 そうするのが最善かは知らない、俺はテレビを窓の外へと投げつけてやった。


 道の端でレトロなテレビが横になって落ちていた。

 テレビの脇で人が頭を打って死んでいた。

 テレビは画面がひび割れ、コンセントと繋がっていなかったが、報道を静かに流し続けていた。

「本日東京地検はアメノ アルキ被告15歳を殺人の罪で起訴。アメノ被告は通行人を凶器で殴り殺した罪に問われており、被告は錯乱した様子で殺してやると頻りに叫んでおり……」

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