第5話【ゆる募】お父様をしばきまわせる力

「ほんと、信じられない!」


 魔王城に怒声が響く。ごめん遊ばせ、わたくしの声です。ちょっと信じられない事が起きて目の前のゴミお父様に怒っている所ですわ。


「オ、オリヴィア……?我、魔王ぞ?せめて椅子に」

「誰が立っても良いと言いましたか、お父様?あなたが今すべきことは固い床に額を擦り付け反省し、アインス様を最前線から退かせることです」


 目の前で魔王城の固く冷たい床に正座しているお父様……いえ、一応『魔王様』ですか。私たち魔族のトップなのですが。


 頭が使うことが苦手だったり、弱い魔族を毛嫌いしたりと、なかなか問題を抱えている魔王様なのです。


 実力至上主義のこの国では「力が強い者が偉い」という風潮ふうちょうが強くあり、それ故に今のお父様も「力こそ正義!策略など弱い者が考えること!」という方針でこの魔族の国を統一しており……


 まあ、危惧きぐしたとおりに力の強い魔族が台頭たいとうし、力の弱い魔族がしいたげられる世の中になってしまいました。


「ゴミ……」

「ガーン!」


 おっと、ついお父様に本音が。そんなお父様ゴミが国を治める事など出来るはずも無く。私が秘密裏に幹部に政治や国策に強い魔族アインス様を挟み込んだの……で・す・が!


 この人、私が目を離した隙にアインス様を最前線に送り込みやがりましたのですよ!

 力の強弱による種族ごとの貧富の差!税金や国民の数の把握!さらには人間との戦力比較から老魔族のちょっとしたお願いまで!全部アインス様がやっていただいていたんです!なーのーにー、


「ホッッッッッント、どうしてくれるんですか!?このままでは国が滅んでしまいますよ!」

「で、でもアイツ弱いし……いつも我の言うことに文句言うし……」

「それで!今こんな状況になってるんですよ!?」


 見渡す限り書類の山、山、山!アインス様が引き継ぎの資料と現在出ている問題点の対応表を作って他の幹部達に渡していたそうなのですが。


「燃やした」

「どっかいった」

「こういうのって、アインスの仕事でしょ~?」


 アインス様以外の魔族がこんなていたらくなせいで、今必死に引き継ぎ資料を探している所ですわ。


「お。オリヴィア様ー、この『オーク族の次期予算案』って紙ですかー?」

「速くこちらへ!お父様はしばらく正座!」


 ああもう、なんで1枚しか無いんですの!?燃やされた分は仕方ないとして、今ある分をかき集めないと……。


「って、途中で破れてるじゃ無いですの!?あと半分はどこ!?探しなさい!」

『は、はい~!』


 なんで魔族の男っていつもこうなの!?部屋は汚い、身体は臭い、デリカシーが無い!アインス様を見習いなさい!というか、見習うためにこっちに戻しなさい!


「ひえ~、オリヴィア様ガチギレしてるよ~」

「速く、速く見つけないと次に正座させられるのは俺たちだぞ……!」

「あの~。我、足痺れてきたんだけど?」

「…………(ニッコリ)」

『ひぃぃ!』


 ご心配なく。失くしたならともかく、燃やした幹部あなた折檻せっかんが確定してますので。


 慌てて動き回る幹部と痺れた足を我慢して正座しているお父様を眺めつつ、最前線にいるであろうアインス様に思いをせる。


 アインス様が飛ばされた国はムスト王国という、百年前にお父様が滅ぼした国らしいですわ。(ちなみに滅ぼした理由は私に「お父様かっこいい!」って言われたかったらしい)


 昔の栄えたムスト王国ならともかく、今の滅んだ国に一人向かわれたアインス様。


 出立の時、「魔族の子どもが剣を握らなくて済む平和な世界を」と誓いを立てて行かれた、アインス様。今頃、どうしていらっしゃるのでしょうか?

 人間と一人戦い、傷つきボロボロになっているのでしょうか!?もしかしたら、既に……!?


 いえ、私はアインス様の強さを知っています。中庭の陰で幹部全員を相手に木の棒で無双していたアインス様なら、しばらくは一人でも戦えるはずです。


 しかし、それも『しばらくは』なのです。いくら強くても連日戦えば消耗しょうもうし、いつかは命を落としてしまうのが戦いの常。私もこんな所で足止めを食らわず、アインス様の元へ……!


(オリヴィア……)

「はっ!アインス様の声!?」

「そんなの聞こえた?」

「あれはいつものオリヴィア様の妄想発作だぞ。あのモードに入ってる間に資料を集めるんだ!」

「えー、ボクもう疲れたよ~」

「足、足が……!」

(オリヴィア、君が私の身を案じてくれること、とても嬉しく思う)

「アインス様……!(感涙)」

(だが私が人間の猛攻に耐え、傷ついた身を癒やすために祖国に帰ったときに祖国が無ければ、私は何を護っていたのかと絶望するだろう)

「アインス様……(悲壮)」

(だからオリヴィア、君しかいないんだ。祖国を守ってくれ、『俺の』オリヴィア)

「アインス様ぁ……!(歓喜)」


 分かりました!このオリヴィア、魔王の娘としてアインス様の愛する祖国を身を賭して守ってみせますわ!『あなたの』オリヴィアが!やってみせますわ~!

 となれば、することは一つ。


「まだ見つかりませんの?あなたたち、本当に無能ですわね。お父様もいつまで正座していますの?さっさと立って資料を探しなさい!」

『は、はい~!』

「うぅ……オリヴィアが冷たい。それもこれも全部アインスのせいだ!おのれアインス~!」


 アインス様ああああ!!あ、お父様は後で追加でお仕置きいたしますので。お覚悟を。

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