初めての食べ物

 異世界に到着してから、シャオとこの世界の事を話しながら歩き始めて早数時間は経ったのだが、一向に街は見えてこなかった。


「シャオ~。街にはまだ着かないか~? そろそろ腹減ったんだが……」


「どうなんじゃろな~。お、あそこの木の果実は食べられるみたいじゃぞ?」


 シャオは十メートル程先にある木を指さし、瑞希は一目散に木へと走っていった。


「まだまだ元気があるのじゃ……」


 瑞希は木に登り、柿に似た果実を見つけ、一つもいでみた。


「お~い! その果実は食べられるみたいなのじゃが……」


 シャオがそう告げるよりも先に瑞希は手に取った果実に齧り付いた。


「渋いぃー!」


「じゃから、人の話は最後まで聞けっちゅうとるのに……良い気味じゃ」


 瑞希はぺっぺっと果実を吐き出し、シャオは木に登り、瑞希の隣に座り果実をまじまじと見た。


「毒は無いようじゃが、非常に渋いようじゃの。食べても問題はないぞ?」


「食えるか! 最初に教えてくれよ!」


「遠目からじゃと食べられるか否かしかわからんのじゃ。間近で見たら大体の味がわかるのじゃ」


「それも魔法の一種か?」


 瑞希は顔をしかめながらシャオに質問をする。


「いんや。後天的な能力じゃな。食べれるか見分けなければはるか昔に死んでおったしの」


「猫の世界も大変なんだな」


 そう言うと瑞希は果実を再度もいでいく。


「お主。さっきその果実は自分で食べられんと言うておったのじゃ?」


「このままじゃ無理でも干せば食えそうだしな。干し柿みてぇなもんだろ?」


「干し柿というものがわからんのじゃが、美味いのじゃ?」


「甘くて、ねっとりとして……まぁ、おばあちゃんのおやつって感じだな」


「なぜ渋いものが甘くなるんじゃ?」


「渋みの成分が変わるかららしいけど、詳しいことはしらん! 美味くなるならそれで良し!」


「わしからすればそっちの方がよっぽど魔法より不思議じゃよ」


「なら俺も魔法使いかもな!」


 瑞希はにししと笑うと、せっせと果実をもいでいく。


「ところで、この世界にはどんな生き物がいるんだ?」


「大雑把に分けると人間、動物、魔物じゃな」


「人間と動物はわかるけど、魔物?」


「人間ほどではないが知能が高かったり、魔法が使えるのが魔物じゃ」


「じゃあシャオも魔物か?」


「わしを魔物ごときと一緒にするでないのじゃ!」


「じゃあ人間か?」


「うるさい! もうこの話は無しじゃ!」


 シャオがそういうと黙ってしまったので、瑞希は仕方なく木の上から当たりを見回していた。


「なぁシャオ?」


「……なんじゃ?」


「あの遠くに見える、動いているのが何かわかるか?」


 シャオは瑞希に指さされた場所を見つめ、目を凝らした。


「あれは人間じゃの。魔物のゴブリンどもに襲われそうになっておるのじゃ」


「おいおいおい! 一大事じゃねえか! 早く助けにいかねえと!」


「嫌じゃ」


「嫌じゃ……って、なんで嫌なんだよ!?」


「人間は……嫌いなのじゃ……」


 シャオはプイっとそっぽを向いてふてくされる。


「そんなこと言われたら、俺も人間なんだけどな」


「お主は違うのじゃ! ……言い表しにくいのじゃが、何故か他の人間とは違う感じがするのじゃ。それにわしが好きな匂いもするのじゃよ。」


「訳が分からん! じゃあ後でもふもふなでなでしてやるから、シャオの力を貸してくれ!」


 シャオはぴくっと耳を傾ける。


「約束なのじゃ?」


「約束する! もふもふなでなでぺろぺろまでしてやるよ!」


「別にぺろぺろはいらんのじゃ!」


 シャオはそう言うとぼふんっと猫の姿になり、瑞希の肩に乗る。


「にゃん、にゃ~ん!」


「へ?」


 ――ゴォォォっと背中を風に押され、瑞希の体は空中に浮き、人が居る方向へと飛んでいく。


「うわぁぁぁぁ! ストップ! ストップぅぅぅ!」


 シャオは瑞希の言葉をどこ吹く風といわんばかりに現地へ向かうのであった――。

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