第6話【急募】俺のもう一つの人格が暴れた時の対処法

 うわ!?なんかいきなり寒気が。風邪か?確かにこんな汚い廃城に住んでたら風邪の一つでも引くか!はーっはっはっは!はぁ……


 あの後、廃城はなんとか穴を塞いで体裁は保てるようになった。各部屋の掃除なんてしてなくて汚いけど!誰が何を言おうとも体裁は保ってるんだ!人手が足りないんだよクソが!


 流石にさ?相棒とか可愛い部下とかは高望みしすぎだとは思ったよ?でもさ、一応俺幹部ですよ?ねぇ。なんで部下の一人も付けてくれないのかなぁあの上司魔王


 今からでも労働環境の改善を400字詰め原稿用紙100枚で書いてやろうか!?4万文字の短編小説をお見舞いしてやるぜ!まあそれを書く机も無いけどな!徹底的に壊れてるわ百年放置したせいで風化してるわでまともな家具がねえんだよ!?


「とりあえず、地べたとはいえ雨風をしのげる寝床は出来たか……というか、直したはいいけど一人でこんなデカい城使わねえんだよなぁ。ボスと言えば城!ってイメージがあったから城を直して住んでみようとはしたけど、掃除するのはだるいわ、いちいち移動は面倒いわ」


 他にも問題は山積み。例えば中庭は噴水が中央にある綺麗な庭園・・・っぽかったんだけど、草がボーボーだわ噴水は水出てないわで景観最悪。


 確かにゲームの中ボス的な立ち位置としてはいいんだけど、実際に住むなら邪魔以外の何物でも無い。最悪たがやして畑にしてやろうか!?


 結局城を直したはいいけど、街の井戸に一番近い民家を寝床にした方が良さそうだ。あれ?じゃあ俺の今までの努力って?

 ッスー……今日はもう寝るかぁ。俺は疲労と徒労とろうでへたり込むように城の床で寝る事にした。ああ……冷たい、固い……


 次の日。固く冷たい床で身体がバッキバキになった俺は、昇っていく朝日を見つつ、黄昏たそがれていた。ははは、朝日に向かってるのに黄昏れているとはこれ如何いかに。


 結局、昨日したことと言えば僧侶ちゃんを捕まえて食料確保をお願いしたことと、絶対に使わないであろう城を直したぐらい。


 非常食はある程度持ってきてるけど、流石に何日も保たないし……理不尽だね?俺一応前まで超弩級どきゅうのブラック上司魔王の城でも椅子と机で寝れてたよ?今それすらないよ?


 はぁ……とため息をついた俺は、その後速攻で民家を直し(城の十分の一の時間と労力で終わった)、無ければ作ればいいじゃない!とばかりに土魔法で家具を作り始める。


「みなさんこんにちは、アインスのDIY講座チャンネルへようこそ。この動画が良ければグッドボタン、チャンネル登録なんかはいいので食べ物を恵んでくださいよろしくお願いします」


 誰も居ないことを良い事に誰も居ない空間に向かって配信者の真似をする俺。暇なんよ、マジで。


 他の民家の壁ひっぺ剥がしてきて机を組み立てる。釘?そんなの土魔法で生成よ。あ、ハンマーねーじゃん……


「ハンマーが無い、そんなこと良くありますよね。そんなときにはこれ!拳です」


 フン!フン!釘パ〇チ!これは違うか。台パンをする要領でムカつくあいつの顔を思い浮かべてほらもう一丁!


「あんのクソ上司がああああああああああああ!」


 バゴン!という音と共に板が粉砕される。殺したくなるぐらいムカつく奴の顔は思い浮かべないことがポイントだよ!はぁ、新しいの取ってくるか。


 民家から出て、ふと改めてこのムスト王国を見る。百年の時を経て風化したこの街並みを見ていて、少し感傷的な気分になった。


 小国だったとはいえ城は立派な石造りのもので、そこから広がる城下町はとても賑やか。魔族領から近い国だったが、人間の大きな国を挟んだこの国は貿易国としてとても栄えていたらしい。


 井戸端会議をする奥さん達、露店商で珍しいものが無いか見る人々……街並みを見ていて思わずこんな感じだったのだろうか、と当時の情景を想像する。


 平和だったこの国を破壊したのは、紛れもないうちの魔王クソ上司。元人間だった身で思わないところはない訳では無いが、これが戦争だとも思う。


 魔族に転生したからなのか、魔族として長い間生きてきたせいなのか。確かに人間は好きだ。でも、魔族と人間どちらかを選べと言われたら俺は魔族を選ぶだろう。


 力馬鹿だし、自分以外の種族を劣等種としか思ってないし、トップは娘にパパ凄い!って言われる為だけに国一個滅ぼすようなアホだけど、やっぱり実際に生きて過してきた国には愛着がある。後は、個人的に多大な恩がある姫様があの国にはいるし。


「この国が滅んだことは、とても申し訳ないと思う。滅んだ理由は自分勝手なもので、酷く独善的であることも理解している。でもさ、」


 戦争なんて、そんなもんだろ?オレは思い起こした情景を鼻でわらう。確かに栄えていたかもしれない、魔族なんて来なければ人々は平和に暮らせていたかもしれない。


 。この国は滅び、百年が経って魔族であるオレが今、一人ここで立っている。


 最低?人の心が無い?実に結構。オレは魔族だ。オレが忠を尽くすのは魔族であり、劣等種である人間に割くほどオレの心は安くない。


 ……なーんて、そんなこと小心者な俺が思うわけないよねぇ!?何が「オレの心は安くない」だバーカバーカ!お前の心なんざそこら辺のゴブリンのフンと同レベルだボケ!

 はい、すみません。俺の心の価値なんてそんなもんですよね、死んできます……


「ってそうじゃねえ。最近、まーた出てきやがったなぁ?俺の中の『魔族』め」


 あ、厨二病じゃ無いっすよ?マジでマジで。ちゃんと俺の中に二つの人格あるから!信じて!痛い子を見るような目でこっち見ないで!

 思い起こした情景にいる人に、痛い子を見る目で見られて一人で落ち込んでる魔族が居るって……マ?

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