第3話 “悲しみ”の欠片③

「ーーなぎ、大丈夫?」

「私より理緖りおはどうなのよ?血だらけじゃないの!?」

「大丈夫大丈夫。ほとんど返り血だから」


 それはそれでどうなんだと私は思わずにいられなかった。


「君が気に病むことはないよ。全て僕のせいにすればいい」


 優しく理緖が笑う。そんな風に笑われると私は胸がドキドキして息が苦しくなる。私は理緖のことが好きだった。


「……もう後戻り出来ないよ?」

「最初からわかってるよ。大丈夫。僕が凪を守るから、何の心配も要らないよ」


 理緖は私のことをどう思っているのだろうか。少なくとも嫌われてはいないと思う。でなければ、一緒にここから脱走しようとは言わないだろう。


「……真実は必ずしも“救い”ではないんだね」

「知らなければ穏やかに生きられたかもしれないけど、君はそれを望まないだろう?」

「それは理緖も同じでしょう?」


 理緖は頷くと私をぎゅっと抱き締めた。


「……ずっと一緒にいよう、凪」


 ☆


「……身体の震えが止まらない。頭が痛いよ、理緖」

一旦いったん落ち着いて息をして」


 私たちはなんとか無事に研究所を抜け出し、廃屋はいおくに身を隠していた。


「凪、痛いの我慢できる?」


 理緖の言葉に私は首を横に振るしかなかった。


「……じゃあ、これを飲んで」

「これは研究所で飲んでた薬?」

「そうだよ。でも、これは普通の薬じゃなくて麻薬だよ。僕たちは食事や飲み物に麻薬を盛られて、知らない間に麻薬中毒にされていたんだよ」

「……何のために?」

「うまく僕たちをコントロールするためだよ。逃げ出してもこうやって苦しんで動きを止めてしまうから、簡単に捕まえることができる」

「なんで理緖は平気なの?」

「食事を食べたふりをして、吐いてたんだよ。なかなか苦しかったけど、おかげで今は自由に動けるんだ」

「……じゃあ、私も飲まないよ」

「薬は身体から抜いていくよ。でも、急には出来ない。少しずつ減らしていくしかない。逃げるために今は飲んで?」


 躊躇ためらう私に理緖は少し困った顔をする。口に薬と水を含み、私の口に流し込む。驚いた私の顔は真っ赤になる。

 これはキス、だよね?目的は違うかもしれないけど。私の鼓動こどう否応いやおうなく速くなる。


「キス、しちゃったね」

「……うん。びっくりした」

「嫌だった?」

「嫌じゃないよ。私は理緖が好きだから」

「僕も凪が好きだよ。……キス、もう1回してもいい?」


 理緖は繰り返し角度を変えて、私にキスをする。激しいキスにおぼれ、私は息が出来なくなる。


「凪、かわいい」


 いつの間にか絡めれた指につかの間の幸せを私は感じていた。

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