第31話 憧れの彼が好きなのは

※このエピソードは、ヒロイン視点の過去回想です。

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 その男の子とは、中学三年生の時に初めて同じクラスになった。

 だけど、彼のことを好きになったのは中学一年生の春からだった。

 いわゆる正統派なイケメン、とは少し違う。

 学校ではほとんど一人でいることが多かったし、どちらかといえばあまり愛想のあるタイプじゃなかった。

 けれど、そんなどこか陰のあるところに魅力を感じるという女の子もそれなりにいて……実際、自分もその内の一人だった。


 暇さえあれば彼の事を考えていて、教室では自然と彼の姿を目で追っていて。

 でも、それだけだった。

 告白する勇気なんて、とてもじゃないけれど湧き出てはこなかった。


(こんな地味で引っ込み思案な女の子なんて、きっと相手にされないに決まってる)


 だから、同じように彼の事を好きな女の子がこぞって想いを伝えに行く間、自分はそれをただ横目で眺めていることしかできなかった。

 そのうちきっと、誰かが彼の心を射止める日が来るだろう。

 そうしてこの初恋は、実を結ぶことのない片思いのまま静かに終わりを迎えるんだろうなと、そう思っていた。


 けれど、一年が経って、二年が経って、とうとう三年が経とうという頃になっても。

 どういうわけだが、彼のお眼鏡にかなった女の子は、ついに一人もいなかった。

 三年間で告白された回数は五回や十回ではきかなかったはずなのに。一体、どうして?

 不思議に思うと同時に、暗闇の中で一筋の光が差し込んだような気持ちだった。


(こんな……こんな自分にも、もしかしたら……)


 とっくに諦めかけていた想いが沸々ふつふつと燃え上がっていき、その熱にうかされるようにして、気付けば筆を取っていた。


 告白は卒業式の日の放課後にしようと決めた。

 それなら、もしダメだったとしても、それ以降は彼と顔を合わせることもない。今度こそ、後腐あとくされなくすっぱりと諦められる。

 精一杯の勇気を出してこれなのだから、我ながら臆病にもほどがある。


 そうして、いよいよ迎えた卒業式の日。


 式典が終わるなり下駄箱まで走って手紙を彼の靴箱に入れたあと、教室にカバンを取りにも戻らず、そのまま旧校舎二階の空き教室へと向かった。

 正直、想いを告げることへの緊張よりも、「来てくれないかも知れない」という不安の方が大きかった。

 もしかしたら彼はもう、こうして呼び出されることにも内心うんざりしているのかもしれない。

 そんな思いを抱えて、五分、十分……三十分ほども待ったころだっただろうか。


『えっと……手紙をくれたのは、君?』


 空き教室の扉を開けて入って来たのは、彼だった。

 卒業式も終わり、もしかしたらこれから友達やクラスの皆とどこかに出かける予定があるかもしれないのに。

 その上、わざわざ旧校舎まで足を運ばなきゃいけないのに。

 それでも、彼はちゃんと来てくれた。

 こんな私なんかの呼び出しにも、嫌な顔ひとつせずに、ちゃんと。

 それが嬉しくて、とても嬉しくて。

 そんな優しい彼のことがますます好きになって。


『す、好きです! 楠木碧人くん!』


 前置きの挨拶も何もなく、次の瞬間には湧き上がるままに思いのたけをぶつけていた。


『ごめん』


 ……結局、その思いが彼に届くことはなかったけれど。

 それでもいざ告白を断られてみると、やっぱり簡単に諦めることなんてできなかった。

 どうして自分ではダメなのか。

 自分のどこがダメだったのか。

 見苦しくても、未練がましくても、そのがどうしても知りたかった。


『俺は──僕っ娘な女の子が好きなんだ!』


 遠くで響く落雷の音と共に告げられたその答えが。

 きっと、全ての始まりだった。

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