21.夢の世界のフェアリー・テイル。

「さぁて、どうしたもんかなァ……。」


 そう呟いた一織は眼前にてうちひしがれている面々を視界に捉えて、困った様に溜め息を吐いた。


「う゛う゛~~っ……!!」


 地べたで仰向けにひっくり返って、目を押さえながら唇を食い縛って呻く子供。


「ひっく、ごぅえ、ごめんなざ、ぐすっ、ごめんなさい、ごめ、なざい……っ!」


 屈んで土下座みたく背を丸めて、顔面の下で腕を重ねてはそこに目を押し付け泣き声を上げながら謝罪を繰り返すアーサー。


 子供の方ではロヴィオがその傍に寄り泣いているらしき頬へと鼻先を触れようとするも、子供から腕で振り払われしまい寝返り後ろを向いて丸まってしまった子供の背中を見詰めたままに固まっている。

 傍で“お座り”をして子供を見下ろしているらしい、その煤けた背中からは哀愁漂いどうやら気落ちしている様だった。


 見た感じ念話にて話をしている様ではあるのだが、子供はそれに一切返答しようともせずにしゃくり上げて肩を震わせてばかり。

 遠目から見ていても、あれ程懐いていた彼にその顔すら見せようとすらしたがらない様子であるのは此処からでも解った。


 彼方は彼方で込み入った話をしているのだろう。

 そう思った一織は彼等の方よりも……とアーサーの方へと視線を向けると、その踞ったままに嗚咽を繰り返し泣きじゃくる彼の傍へと歩みを進めていく。

 自身の傍に寄ってくる足音にびくりと肩を一際大きく跳ねらせたアーサーはバッと顔を上げると、直ぐ傍まで来ていた一織の姿を視認するや否や小さく悲鳴を溢し、咄嗟に腰が立たぬままに数歩分後退っていく。

 そうして体育座りに身を縮込ませては、ガタガタと震えながら一織から身を守るべくして頭を押さえ、震える声で再び謝罪を連呼し始めたのだ。


「ごめんなさい、ごめんなさい、もうしません、抵抗もしません、痛いのだけは……痛いのだけは嫌だぁぁ……!」


 それは今まで彼が我慢して抑え込んできた、溜め込んでいた感情を塞き止めるダムが決壊したが故に溢れ出した本心なのだろう。


 今までのループですら恐怖し怯え屈してしまう程の仕打ちを、何が切っ掛けで堪える様になったかまでは彼自身まだ明かしていない。

 それが原因で逃げる事を止め、それでいて王国に……王宮に居座り続ける事を選んですらいた彼だ。

 既にその“事情”を把握している一織は、そんな彼の姿を見て“やり過ぎた”と頭を抱えてしまいたくなる思いに駆られる。


 力が強くなって漸く悠々自適と安心を得ていたと言うのに、それを今“初めて”他者により屈された事によって彼はその培った自信と自惚れを粉々に崩されてしまった。

 そして弱かった頃の泣き虫で臆病者な彼という“振り出し”に戻されてしまっているのだ。

 そんな彼が怯え縮み上がってしまうのも無理もない。


「……アーサー。」

「ひっ……!? 止めて、何でも言う事聞くから、此方に来ないで……!!」


 涙を浮かばせた柘榴の目が、恐怖の色に濡れていた。

 それを見てしまっては、彼の頭を撫でようとした手はやはり届かぬままに、自分を見て恐ろしいと感じられてしまった眼差しにやはり・・・どうしても立ち往生してしまう。


「(……お前なら、きっと大丈夫だと思ったんだがな……。)」


 苛立ちではなく、虚しさからに顔をしかめてしまうとそれを見た彼がまた悲鳴を上げてより身体を小さくする。

 その様子に一織の胸の内では寒々しい風が吹くのを感じては、途方に暮れて溜め息を溢した。






 *****






 昔から、いつも一人だった。


 友達はいない。

 両親だって母は病にて病院、父は朝昼晩と仕事に明け暮れて家の中はいつだって静かなまま。

 学校から帰宅すれば「ただいま」と言った所で静寂のみ、「おかえり」という言葉はもう随分と聞く事がなかった。


 外に出掛けるったって遊び相手はいないので大好きな本を手にソファーに腰掛け気が済むまで読書。

 日が暮れてきてお腹が空けば、冷蔵庫を開ければ父が残してくれたコンビニ弁当が夜用と翌朝用にと、空きスペースだらけなその棚にちょこんと残されている。


 お弁当に貼り付けられたシールに指を当てて、レンジで何分温めれば食べられるのか読めない漢字とアルファベットが入り乱れる細やかな文字に、目が滑らない様になぞってゆっくりと鈍い頭で必死に考えながらそれを読み解いていく。

 そしてレンジに入れて温め終わったら、テレビを点けて静かな部屋に賑やかな音で満たす。

 自分だけ蚊帳の外の賑やかな音に包まれて心を紛らわせながら、自分の知らない誰かが作った温かくした温かみのない弁当を作業的に胃の中へと押し込めていく。




 仕事に疲れて食事も無しに、布団を敷く気力もないからとソファーで横になり寝ようとする父に、何か力になりたいと常々から思っていた。

 だからそのつもりで、自分でも簡単に作れそうで、偶々冷蔵庫に有った物から“茹で玉子”を作ろうとした事があった。


 “危ないから子供の内は火は駄目だ”


 父からの言い付けでコンロは使わせて貰えなかったので、ならば別の手段でと幼い頭で行き着いた先は“レンジ”の中。

 知識も何もないから対策や危険性なんてまるで考えておらず、黒くて僅かに中が覗ける硝子の向こうでバチバチと電気の火花が走り出した。

 いつもと違う様子に恐ろしくなり、後ずさった瞬間目の前でそれは爆発四散した。


 大きな音、弾け飛ぶ部品、焦げた臭いと燻った煙。  

 突然の出来事に驚きと恐怖に頭を抱えて縮込ませていると、そこに大きな音に飛び起きて慌てて駆け付けた父が現れた。

 硝子やプラスチック、玉子の白身と黄身に、その他の良く解らないパーツがちらほらバラバラ。

 様々なものが辺り一面に散らばり、その奥では煙を吐いて扉が吹き飛んでいたレンジがあったその光景に、父は開いた口が塞がらない様子で呆然としていた。


 当然その惨状に父は怒り心頭──となってくれれば良かったのだ。


 “腹が減っていたのか、ごめんな。”

 “掃除をしたらご飯を買ってこよう。”

 “全部父さんがやっておくから向こうにいなさい。”


 こっぴどく怒られる訳でもなく叱る事なく疲れた顔でにこりと笑って、父は自分に別室へ行くように指示すると自分には何も任せる事なく一人で掃除を始めるのだった。

 只労ってあげたいだけだったのが、結局また父に迷惑をかけて終わり。

 手伝おうとしたって「危ないから手を出すな」と自分は何もさせて貰えずに突っ立ったまま。

 自分が悪いのは明確なのに、労りたい人を……目に隈を携えた父が四つん這いで床の掃除をする背中に何も出来ず。

 只面倒だけ押し付ける羽目になって、それを自分は見ている事しか出来なかった。


 そんな事もあって以来、それがレンジに入れても大丈夫な物なのか、どのくらい温めれば安全に食べられるのか、それを考える様になり気を付けていたのだけれども父が残してくれていった弁当はいつも味は微妙で中々食が進まない。

 美味しくない料理を空いた腹に無理矢理流し込む様にして、点けたテレビは時折映る光景に心が掻き乱されてしまうから音だけ聞き流して、画面には一切見向きもしないようにする。


 只のBGMとしてしか役割を与えていないテレビで料理番組が始まり、偶々視界に映った光景から、

 “母の作った玉子焼きが食べたい”

 ……そう思った。

 しかし思った所で、病院で寝たきりとなった母にねだる訳にもいかない。


 普段から迷惑ばかり掛けている自覚はある。

 我が儘を言ってこれ以上両親を困らせたくもないので、苦痛だった食事を終えると直ぐ様テレビを消し、いつもの様に自室へと閉じ籠ってしまうのだった。




 見舞いに行くといつも見える光景は、真っ白な病室にぼんやりと外を眺めて此方を見ようともしない、まるで中身のなくなった脱け殻の様な生きる気力を失った母。

 そんな彼女に心配かけさせぬようにと、我が儘は言わないように本心をひた隠しながら目線を合わせてくれない母に、思い浮かぶばかりの話題を投げ掛けた。


『今日はね、学校で掛け算を習ったんだ。』

『3の段までは何とか解る様になったんだけど、4の段が全然覚えられなくて。』

『国語の授業で漢字も習ったよ。テストの点数は……イマイチだったけど……、』


 何を話せば良いのか、学校に友達は居らずいつも一人で本を読み気を紛らわせる毎日。

 話題を振ろうにも大した出来事なんて授業で習った事だけ、しかもそれは自身の無能さを表すものばかり。

 せめて何か心配かけずに済むような、安心させられる事がないかとぐるぐる思考を回し、暫く置いて漸く見付けた数少ない最近の“達成”出来た事を嬉々として口にした。


『あ、でもでも、この漢字を覚える事が出来たよ! あとこの漢字と、この漢字もちゃんと覚えて、見本が無くても書けるように──、』

『……貴方、本当に駄目な子ね。』


 漸く聞けた母の声。

 やっと振り向いてくれた事に嬉しく思える筈がその冷たい声音に、顔を上げて目が合ったのは冷ややかな眼差し。


『私は何でも出来たのに、貴方は何をやっても駄目なまま……。』


 差し向けたナイフを突き刺す様な言葉も相まって、蛇に睨まれた蛙の様に思わず息を呑み込み固まってしまう。


『──貴方、本当に私の子?』

『巳織!! お前、自分の子になんて事を言うんだ!!』


 偶々病室の傍にいたのか、母の病状の確認と入院費の支払いを終えて自分を迎えに来た父が、母の発言にそう怒鳴りながら部屋へと入ってきた。


『お前が寂しがっていると思って一織は此処に来ているんだぞ、それなのにその言い方はないだろうが……!!』

『煩いわね、あの子が何も出来ないのは一狼さんの教育が悪いからでしょう……!? 毎日毎日要らない入院費の為にって子供放っぽって仕事ばっかり!』


 ……自分を起点に始まった“いつもの”夫婦喧嘩。


『そんなだから一織が全然物を覚えられないままで……この前も苛められただとかどうだとかで、学校から連絡があったんでしょう!? いい加減現実を見て、一織の面倒見るならちゃんと見てよ! 私の事はもう放っておいて!!』

『そんな訳にも行かないだろう……!! 一織はやればちゃんと出来る子だ、留守番だって文句一つも無しに利口にしてくれている! 失敗だって子供のする事なんだ、それくらい大目に見てやるくらいしてやらなくては──、』

『そうやって放任主義でいるから一織が何処にも馴染めないままで孤立しているんでしょう!? 何で私の話を聞いてくれないの、もう何だってどうでもいいから……早く安楽死でも何でもさせてよ、惨めなままで生かされ続けたくない……!!』


 いつもいつも似たような会話、似たような言い争い。

 出来ない自分のせいで喧嘩ばかりで険悪になってしまった両親。


 それが始まると、いつだって最後には堰を切ったように泣き始める母。

 両手で顔を覆い隠したままに──以前は誰からも頼られる程に何でも出来た凄い人だった彼女の──病によって何も出来なくなった今の自身の身体に絶望した、彼女がいつも口にする言葉。


『……お願い、もう死なせて。これ以上貴方達に迷惑かけてまで生きたくないの……私にすがらないで、諦めてよ……。』


 その言葉に父は余計に「そんな事はない」と声を荒げて、暖簾に腕押しの如き彼女への説得を続けるその光景。

 それをもう、何度と見てきた事か。


 そんな彼等に目の前で“何も出来ない子”と言われ続けた自分。


 そこで悔しいと思えれば良かったのかもしれない。

 しかし自分に自信など何一つとしてない、幼かった自分に頭の中を埋め尽くしていたのは“悔しさ”よりも“申し訳なさ”。




 ごめんなさい。

 ごめんなさい、出来ない子で。

 役立たずな子に育ってしまってごめんなさい。




 家では家事すらさせて貰えない鈍臭い子。

 学校では誰とも馴染めず、友達はいない。

 同じクラスの女の子に「目が怖い」と、何もしていないのに傍に居ただけで怯え泣かれたトラウマ。

 生まれつきのその目付きに皆が怖がり避けていくから、ニコニコへらへらとおどけた顔して無害アピール。

 コンプレックスを誤魔化して、誰でもいいから仲良くして欲しくてそうしていたのに……友達もいない気の弱い自分に今度は、苛めっ子達の格好の的になっていった。




『おいドベ! お前と同じチームだといっつもビリになるんだから、今度の体育の授業休めよ!』


 ──勉強も出来なければ鈍臭くて運動も出来ない、毎日のコンビニ弁当で栄養が足りず体力が付かなくて疲れやすかった華奢な身体。


『喋ったってどもってばっか、何て言ってんのかさっぱり解んない!』


 ──誰も傷付けたくなくて言葉を選ぶに巡る思考が鈍い頭、いつも途中で怖くなって詰まってしまう途切れ途切れなどもり口調。


『ビビりで暗くて詰まらない奴! 話しててもこっち見ていなくって、本当にちゃんと聞いてるの?』


 ──話をちゃんと聞こうとして目を合わせるよりも俯き傾けた耳、解らない単語が出てくると気になってしまってばかりで右から左へ滑っていく言葉達。


『放っとけ放っとけ、そいつの母ちゃん治らない病気なんだって。“病原菌”に近付くと移されちゃうかも!』


 ──“違う、そんな事はない”って言えなかった誹謗中傷、言い返されるのが怖くて閉じてしまった使い物にならない口。




 周りの子達が自分を笑う甲高い声。

 聞き付けた先生に庇われた所で虚しいばかりで、ちっとも救われた気になりやしない。


 結局それも苛め騒ぎにまで持ち上げられてしまい、見かねた先生が自分を教室から離し保健室へと連れていった。


『教室にいるのは辛いだろう? 暫く此処で、落ち着くまでいなさい。気が向いたら教室に帰っておいで。』


 先生の優しい声音。/体の良い“厄介”払い。

 隔離された先の、真っ白で自分以外誰もいない保健室にはミニチュアの“箱庭”がポツンと置かれていた。

 保険の先生の趣味で置かれていたアンティークな椅子に腰掛けて「使って良いよ」と許可を貰って始めた、その小さな庭での“世界創造”。


 箱の中の柔らかな砂を掌で撫でて、掘り空けたら見えるのは水に見立てた青い底。

 木や家、橋や動物、色んなオブジェを並べ立てて……嗚呼そういえば、人は苦手だからって敢えて“人の形”をしたオブジェはそこに置かなかったんだっけ。


 代わりに置いたのは犬、猫、それから鳥。

 他にも色んなオブジェは沢山在ったけれど、真ん中に置いた家の周りには特にその三つを置いた。


 犬が居たなら、寂しい時は寄り添ってくれるだろうか。

 猫が居たなら、寂しい時は甘えに来てくれるだろうか。

 鳥が居たなら、寂しい時は囀り唄ってくれるだろうか。


 兄はいない、姉はいない、弟も妹も、いるのは自分を見てくれない両親二人だけ。

 友達を作ろうと努力したけれど、反ってきたのは心無い声。

 自己嫌悪に自己嫌悪を重ねて、遂に塞ぎ込んでしまい殻の中心の傷閉ざした心の扉かさぶたで閉じた


 そんな中で誰か、いっそのこと人じゃなくても良いからと想って創ったその世界は「大人になりなさい」と無理矢理目を覚まさせる先生に掻き乱された夢の楽園。

 傷を癒す為の逃避先は崩れ去っていった。


 そうやって癒えきっておらずじゅくじゅくのままの傷のかさぶたは剥がされてしまい、晒されたのは生傷を携えた自分。

 大人に引き戻された教室現実ではまた、一度逃げた自分を非難する声に囲まれて、傷口に塩を塗りたくられている気分に身を竦めながら着いた自分の席。


 引き出しの中には絵の具で塗りたくられて使い物にならないノートや教科書。

 先生や親に言ったところで大事にされるだけだからと、誰かに助けを求めないまま我慢した。


 授業が終わり下校して、やっとこさ辿り着いた誰もいない家の玄関。

 そこで漸く堪えていた涙を溢し一人泣いていた、少年だった頃の思い出。


 誰かにすがりたくても周りには誰もおらず、不器用でも無能でも一人で立ち上がるしかない日々。

 泣き張らした目を擦りながら隣に誰もいない自分が、唯一すがる事が出来たのは本棚の中の物語達。


 その日眠りに落ちるまで寂しさの気を紛らわす為に、指差し選んで手に取ったのは“アリスと不思議の国”の本。

 時計を持った兎を追い掛け、落ちた大穴の先の不思議な世界での物語。


 落ちた先には金の鍵と通り抜けるには小さ過ぎる扉。

 食べれば大きく、飲めば小さくなる不思議な食べ物達。

 気が狂った3月兎と帽子屋。

 それから眠り鼠のいるおかしなお茶会。

 道案内するチェシャ猫の姿の見えない笑い声。

 横暴なハートの女王の馬鹿げた裁判。


 最後に主人公のアリスはそんな夢から目を覚ましてしまうけれど、その前に本を閉じては始めから読み直して振り出しに戻す。


 夢ならば覚めなければ良いのに。

 現実は皆が当たり前に出来ている息をする事ですら、自分には上手く出来ずに生き苦しかった。


 一人広いベッドの上で、眠くなった眼に目蓋の帳が降りるまで読み続けられた、終わらないまま繰り返し読み返された不思議の国の物語夢の中での出来事


 一人ぼっちの少年時代、尊敬出来る義母と出会う前の何も出来ない愚鈍だった子供の頃。




 嗚呼、あの頃の自分は確かに“アリス”の様になりたくて──“アリス”の様には夢から覚めたくなかった。






 *****






「──アーサー。」


 自分が本を閉ざす音が響く。

 そして見上げた先には声を掛けるだけで跳ねる肩。

 怯えられているのは解っている。

 彼の心情くらい“本”を見れば丸解りだ──それも自分だけ、一方的に。


 全くもってフェアじゃない。

 彼には心を読む力があってこそ、それを自らの力にして築き上げた彼の天才たる礎となった培ってきた努力の結晶。

 それを自分は、調子に乗っている子供達を少し嗜めるつもりが“ムキになり過ぎ加減を間違え”てしまった。


 心の何処かで“力在る子達だから大丈夫”だなんて、自分よがりな甘い考えが在ったのかもしれない……否、在ったんだ。

 予め・・知っていた彼等の事に勝手に共感して、勝手に仲間意識を感じて“彼等とならばきっと”と思っていたけれども、その期待こそ“間違い”だったのだろう。


 そこは反省しよう。

 大人が子供に、身の丈以上の過度な期待を持つべきではない。

 大人は子供を守り、時にその背中を押してやらなければならないが、それで過度な期待で潰してしまうのは言語道断。


 ならばこれ以上此方から関わって彼等を駄目にさせてしまう前に、此処は各々別の道を選ぶべきだ──そう思った。


 只、それでも、公平でなかった事に関してはきっちりと“精算”しなくては。

 自惚れてこそ“最強”を誇った彼が、今後挫け折れ切ってしまわぬ様にその線を引きつつ壁を崩さない様にそっと身を屈めて彼と視線を合わせようとして顔をそっと覗き込む。

 そして、彼が探り当てられなかった不可解な自分の本心を打ち明ける事にした。


 彼とは元より、対等で在りたかったのだ。

 結果は己が台無しにして散々となってしまったけれども、それでも言わないまま後悔するより言って後悔した方がずっと良い。

 そう思ってそれを伝える事を決めた。

 ……“大切”だった義母との死別で、それを学んだから。


「俺は……お前と“友達”になりたい、そう思ってお前に近付いたんだ。」


 鼻を啜る音が響く、合わせようにも背けられたままの目線。

 吐いた息を呑み込んで、しゃくりあげる喉の音に掻き消されないように静かで穏やかな声でもハッキリと──諦めるつもりでそれを口にした。


「ごめんな、怖がらせて。人の心を読めるお前には、読めない俺は恐ろしかったろう。だから白状するよ。俺はお前に“下心目的外の考え”を持っていた──お前となら仲良くなれると思ったんだ。」


 まるで導火線の付いた天災の様な危うい彼、優れた才を持つ天才で勇者という“昔から”憧れていた有り得ないと諦めた筈の架空の存在みたいな彼。

 彼のような素敵で無敵な人物キャラクターと、ずっと友達になりたいと思っていた。


 でも“やっぱり”それは自分には難しそうだ。


 住み処を追い出されて行き場のない子供、離れ縁を切ってしまう前に自分が彼にしてやれる事は無いだろうか。

 本心を口にしながら“先回り”して此処は手離して“遠回し”にでも彼の助けに成るべく、この先の方針について考えを巡らせていく。




 やはり“やるべき事”が在る限り、甘え願望は棄てなければ。




 “大人になったら全てが終わってから、好きなように生きよう”って。

 それまでは“自分在り方”を崩さない様に、穢さない様に、大切にして護る為に──“本懐中身”は本棚身体の奥へと押し留めよう。

 昔から自分に言い聞かせて来た筈だ。


 でも大人に成った今では……大人は彼等にとって怖いものなのだから、立ち振舞いには気を付けなくてはいけない。

 護りたいもの子供達を必要以上に傷付けてしまわぬ様に。




「怖かったろう。昔から言われるんだ、俺の“目付き”が怖いって……お前達の前ではこれでも気を付けていたつもりだったんだが、やっぱり駄目だったか。」




 彼の口から再び「ごめんな、アーサー」と言葉が紡がれる。

 ぴたりと泣くのを止めて、驚いて目を丸くした顔の彼に一織は肩を竦めると、くるりと踵を返し立ち去っていく。


 その後ろで混乱の余り止まった涙に、的を得ていない謝罪を残して去っていこうとする理解不能で全くもって不可解な大人の背中に、何から言えば良いのか解らず口を開閉させるアーサー。


 疑問を口にするべく咄嗟に回した頭の中、組み上げたその言葉の羅列。

 それを口にするべく開口した瞬間、その目の前を地面を突き“カラン”と音を立たせて遮ったのは銀飾のメイス。


 それはまるで“それ以上言うな”とでも言う様な立ち塞がり方で、見上げれば先程まで彼と並んでいた“彼”と同じ顔をした女性。

 視認した途端込み上げる不快感に顔が引き釣り、逃げようにも身体がすくんでしまいならばせめてと視線を逸らすと、視界外の所で彼女の口から重い溜め息が吐き出される音が聞こえた。


「情けないですね。間違えたくないと宣いながら、過去に貴方がされて傷付いた事を自ら侵すだなんて。」


 静かに冷ややかな声が、自分の脳天から冷水をぶっかける様にして降り注いでくる。


「学習している様で丸でしていない……当然でしょうね。苦は忘れ楽も忘れ、自身に命令だけ残して機械的に行ってきたその業務作業ゲー。効率ばかり求めて得た不要物人としての情は棄て去っていった貴方様には、其れで御自身が御成長為さっていたと自負されてらっしゃったと言う御積もりで?」


 現実が自惚れから覚めろと警笛を鳴らす。

 自覚の無かった、自覚したくなかったそれを真っ当な言葉にて言い表看破されて、偽ってきた自分の化けの皮が剥がれていく。


 自分に歩み寄ってくる彼女の摺り足にて移動が不便そうなその足取りより、五体満足の自分の方がよっぽど上手く立てていない。

 それをまじまじと見せ付けられている様で、お前は惨めだと嘲られている様な気がして思い知らされてはまた愕然としてしまう。


 そうして直ぐ傍である目の前まで来た彼女に目を合わせられず俯いていると、しゃがみ込んだ彼女はメイスを消して空けた両掌でアーサーの両頬を包むと無理矢理に顔を上げさせた。

 当然目の前には“大の苦手”な女の人。

 顔は彼と同じでも、それが女であればそれだけで身の毛がよだつ気味が悪い


 咄嗟に視線を逸らして堪えていると、舌打った彼女が笛の音の声を低くした。


此方を向き目を合わせなさい、アーサー・トライデン。此れは命令です、私に従いなさい。」


 命令が鼓膜を震わせてその声を認知した頭が“それに従え”と全身に伝令させていき、本心では嫌でも身体を動かさせていく。

 相手は自分が護るべきと定めた“王族”でもないのに、王者の風格を表すその鋭い眼光が、誰かを思い起こすその目付きが、自身の脳に「それは自分の“主”だ」と錯覚させてしまう。


 抵抗も虚しくぎこちなく合わせさせられた、その柘榴色の怯えた視線。

 只それは、取り上げられた眼鏡によって映されたその視界に、彼は見たくなくて細めていた目を大きく見開く事となる。


 そこに居たのは幼い姿の“彼”。

 女ではなく男で、最初に見たあの鳥の姿でもない。

 威風堂々たる風格は一切なく、何処からどう見たって気弱そうな雰囲気。

 そんな風貌にそぐわない、気を強く感じさせるつり目を寂しげに伏せて、背も高くないままに押せばストンと倒れてしまいそうな程に華奢な身体。

 そんな頼り無さげな、普通で何処にでもいそうな子供がそこに佇んでいる光景。


 只それだけでも何が起きているのか理解出来ずに混乱してしまうのに、それ以上に自分を驚愕させたのは、自分にしか見えない彼が発するその感情たる想いの“色”。




 救難信号、SOS。

 警告色たる“黄色”の感情色。


 彼は助けを求めていた。




「──見えていますか? 主君の想い。貴方にしか報せる事の出来ない、此の“心の声メッセージ”。」




 “何故、どうして”と声にならない、音の出ない口から無音の息を吐く。


「私は山梔子口無し、舌を抜かれた吐く言葉の無い鳥。恩在る御方の御傍に在る為丈に空飛ぶ翼すら棄てた、檻の要らない彼の為だけの小鳥……そして此の世界彼の御体に存在する魔力の一部、末端の妖精フェアリー・テイル。」


 彼の声と相反して視界に映されるのは“彼女”の願い、そして「誰にも言うな」という口止めの指令。




 ──言っては為らない、彼の“本性”。


 あの黒く蠢く恐ろしい姿、それを自覚させてはならないと彼女は目線で伝えてくる。




 ──気付かせては為らない、彼の“使命”。


 彼が進めるゲームのその裏側、そこにある本来の役目は“自覚”ないまま続行させねばならない。

 彼にはその記憶すら残さずに。




 ──迎え入れては為らない、彼の“内側”。


 返った瞬間に、彼はより“根源這い寄る混沌”に近付いてしまう。

 誰かの為に努力をし続けて自身を劣から優にまで至った程に、そんな人を思いやる優しい彼が彼のままでいられなくなってしまう。




 “彼女”は役目を与えられた“神の代行者メッセンジャー”に遣わす星海渡る縞瑪瑙の水鳥だった。

 その役目とは、彼には為す事も、知る事も赦されない、険しくいつ崩れてもおかしくない危険な綱渡りの為の“命綱”たるもの。




 ──どうか……どうか彼の御方を、


 ──一人で立ち続ける事しか出来ない

   我等が主君を御助け下さいませ。




 それは、声もないままに“心”を読める自分に助けを求めていた。




 ──言えぬからこそ、頼れる者は

   人の思考を視れる貴方様しか居られません。


 ──……人の身の侭で、主君の“出来ない”を

   生まれながらにして為す事の出来る存在貴方様


 ──至高にして最上天才の御人……。




 そして彼女は、彼女の知る使命の全貌と共に、彼の人生の全てを書き記された“本”に唯一記されていないものを──本来彼には存在しない“12歳より以前”の彼の全ての記録記憶を、アーサーへと包み隠さず“贈った”。




「私は水に沈む海を泳ぐ事しか出来ません。彼の御方に“全てを救う”為の手足、世界中に広げられる高みを得るには……アーサー・トライデン、貴方様以外に此の世界には居られないのです。」






 *****






 ぱしん、と乾いた小さな音と共に、掴まれた手に歩み進めた足を止める。

 何かと思い振り返れば、走ってきたのか手首を掴んだままに息を切らして膝に手を付いて肩を揺らしていたのはアーサー本人だ。


 たった今まで、別れた後に一人になってしまう彼が困る事がないようにと策を練っていた所だったが、その先程までとは違う彼の様子に虚を突かれて思わず口を閉ざしたままに固まってしまう。

 顎先にまで伝う汗を空いている方の手の甲で拭いながら、見上げた彼の顔は何か物言いたげだったけれどもそれが口から出ることはなく、その様子からしてどうやら彼は言葉に詰まっているらしい。

 迷い困っている彼のその視線は右往左往と忙しなく動かされていた。


「……どうしたんだ?」


 見かねて此方から先に声を掛けてみる。

 怒鳴り・・・叱った事で自身が想像していた以上に脅えさせてしまった手前、気後れして踏み出せずに割れ物を扱う様にして声音に気を使い口にしたつもりだ。

 それでも先程の脅えた彼の姿が脳裏にちらつき、どうにも一歩を踏み出す事が出来ずに真っ直ぐ向き合う事に躊躇いが出てしまう。


「……あ、あの、さ……、」


 絞り出された声、続きは直ぐには出されずにまた訪れる沈黙。

 ぎこちなくって、どういう風の吹き回しか何処か照れ臭そうにも見える様子で頬を人差し指で掻いたりと、落ち着かない様子で金魚みたいに口を開閉させているアーサー。


 急ぐ事はない。

 終末へと向かう物語は今もこうして徐々に足を踏み入れて来てはいるけれども、それよりも今目の前にしている彼を優先するべくして急かす事なくどっしりと構え、彼が途切れさせたその言葉の続きに腰を軽く落として“目線を合わせ”ながら耳を傾けた。


 昔から、誰かにこうやって向き合って欲しかったのだ。

 でも誰もいなかったからこそ、自分が大人になった時に同じ様な子供がいたら“自分が”して欲しかった事をしてあげられる様にと、それで誰かの救いになれればと思って培ってきた今までの努力。


 傍に誰がいなくとも一人で立てるようにと覚えた技能は、全て無に帰してしまったが……まだ“知識”と“知恵”は残っている。

 使える手足は自分には持ち得無いけれども、それはアーサー達ではなく他の誰かに協力を依頼してそれを託してみよう。


 行く先不安は確かにある。

 一番の“最適解”は本来この世界に存在する筈のない“勇者”であり、それと同時に、神ではなく人の身のまま万能に近しい“天才”のアーサーだったのだ。

 それが駄目となると……さてどうしたものか。


「……あのさ!」


 一際張り上げられた声に、試行錯誤につい委ねてしまっていた思考を引き戻された一織が驚いて小さく肩を跳ねさせる。


 目の前にいるアーサーが眼鏡の硝子越しに真っ直ぐ視線を合わせて、深呼吸と共に漸く開かれた牙のある口から吐き出されたその言葉。




「──と、友達、に……なって…くれ、ませんか……?」




 咄嗟というか何と言えば良いのか解らないままみたく、慣れない様子で口にしたらしきその誘い文句。


 大きく見開いた目、逸らされない視線。

 ハッキリと聞こえた音、伝わったその言葉の意味。

 理解していく程に、時間が経つ程に高鳴りを増していく胸の鼓動。


 顔が熱い。

 掴まれた手が熱い。

 熱すぎて口の中が渇いてくる。


 頬を撫でる春の風は思ったよりも冷たいと言うのに、どうしてこんなにも全身を温めていくのだろう。


 手首を掴んでいた手を放させて、そこに自分の手を改めて重ね合わせて握り締めた。




「応、喜んで!」




 キラキラ輝く宝石箱を開ける様に、母の取って置きの料理を前にした時の様に、飛んで弾けた花火みたく見せた屈託のない笑顔に強く強く握り締めた手と手。




 転生し大穴産まれ落ちた先のワンダーランド。

 そこで生まれて初めて得た友達は、夢にまで見ていた“勇者”で“天才”の──憧れていた人だった。






 *****






 知らなかった。

 知らなかったんだ。


 彼を“鏡映した”彼女の姿、まるで幼くてか弱い子供。

 誰かから与えられた使“命”と器に、申し訳程度に引っ提げられた取って付けたみたいな“誰か”の名札名前


 中身の無い“殻”に仮初めの中身を押し込まれ、無意識な躍動に駆られて虚ろな器に物を満たすべくひたすらに知識と技能を詰め込み、身体だけ大きくなった所でそれでも産まれてからたったの十年・・ぽっち。

 それも死に絶えて、記憶は持ったまま再び・・世界その物として産み落とされてもまさかの一からやり直し。

 培った努力と使える手足は取り上げられてしまった。


 そんな産まれた転生したばかりで行く先不安、今度は身体は大人のままだとしても親も無しに寄り掛かれるものは何もない。

 知らない世界に一人ぼっち、隣に“誰か妖精”がいたところでそれは自身の影法師。

 足元に映った影に、寄り掛かれる質量なんて何もない。




 ……否、違うな。

 彼こそが“影法師誰かの身代わり”なんだ。

 誰かの“影”こそが、“彼”だった。





 十年なんて自分よりも半分も幼い、知れば知る程に彼は全くもって大人とは言い難い。

 それでも果敢に威風堂々と、自分は大人だからと気丈に振る舞って強がり中身ひた隠し──否、彼は知らないだけ。


 身体の内側に“怪物”が潜んでいるなんて知らされてもいないのならまだしも、誰からも教えられないのなら本人だって解る筈もない。

 しかも“それ”に成らない様に、気付かないままで“それ”で在り続けろ、と。




 まるで・・・自分だ、と思った。

 同時に、自分“以上”に惨いと思った。




 貴方と同じ様に、自分の内側には“怪物”がいる。

 それは知っていた。

 知っていたからこそ、“利用”し“自己人情”だけでなく色んな物を捨ててきた。


 それでも自分は恵まれている方だ。


 背中を押してくれる人がいる。

 助けになろうとしてくれる人がいる。

 今は離れてしまったけれど、他にも自分を支えてくれていた人達がいた。


 利用するに使い捨ててきた人達。

 人情持たぬままにて与えられた物だけ掠め取ってばかりいて、それでも気に掛けてくれたその人達を薄情にも煩わしいとすら感じていた毎日。

 只目的の為だけに使うだけ使って、その有り難みに気付かないまま放り出された王宮の外の世界。


 昔から何でも出来た。

 母と死に別れても周りには魔物達がいて、一人になっても不安に思う事は少なかった。

 出来ない奴の、自分とは違う人の気が知れなかった──だから“あの時”も間違えた。




 だから──凄いと、思った。




 自分よりも劣る彼、底辺から“群れ”の頂点誰からも頼られる人へと登り詰めた彼。

 十年で、誰を頼る事もなく。

 利用されても、利用しないで……たった一人で。

 それが大変な事だった事くらい、考える“頭”を奪われていた自分なら良く解る。

 信じられず利用出来なかった彼と違って、信じられないから利用だけしてきた自分なのだから。


 だから自分は尊敬されるに足らない、尊敬されるべきなのは寧ろ貴方の方だ。




 数ある有象無象の中で自分を“選んで”くれた事。

 出逢う前から自分を知った上で“心配”してくれていた事。

 化物でしかない自分に“人間だ”と断言してくれた事。

 侵した間違いを“叱って”くれた事。

 出逢ったばかりの自分に温かな“感情”をくれた事。

 人でなしの自分に、それでも“友達”になりたいと言ってくれた事。




 “等価交換”を絶対プリンシプルとする自分だというのに、気付けば沢山を受け取っておいてまだ何も返せていない。

 寧ろ“蔑ろ”にしてしまった。


 だから自分の事を棚に上げて、貴方に脅えるのはもう止めよう。

 知ってしまったんだ。

 貴方はどうしようもなく、誰よりも優しい。


 そんな貴方に受け取った“もの”を返せるのならば、この何処にも行く宛の無い一人身、何処までも付いていこう。

 只……自分にはもう、と決めた“指導者ブレイン”がいる。

 だからいつかは帰らなくてはならない、貴方の様に自分にも護りたい人がいるから。


 でも王宮よりも広いこの世界その物に危機が迫っているとするのならば。

 その基点が自分であって、既にもう貴方とは一蓮托生だというのだとするのならば──、




 僕が貴方の為の“主人公一番星”に成ろう。




 自分が貴方の助けに成る事で世界その物大切な人達を護る事に繋がるのならば、やらない訳にはいかない。

 貴方の為の忠“犬”には成れないけれどそれでも貴方を護る程度、別段どうって事は無い。

 自分の庭だった王宮……否、“王都”から少し・・広くなって“世界その物”になるくらいだ。




 庭を護るくらい朝飯前、十八番ってヤツだ。

 だって僕は“王国の守護者ガーディアン”──否、“庭師の怪物ガーゴイル”なのだから。

 貴方に振り掛かるから護る程度、誰にも負けない頑丈な雨樋の僕なら簡単。




 だから、“任せて”くれよ。




 一からやり直す丸腰な貴方に、僕が贈るのは


 強くてニューゲーム。/取って置きの魔法。

 天才と呼ばれた僕。/最強の武器にして手足。


 遣って魅せて、“檣頭電光セント・エルモの雷光“が貴方を終着点大団円まで贈って返そう。


 神様と始めた世界救済このゲーム、僕が貴方に絶対の勝利を約束するよ。






 *****






 豆撒け 種蒔け を蒔け

 花咲け は情け 春を呼べ


 仲間を増やせや 鬼ごっこ

 出逢って 知り合って 触れ合って

 タッチ! 今度は“君”の番




 一番始めは 赤の“辰”




 自己無し 無し 贔屓子守ひきこもり

 阿呆気取って 踊って掌 くるくる回る


 傀儡? 否 異也 人形遣いパペッティア

 手の上 転がし 高みの見物 素型姿隠し


 目眩まし 尾隠し 面羽織れば 素 ひた隠し

 盲ぶって 爪隠し “能”ある“天”才高み


 誰にでも尾振り ぶり お掃除仕事

 悟らせないで欺くは御機嫌取り 花摘み 命獲り

 誰にも気付かせない 秘密の御庭番にして庭師ガーゴイル




 えらぶは 誰が為 法師の為

 立ちますは“上座” 立役者主人公 一番星スタァ

 狂言回しにて 承けてつかまつ




 いつだって誰かの添い星の君


 “泣いた赤鬼” 捕まえた



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