第一夜『心ない橋-Hurtless Crew-』

 22/05/11「橋の下」「バカみたいな選択」「間違った未来」ジャンルは「暗黒小説」


「こちら中央都市ロムルス、応答せよ」

「こちら中継都市レムス、どうぞ」

「上からの意向で、あの橋のプロジェクトは凍結することになった」


 連絡で言うところによると、俺が担当していた橋の建設は今ある建築材料で出来るだけやって、残りは別部署へ引き継げとの事だ。

 別に開放感は無かった。強いて言うなら、悔しかった。あの橋は俺にとってライフワークであり存在意義だった。それを別部署が引き継ぐのはいい、ただただ俺の中には寂寥感せきりょうかんがあった。

 加えて今ある物資は明らかに不足している。連絡の言う事には一睡もせずに作業にあたり、物資が尽きるか期日になるまで働き続けろとの事だ。

 やってやろうではないか。


 赤い土が見渡す限りどこまでも続き、その中央には俺達の手による作りかけの橋がある。この橋があの都市とその都市をこれから繋げる。

「資材、完全に無くなりました。後は引き継ぎを行なうだけです」

 そう言う同僚の目は目線こそ真っ直ぐだったが、俺には感覚器としての機能を放棄したガラス玉か何かの様に感じられた。

 俺は魂が抜けた様になっている同僚と、尻切れトンボの様相の橋を見比べて、そして、

 俺は同僚の頭部を引きちぎった。

 同僚だった物が倒れ、飛び散り、直してやらなくては! と本能が言った。しかし、これでは助からない事、何よりも仕事を完遂しなくてはと言う思考が勝った。

 俺は同僚だった部位と言う部位を資材に建築を続けた。資材はすぐに使い切った。

 俺は同僚の頭部を引きちぎった。俺は建築を続けた。俺は同僚の頭部を引きちぎった。俺は建築を続けた。俺は同僚の頭部を引きちぎった。俺は建築を続けた。俺は同僚の頭部を引きちぎった。俺は建築を続けた。俺は同僚の頭部を引きちぎった。俺は建築を続けた。俺は同僚の頭部を引きちぎった。俺は建築を続けた。俺は同僚の頭部を引きちぎった。俺は建築を続けた。俺は同僚の頭部を引きちぎった。俺は建築を続けた。俺は同僚の頭部を引きちぎった。俺は建築を続けた。俺は同僚の頭部を引きちぎった。俺は建築を続けた。俺は、

 俺は自分の足を引きちぎった。

 既に引き継ぎの報告は完了している。何も問題は無い。俺は建設を続けた。この橋は俺の存在意義なのだから。


 中央都市ロムルスで二人の人間が話していた。建設事業の過去と現状とこれからについて話していた。

「それでどうなったんですか? その話の続きは?」

「ああ、その橋なら解体されたよ。勿体ないが、団体がやかましくてね」

「団体がいちゃもんをつけたんですか? 何か法か倫理に触れるような事でも?」

「いやなに、今の時代だからこそロボットが建てた物より人間が建てた物の方が心がこもっていて良いって、団体の連中が言っていたからな」

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