公演 三日目

 ――誰が為に、男が吠える。


 それは大切な欠片を探す様に。


 それは八つ当たりをする子供の様に。


 ティーネが歌う、英雄の姿は悲壮感に包まれ、それと同時に焦燥と憤怒の感情を溢れさせる。

 会場に響き渡るティーネの声は観客が持つ魔石を淡く光らせた――。


◇◇◇


 ――ティーネの会場に到着した瑞希達一行は、会場の係員にジロジロと値踏みをされる様な視線に晒されていた。


「おいおいおい。本当に入れるんだよな?」


 髪を上げ、めかし込んだトットは心配そうにドマルに尋ねる。


「大丈夫な筈なんだけどね?」


「ティーネ達の歌、楽しみなんな~!」


「……うち、寝てしもたらどうしよう」


「本当にあやつ等に屋台を任せても大丈夫なんじゃろうな!? ミズキが作らん肉まんなど不味くなるかもしれんのじゃ!」


 少女達は三者三様に、待たされる時間を消化していく。


「そんなに難しい料理じゃないし、中の餡は俺と一緒に皆で作っただろ? テスラさんが任せとけって言ってくれたんだから、俺達はティーネさんの歌を楽しもう! わたあめ用の砂糖も昨日売り切っちまったしな」


 瑞希はシャオの不安を消す様に頭を撫でながら言葉をかける。

 当のシャオは撫でられる気持ち良さに頬を少し緩めた。


「あれだけ売れば無くなるのもしょうがないよ。明日の最終日には砂糖も集まるからまたシャオちゃんとチサちゃんには宜しくお願いしたいな」


 ドマルがそう言うと、焦った表情の係員が会場の奥から現れ、一行を会場へと案内していく。

 会場の門をくぐり、明かりの灯る通路や階段を歩いていくと、案内された席は比較的舞台に近い席だった。


――こちらの席でお楽しみください。そしてこのブレスレットは水の魔石で出来ており、歌姫の歌が反響し、まるですぐ傍で歌っているかの様な臨場感が生み出されますので、必ず装着してお楽しみ下さい。


 係員はそう言って人数分のブレスレットを代表者であるドマルに手渡し、にこやかに微笑みながら各人が装着するのを待っている。

 ドマルは各人にブレスレットを手渡すが、シャオはブレスレットを手に取るとしかめっ面をする。


「ミズキ、この魔石はあの鉱山の匂いがするのじゃ」


「鉱山の……? こんなの付けて大丈夫なのか?」


 シャオの言葉に、瑞希が汚い物を摘まむ様にブレスレットを持ち上げていると、係員は不審そうに瑞希に視線を向ける。


「――とはいえ付けない訳にもいかないみたいだな……。シャオ、どうにかできないか?」


「わしの手にかかれば造作もないことなのじゃ」


 シャオはそう告げると、ドマルから人数分のブレスレットをひったくる。


「こぉらシャオ! 俺達も着けなきゃ楽しめないみたいだから独り占めはするなって~」


 若干棒読み感が漂う瑞希の台詞だが、当のシャオはさっさと瑞希にブレスレットを手渡した。


「疲れたのじゃ。帰ったら瑞希の料理が食べたいのじゃ」


「はいはい。でも今日は鶏肉が余ってるから親子丼の予定だぞ」


 瑞希はシャオと会話をしながらブレスレットを装着する。

 

「鶏肉はミンチにするのじゃ?」


「じゃあお利口なシャオのは、つみれの親子丼にしようか。ふわふわのが良いか?」


「くふふふ! 瑞希が作ってくれるのじゃったらどっちでも良いのじゃ!」


 瑞希達が他愛ない会話をしながらブレスレットを装着する姿を視認した係員は納得したのか、軽く説明をした後に笑顔でその場を離れた。

 

「ミズキよぉ? 何だったんだよさっきの嘘くせぇ芝居は? これを着けるのは普通だろ?」


 トットはそう言って手首に巻かれたブレスレットを見せる。


「シャオ曰くこのブレスレットの魔石は夢見の鉱山で採れた物らしくてな。またトットに襲い掛かって来られても面倒だろ?」


 トットはその言葉に驚愕し、ブレスレットを外そうとするが、瑞希に止められる。


「シャオがいじったからもう大丈夫だって。外すとさっきの人が飛んできそうだから止めとけ」


「何だってこんな物にそんな魔石を使ってんだよ!?」


「わざわざなのか、たまたまなのか、どっちかはわからないけどこういうのを着けるのは普通なんだろ?」


「そりゃそうだけどよ……」


「僕もこんな広い会場に見に来るのは初めてだからこういうのがあるって知らなかったんだけど、着けないとそんなに変わるもんなの?」


 ドマルはテーブルに置かれた飲み物を手に取り、トットに尋ねた。


「歌姫とはいえ人の子だからな。声量は凄くても限界があらぁな。さっきも言ってたけどこれを着けてると音が反響して臨場感が増すんだ。歌姫の声を間近で聞く機会なんざ俺っち達の席じゃ無理だろ?」


 トットの言葉に瑞希とドマルはバツの悪そうな表情を浮かべる。


「……確かに綺麗な声やった」


「ん?」


「心地良い歌声だったんな~」


「んん?」


「あははは……、実は僕達がティーネさんの歌声を初めて聞いたのは生歌だったんだよ」


「んなっ!? 嘘だろっ!? 俺っちですら間近で聴いた事なんざねぇんだぞ!?」


 騒ぐトットの声に、周囲から咳払いが響き渡る。


「な、なぁ、間近で聴く歌姫の声はどうだった? 凄かったよな?」


 小声で話しながらも興奮が抑えきれていないトットは、瑞希との距離を詰めながら鼻息を荒くする。


「近いって。確かに凄かったし、トットが追っかけるのも分かるけどな」


「だろ!? 歌姫の声は心に届くっていうか、魂が揺さぶられるんだよなぁ。場面場面で聴いてる人が主人公になれるっていうか、自分の知らない自分を知れるっていうか……」


 トットはそう言って一人納得している。


「俺っちが初めて歌姫の声を聴いた時は、一目惚れの時みたく体中に刺激が通ったんだよ。これは運命だってな。それが、今回の公演でお別れとか……くうぅぅぅぅ~!」


 一人で語り始めたかと思えば、一人で泣き出したりと感情が忙しい厄介オタクのトットを、瑞希達は放置しておく事にした様だ。


「ところでバージさんに会わなくても良かったの?」


 ドマルが瑞希に尋ねる。


「会いたかったんだけど、バージ達はこっちの貴族の城に居るみたいだからな。冒険者の俺達が友達面して会いに行っても迷惑だろ? それにフィロが暴走すればシャオが怒って何するかわからないしな」


「あははは、確かにそうかもね。王家の従者を傷つけたとなればややこしい事になるもんね」


「そうそう。それにリルドが俺達の事を伝言してくれてるだろうし、その内屋台にも顔を出してくれるだろ? それに既に嫌な視線は感じてるしな……」


 瑞希はそう言って、げんなりした表情を浮かべながらシャオが怒らぬ様に膝の上に座るシャオの頭を撫でる。


「あやつは何度痛い目を見ても懲りん奴なのじゃ……」


 気持ちよさそうに目を細めるシャオの言葉で、この会場にフィロを始めバージ達が居る事を悟ったドマルは、くすくすと笑う。

 そうこうする内に、舞台に設置された楽器の前に奏者達が姿を現した。


「おっ、始まるみたいだな」


 舞台に設置された光の魔石が光を放ち、舞台の中心に現れた歌姫、ティーネ・ロライアに注目が集まるのであった――。

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