秘話伝:千一夜物語は終わらない。下
明け方、空が白んできたその頃。
“本来の”彼が生きた世界を模したその空間はまた新たな日を迎える。
そこは確かに
我が子を──“神村一織”の名と存在だけを持って新しくに生まれ変わった“中身の無い蛹”の様な子供を、彼らしく、健やかに生きていけるようにと。
そして母親に成りきれずとも
今ではもう彼の思うがままに物事が動く事は無いけれども、それもきっと大丈夫、彼はちゃんと一人で立てている。
今はまだ幼さは残るけど、親よりもしっかりとしているのだから後はゆっくり、時間を掛けて大人に成っていけば良い。
そこに……自分が何か、彼の背中を押してあげられる事があれば良いけれど。
その為には先ず、自分も負けずに何かを成してみよう──そう思って、彼女は質素なアパートの狭いキッチンに立って“初めて”包丁を手にしてみたのだ。
「……ッ! あいたた……中々上手くいかないわね…。」
切っ先が掠めてプツリと切れた指先に、赤い風船みたく膨らみ出た血。
それを眺めてより口に入れようとして、ふと思い直すとそれをそのままに水道の水で流し落とした。
それから直ぐ傍に置いていた絆創膏を一枚手にとってフィルムを剥がし、ミイラみたくなった指先に新たなそれを巻き付けると必要なくなったフィルムを同じものが複数転がるゴミ箱の中へと放り投げた。
規則正しいとは言えない、包丁がまな板を叩く音が響く朝方のキッチン。
暫くしてその部屋の扉の向こうでドアが開く音がして「もう朝トレの時間か」と彼の規則正しいスケジュールを目安に、時計も無しに時刻を把握する。
直ぐに玄関の開く音が聴こえるだろう、と彼女は包丁と睨めっこをしたままに何と無くに思っていたのだけれども、それよりも先に近くの……キッチンの扉が開く音の方が聞こえて“おや?”と彼女は手を止めると振り返った。
「おはよう海月。……こんな朝早くから、何してんの?」
そこには日課のジョギングの為にジャージを身に纏った我が子の姿が、キッチンに繋がる扉の傍らで佇み目を丸くした顔で彼女を見詰めていた。
「おはよう、一織。ちょっと、ね……朝御飯作ってたの。」
驚いた様子の彼の姿に些か気まずくなってしまい、思わずふいと視線を逸らしてしまう。
今までこんなまともにキッチンで何かをする姿なんて、一度も見せた事がなかったからだ。
いつだって、権能を使って無い筈の食材を使って豪華に見える食事を用意してみせたり、作るフリをしてズルをしてみたり、彼女自身食べる必要がないのだから味見だってしないで出してしまったり。
只でさえ良い加減だったというのに、綻びばかりとなった権能から違和感を感じた彼がそれ以降一切口にしてくれなくなる事だって、今までにはあった。
「ふぅん……あっそ。別に作るのは良いけど……血とか雑菌とか、汚ないのは入れないでよ? 身体壊したくないし。」
そう言って彼はピシャリと扉を閉めて出ていき、その足音が離れていくのを耳にしながら「わかってるわよ」と苦笑まじりに彼女は返す。
素っ気ないけれども思った通りの言葉に、先程の切り替えた血の処置に命拾いしたことからの安堵で人知れず小さく息を溢す。
「
一人ごちては“今の所”生まれてこれより無病息災にて過ごす我が子の事を考えて、開かれたレシピ本と手元を見比べながら調理を進めていく。
今までは“保険”が在ったから杜撰に、良い加減だったのかもしれない。
だから、知識も無く無責任に与えた適当な料理に当たってしまい、彼を寝込ませてしまった。
だから、栄養素も何も考えず喜びそうな物、豪華な物と見境無しに与え過ぎて体調を崩させてしまった。
だから、閉じ籠ってしまった彼が身体を壊してしまって、それから──何度も繰り返した。
何度も、あの子の命を絶たせてしまった。
不衛生からの病に然り、栄養失調からの体調不良然り。
大怪我で再起不能になった、虐めに遭って益々心を閉ざした。
自己嫌悪に苛まれ、立ち直る事無く彼自ら命を絶った事だって何度も在った。
何度“次こそは”と、痛ましい彼を見棄てた事か。
何度命を絶っても、自分の世界だからどうにも出来る。
どうしたって彼を惹き付けてしまうあの不浄の黒海が、一度
“
思い上がっていたんだ。
自分なら出来る、大丈夫だって。
そう思っていたから、きっと今までの全てが駄目だったのだろう。
だから、彼の代わりに“それ”を手離した。
「──手伝うよ。
気付けば隣にあの子供が居て、ジャージの上着だけを脱いで白い半袖シャツ姿の彼が手を洗いながらそう彼女へと言った。
「貴方……いつものジョギングは? 外に行ってたんじゃないの?」
「……雨降ってたから。それにその包丁使いじゃいつまで経っても終わらないだろ。間に合わなくって朝飯無しで学校行く訳にもいかないし、放っておけるか。ホラさっさと替わる!」
「はいはい、解ったから。そう急かさないの。」
視線は相変わらず合わせてくれないものの、少々乱暴気味に交代を求める我が子の言葉に、仕方無さそうにも何処か嬉しげに口元を緩めた彼女が包丁をまな板の上へ置く。
立ち位置をも入れ替わった後の彼は、彼女よりもずっと丁寧に手早く、一定のリズムを奏でながらそれをどんどん終わらせていった。
本当は自分一人で彼の為の朝食を作りたかったものだけど如何せん彼の言う通りであり、いつもの様に手持ち無沙汰に成ってしまった彼女は“どうしたものか”と何か出来る事が無いか視線を動かす。
とんとん・とん、と今までリズム良く物を刻んでいた音が徐に止まると、くるりと頭だけ振り返えらせた彼は「なァ海月」と彼女を呼んだ。
「うん、なぁに一織?」
右往左往とさせていた視線を彼へと真っ直ぐに向ける。
内心“邪魔だから向こうへ行ってくれ”とでも言われてしまうのだろうか、なんて役に立てなさそうな自分に彼が言いそうな事を想像してみる。
しかしそんな想像に反して何とも言えない、何処か照れ臭そうにも見える様子で顔を向けたままに、視線を逸らした彼が口をもごつかせると彼はそれを彼女へと言った。
「……冷蔵庫、扉ん所に賞味期限が近い卵があるから、それ取ってくんね?」
それは些細な“頼み事”だった。
それを言った彼は再び包丁へと視線を戻し、またあのまな板を叩く音が響き出すのだけれども少しして止まり振り返った彼は、固まったままの彼女を見て訝しげに顔をしかめた。
「……海月? 何ぼーっと突っ立ってんの?」
「……え? あ、嗚呼、ごめんね一織。直ぐ取るわ。」
名前を呼ばれてびくりと身体を跳ねさせた海月は、彼の言葉に慌てた様子で冷蔵庫へと駆け寄る。
扉を開けて、目の前と言われた通りの場所の二ヶ所に卵のパックはあり、指示された方の扉に置かれた卵を一つ手に取ると扉を閉ざしてそれを一織の元へと届けに行った。
「はい、これで良いかしら?」
「ん、ちゃんと扉の方のヤツだよな? 奥のはまだ買ったばかりだから、生で食う以外にはまだ使ってくれるなよ。……んじゃ、次は……。」
海月が差し出した卵を受け取りつつそう言う一織は話しながらも手を止めずに、目の前の食器乾燥の為の簡易棚からお椀を取り出してそこに卵を割り入れた。
その時に力加減を間違えてしまったのか、くしゃりと割れた手の中の殻とお椀に落ちた破片を見て彼は小さく舌打った。
「ごめん海月、箸取ってくれ。」
殻をゴミ箱へと投げ捨て水道で手に付いた殻の破片や白身のべたつきを洗い流しながら、彼は再び彼女へと指示を出す。
海月もまたそれに相槌を打つと食器棚の引き出しから彼専用の箸を取り出して、タオルで手を拭いていた一織へと差し出した。
それを受け取ろうと手を伸ばした彼は、その箸を差し出す彼女の表情を見て訝しむ様に顔をしかめた。
「……何笑ってんの?」
「んー? ううん、何でもないわ。気にしないで。」
緩んだ口元と嬉しげに細められた弧を描く目元。
今にも鼻唄を歌い出してしまいそうな雰囲気の彼女に「……あっそ、変なの」と溢して、箸を受け取った彼はお椀の中に落ちた卵の欠片を取るべく箸を片手に睨めっこを始めた。
「(初めて……初めて、一織があたしを頼ってくれた……!)」
本当に、本当に些細な事だ。
月から見た豆粒みたいに、ほんの僅かなものではあったのだけれども、彼女からすれば一番に大きな衝撃であり出来事に感じたのだ。
「……よし、取れた。なァ海月、棚から皿を出しといてくれ。平べったいヤツな。」
殻の摘出を終えてその箸の汚れを水で濯ぎ落とした彼が、お椀の卵をかき混ぜながら言う。
それにも嬉々として従い皿を手に取ろうとする彼女の後ろ姿を眺めていた彼は、ほんの少しの思案して「ごめん、もう一枚も頼む」と追加を頼む。
「はぁい。……今日は良く食べるのね。いっつもご飯とお味噌汁とおかずが一品ばっかりだと言うのに、成長期だからかしら?」
浮かれた気分を抑えきれないままの海月が何の気なしにそれを口にすると「煩いな、放っといてくれ」といつもの憎まれ口が飛んでくる。
「俺のじゃない、アンタのだよ。いつも俺の知らない所で食ってるみたいだけど……あの様子じゃまだなんだろ? 序でに作ってやるよ。」
そう言って彼は事前に温めていた四角い小さなフライパンに、かき混ぜた卵を注ぎ落としていく。
じゅうぅっ……と食欲をそそる耳に心地良い音が鼓膜を揺さぶる中で、ぴたりと動きを止めていた彼女は玉子を焼いている一織の後ろ姿を凝視した。
「それともなんだ、要らなかったか?」
背中の向こうから、静かな声が投げ掛けられる。
唇をきゅっと閉めていた彼女が「……ううん、そんな事無い」と、少しだけ声を震わせて返すと「じゃあもう一個、卵取ってくれ」とすかさず彼より指示が飛ばされる。
「……手伝いたいんだろ? そこら辺でうろちょろされるくらいなら、俺が指示するから従ってくれ。後勝手な事をしてくれるな、予定が狂う。」
相も変わらず、冷たい物言いだ。
それでも彼女には嬉しくて堪らない程に、温かく感じてしまう。
「嗚呼……今日はとても、良い日ね。特別な日にしましょうか。」
「何を言ってるんだか、何の記念日にも成りやしねェよ。……第一、するにしたって何の日にするってんだ。」
器用にフライパンを揺らしながら、焼けて固まりだした玉子を丸めていく一織が視線を外さぬままに言う。
そんな彼の隣へと卵を片手に歩み寄った海月は、その鮮やかな黄色を映す玉子焼きが形に成っていく様を横から眺めながら弾んだ声で答えた。
「ふふふ、だって今日は貴方と出逢って“千日目”なのよ。そう考えると特別感が無いかしら?」
“今の”彼と出逢ってから、ではあるけれど。
それでも、彼女は今までこの“千日目”を越えられる事が叶わなかった。
病に、大怪我に、事故に、虐めの延長戦にて
墜ちていく小さな手を、彼女はいつだって間に合う事はなかったけれども、永く永く終わらせずに続かせた“やり直し”の果てに、漸く追い求めていた進歩が目に見えたのだ。
その果てしなく感じる永い時間こそ、“約千年”。
千を越えてより一年目となるその“やり直し”の中での千日目、一人で何でもしたがる彼が初めて彼女を頼ったのだ──権能が必要ない程、些細な頼み事だったけれど。
「“
「そんな事は無いわ、だってこれからだもの。千日も千日一日も関係無い、千年を越えようともあたしは貴方から離れないわ……貴方が立派に大人になってくれるまでは絶対、ね。」
一織からの言葉に自信満々にそう言ってのける海月に「千年も生きてられっか、精々人間五十年だっつの。」とおかしそうに彼も口元を緩めて返す。
「あら、五十年だなんて短い時間じゃ足りないわ。それこそ、百年生きるつもりで居なくちゃ。あたしよりも先に死んでしまうなんて事、もうしないで欲しいもの。」
「アンタなぁ……まるで俺が死んだ事あるみたいな言い方はよせよ、俺は一度たりとも死んだ事なんてねェよ。……っと、よし出来た。」
得意気に唇に舌で撫でた一織が、会話の最中に作っていた二つ目の玉子焼きを二枚目の平皿へと乗せてその脇にミニトマトと千切った葉野菜を添えて並べた。
お世辞にも豪勢とは言い難いそれは当然何か特別な事をしたものではなく、人並みに色々出来る程度の一織が少しばかり味付けに出汁を入れた程度の一般的なもの。
傍らで刻んだ食材を煮込ませた野菜たっぷりの未だ味付けされていない鍋が湯気を噴いて沸騰を報せるので、それの火を止めつつ冷蔵庫から海月に取ってもらった合わせ味噌をその鍋の中で溶き混ぜ合わせるべく蓋を開ける。
その瞬間、ぶわりと沸き立った熱い湯気が湯に溶け込んだ野菜の香りと伴って狭いキッチンの部屋中へと広がっていき、鼻腔を擽るその空気に思わず腹が鳴いてしまいそうな気持ちになった。
掬い取った味噌をお玉へと移しお湯に浸して少しずつ溶かしていく一織は、それが湯の中に完全に溶け消えるとかき混ぜてから少量を掬い取り側に置いていた小さな皿へ移してそれを口にした。
「……ん、こんなものか。」
そう呟くと粉末出汁が入った小瓶を手に取って振り掛け、その後も味見と調味料の追加を数度繰り返した後、口にしたそれに大きく頷いた一織が追加したその味噌汁の味見皿を海月へと差し向けた。
「ん。」
言葉少なに差し出されたそれにキョトンとした海月は戸惑いつつも手に取って、皿と一織を数度見比べて首を傾けた。
そんな彼女に大きく溜め息を吐いた一織はガシガシと頭を掻くと、ブスッとした顔持ちになった。
「味見だよ味見。俺はアンタの好みを知らんからな、これで良いかって聞いてンだよ。」
「味見……。」
ぼんやりと手の内の皿を見詰めてうわ言みたく呟いた海月に「要らんのなら食わんで良い、無理して食われる方が腹立つ」と一織は言うと、そっぽを向いたかと思えばそれ用のお椀を取るべくしてすたすたと彼女の前から立ち去っていった。
味噌汁の白っぽい濁りのある茶色の水面を眺めて、それから目を離せないでいた彼女は軈てそれを口に付ける。
唇の隙間を通って熱い液体が流れ込んでくる感覚に一瞬びくりと肩が跳ねてしまうが、舌をぴりつかせながら熱を残して喉を通っていくそれを、味わう様に目蓋を閉じて天を仰いで飲み干した。
その何だか懐かしい様な、それとも初めて口にした様な、どっち付かずに温かみのある味に新鮮さを感じ入りながら漸く口内を空にした彼女は軈てゆっくりと長い息を吐いた。
何の変哲もない、素朴で代わり映えのない味だ。
彼は人としてその限界に挑み努力を重ねている為に、幾ら“何でも”出来るとは言えその上限は人の力が及ぶ所まで。
“天才”には程遠い努力家なだけの一織は当然完璧には成れず失敗だってするし、出来るからと言っても普通より少し上止まり。
その彼が作った料理も一般家庭で良く見られる様な、凄く美味な訳でもなければ豪華と呼ぶには劣るものだ。
それでも温もりのあるその味は、不浄に蝕まれる苦痛に一睡も叶わない彼女の冷えた身体を、その内側から確かに温めてくれていた。
僅かに日が差し込むだけでまだ明るいとは言えなかった早朝のキッチンはあれから時間も経ち段々と明るく慌ただしくなってきた。
唯一外の様子を伺える窓も磨りガラスにて向こう側をハッキリ映してはくれないけれども、そこから射し込む外の明るさだって気付けば随分と光量を増していた。
通学の時間も差し迫ってきた一織が少しばたついた様子にて海月へと指示を出しつつ、炊飯器から二人分のご飯をよそってそれを食卓の上に並べ置く。
「あちちっ! ……嗚呼もう、お味噌汁の湯気が熱くて敵わないわ。」
「蓋を開ける時は気を付けろ、自分が居ない方から傾けて開ければ熱くないから。……此方は時間が無いんだ、さっさと食うぞ。」
はぁい、と一織の急かす声に気抜けた声で返事をすると、両手に持った味噌汁の入ったお椀を食卓へと運んでいき、それを机に置こうとしたその時だった。
彼女のお椀を持つ何の変哲のない手が──女神の姿だった時には不浄に犯され黒ずんでいた腕が──不意に力が込められなくなり、支えを失った手からお椀が傾いた。
「あっしまっ──、」
ぶちまけてしまう、そう思った矢先。
それを目の前にして見ていた一織が、すかさずそれに手を差し出してそのお椀の傾きを止めたのだ。
「……っと、危なかった……海月、味噌汁かかってないか?」
「え、ええ……ごめんね、一織。また失敗してしまう所だったわ……。」
コトリ、と一織の手から食卓へと無事に置かれたそれを見て、今は黒くなっていないその腕を彼女は擦る。
それを横目にちらりと見遣っていた一織は「早く、飯食うぞ」と彼女に着席を促して自分も専用の箸を手に取った。
「いただきます。」
「……いただきます。」
向かい合って座った彼等は、片やいつも通りに、片や初めてそれを口にして箸を手に取り目の前の豪華でも無ければ珍しくもない、普通で質素な御馳走へと箸を進めていく。
鮮やかな黄色を彩った玉子焼きに箸を押し込むとその僅かな弾力からプツリと柔らく断絶を許し、内にて広げた箸に沿って二つに割かれたそれの小さく一口サイズにした方を摘まむと、ゆっくりと落とさないように口の中へと運び込む。
唇に差し掛かった時に湯気が温もりを皮膚に伝えてそれが熱いことを示すので“ふぅ、ふぅ”と息を吹き掛けてより思い切ってそれを口の中へと押し込んだ。
「(……熱い。)」
口の中に入り込んだそれは熱を発しながら、噛み砕く程にじゅわりと内側に閉じ込められた旨味を含んだ汁が溢れてくる。
彼が出来立ての方を自分に譲ってくれたらしく、はふはふと息を吐きながら噛めば噛む程に味が口の中に滲み溢れてくるそれを箸の無い手で口元を隠しながら咀嚼し続け、軈て飲み込める程に細やかになったそれを飲み込む。
まだ熱が冷めきっていないそれが喉を通っていく感覚、それが胃の中に落ちていく感覚が、身体の内側で見えないと言うのにその感触から良く解る。
まだ一口目だと言うのにそれだけで長い間味わっていた様な気になってしまうそれに、飲み込み終えて腹の内に貯まる感触を目蓋を閉ざしたままに堪能した彼女は溜め息混じりにぽつりと溢した。
「──美味しい。」
腹の中の熱がぽかぽかと、内側から身体を温めてくれる。
それが堪らなく、何とも言えない、言い表せない感情を引き起こして思わず目頭が熱くなる。
「……さっさと食わねェと冷めるぞ。」
目の前で茶碗を片手に白米を口に運ぼうとしていた彼がそうぶっきらぼうに言う。
彼女がゆっくりとたった一口目を堪能している最中に、もう残り僅かにまで食を進めていた彼は残りを口の中へと放り込むと箸を置き、ぱちん! と両掌を合わせた。
「御馳走様。……んじゃ、行ってくるわ。食器は俺が帰ったら洗うから自分のは自分で水に浸けておいてくれ。」
そう言って自分が使った食器をシンクへと運び、軽く水で濯いだそれを側にある綺麗な水を溜めた桶の中へと沈ませてバタバタと自室へと小走りに向かう。
ばたん、と閉められた扉の向こう側からもドアを開け閉めする音が聴こえる中で、ぼんやりと腹を擦りながらその温もりを噛み締めていると、ふと、以前にもこんな仕草をしていたような気がした。
思い出せない、思い出せる訳がないそれに不思議に思って首を傾けていると、再びドアが開く音が聴こえてきた。
「……いってらっしゃい、気を付けてね。」
食事を終えていない為に、いつもなら挨拶も無しに駆け出していく彼の背中を見守るべく玄関へと向かう訳にいかず、家を出ようとしているらしい足音に向かって壁越しに、少しだけ声を張り上げてそれを言った。
するとぴたりと止まった足音が此方へと向かってきたかと思えば扉が開かれて、ジャージ姿から学ラン姿に着替えた彼がリュックを片手に顔を見せたのだ。
「いってきます。……身体、辛いんなら寝とけよ。」
そう言い残すと再び扉は閉められて、遠ざかる足音が玄関のドアの開閉音の後にぴたりと止んだ。
今日はなんと、良い事が続く日なのだろうか。
彼が無愛想にでも、自分を気遣って残してくれたその言葉に感無量となり思わず目頭を摘まんだ。
そして長く深く息を吐くと、気持ちを切り替えて再び箸を進めて食事を再開した。
箸を通す感触は冷めてきたから先程より少し固さを感じて、口に近付けても息を吹き掛ける必要の無さそうなそれを口内へと押し込む。
やはりそれはもう冷めてしまっていて、それでも旨味を溢れさせるそれをゆっくりと咀嚼し続けた後に飲み込めば、その異物が喉を通る感触、そして胃に落ちていく感触を噛み締めて、先程と比べて熱を感じられないそれに少しだけ寂しさを感じた。
それを玉子焼きだけでなく白米で、それから偉く偏った大きさの具材が浮かぶ味噌汁で、と繰り返していき軈て皿の上に盛り付けられていた物が空になると、腰掛けていた椅子の背もたれへと全体重を委ねて天井を仰ぎながら彼女は腹を擦った。
「美味しかったな……こんなに、美味しかったんだなぁ……。」
目蓋を閉ざして先程食したものの味を思い起こしながら、下腹部を擦る手を左右に撫で動かす。
そして暫く堪能した後に、彼に言われた通り水で濯いだ食器を水に漬け込むとその水桶の中に重ねられた塔を見て、スポンジへと手を伸ばし──思い悩んだ後、それを止める事にした。
「今のあたしじゃあ、またお皿を割ってしまいそうだもの……悔しいけど、何もしない方が良い……のかな……。」
掌を眺めて彼女は独り呟く。
仕方ないのでリビングへとふらふらと向かい、そこに置かれたソファーへと身を横にしようとして、ふと立ち止まる。
雨が降っていたと聞いた割に随分と明るく射し込む、カーテンの隙間からの漏れ日。
からりとレールを鳴らせて捲れば、地面の何処にも水溜まりなんて一つも無く、空は快晴にて雲すら見えない真っ青なキャンパス。
それに少し目を丸くしていた彼女も、軈て空を見上げる目を眩しげに細めて、いつもなら閉めっぱなしのカーテンを開放させた。
いつもよりずっと明るくなった部屋のソファーにて、仰向けに寝転がった彼女は天井を見詰める。
そしてその身に降りかかる日差しの温かさに感じ入っていると、先程食したものの味を思い出すと、何故だか無性に“そう”したくなって手を置いていた腹を擦った。
「……ずっと、お腹空いてたのかな……?」
そう考えて、近いようで何だか違うような気もするそれにもどかしくなり口を閉ざす。
そうして彼女は眠ること無く目蓋を閉じたままに、ゆっくりと腹を撫で続けて胃の中に在る彼と作った物の感触にて穏やかに余韻に浸る。
彼女が撫でる手元の腹、そこに胃の場所はない。
それよりもずっと下方に在る下腹部──それは丁度子宮の在る位置で、そこを愛おしげにゆっくりと撫でて目を閉ざした彼女の姿は、まるで身籠った女性の様だった。
- - -
──思い出した、思い出したの。
消える間際にて、かつての“自分”が願っていた事が脳裏に甦る。
それと同時に欠けていた記憶が完全となり、生前の自分の愚かさに思わず溜め息を溢した。
自分はいつだって自惚れていた──“幾重にも罪を重ねて、膨らんだ腹の子を抱けぬまま命を落とした”憐れな女の、女神だった。
腹の中には
昔から疎外感のあった親にはとうに見捨てられており、誰を頼ろうにも宛なんてない。
身を売ってその日暮らし程度の金銭にて遣り繰りしていたから、下ろそうにも病院にかかる余裕はない。
仕方がないのでそのままにしていたら腹はどんどん膨れていく。
始めは邪魔に思えてたそれがいつからか愛着が湧いてしまい、膨らみのある腹のまま身を売る訳にも行かず、苦手で今まで避けてきた真っ当な職に身を置いた。
それでもやはり容量悪くて失敗ばかりで、全然長続きすることなく辞めてしまったり“クビ”を切られたり。
自分はこんなにも頑張っているのに、誰もそれを認めてくれやしない。
アイツらが憎い、ほんの少し失敗しただけで自分を見捨てた奴等が。
自分は何も間違っていない、こんなにも苦しいのは見捨てた奴等のせいなんだ。
程無くして貧しさが増してしまってからも腹は大きくなるばかり、お腹は空くばかり。
親が気に掛けてもくれなくて自力で調達するのが当たり前になっていた、親の財布から少しばかり“拝借”して空腹を凌ぐに幼い頃から利用していたコンビニの弁当やお握りだって軈て買えなくなった。
技量もなくて上手く出来ない上にこの見た目だからか職にも恵まれず、身売り先にも遂に切り捨てられてしまう程に首も回らない。
飢えた余りに万引きに手を染めてしまうも、身形がみすぼらしくて直ぐにバレた。
『これは“大切な”商品なんだから盗んじゃはダメだよ。どうやらお金に困っている様だし身重だから、今回だけは見逃してあげるけど──』
──“大切”じゃなければ、なんだってしても良いのか。
そんな、自分が被害に遭わせてしまったと言うのに赦してくれた見知らぬ人の善意に甘えてしまって、どうにかその場は凌げても……それからは店を変えて、地域を変えて、罪をどんどん膨らませてしまった。
大丈夫、まだ大丈夫。
次こそは、次ならばきっと上手くやれるはず。
小さなものに些細なもの、バレるかどうかの瀬戸際を何度と繰り返していけばその悪行も直ぐ様知れ渡る。
塵も積もれば山となる、だ。
不審に思われていただけだったのも愈々顔まで覚えられてしまっては益々食糧を得る手段も無くなっていき、そして他人から警戒されるようになってしまっては身を安らげる場所も限られていった。
追われる様になってからは常に人目を気にして、道行く人ですら疑心暗鬼に疑ってしまい、自分の身を守るのに精一杯でお腹の子供を気にかける余裕も次第に無くなっていっていった。
親に愛されないで大人に成った自分。
誰からも愛された事がないから、上手な愛し方も愛され方だって解らないまま成長してしまった。
暴漢の末に産まれた自分を母親は認めてくれず、父親が誰なのかすら知らない。
身を売って誰かに“愛して”貰っても飢えた心は埋まる事はなく、代わりに自分に残ったのは腹の中に点いた小さな
いつかは産まれてくるその子供が、自分に残されたたった一つのか細くも確かな繋がりが、きっと母親になる自分を一番に愛してくれるのだろう。
だってこの子には、守ってくれる人は自分しかいないのだから──そう、腹の子にすがっていた、のに。
人に追われ、背後から投げ付けられる汚い罵声。
生きる為、いつか産まれてくる我が子の為に、痛む腹を抱えて必死に走って高架上。
けれども前からにも人が立ち塞がられて身動きが取れなくなり、にっちもさっちもいかなくなる。
その高架の下には川が在って、軈て海に繋がるそこへ飛び降りればきっと逃げ切れられる。
そう思って、意を決して身を投げては追手の手から逃れられた──けれども。
水面に強く叩き付けられた背中と激しく舞い上がる水飛沫。
頭が
辛うじて意識が飛ぶことは無くとも、手足をばたつかせてもがき続けて流れ行き着いた下流の河川敷で、動けなくなる程の激痛と吐き気に苛まれて思わず踞ってしまう。
まるで腹に強く叩き付けられたかの様なその痛みに、自分の下腹部からの何かが“流れる”感覚を覚えて、濡れて冷えた身体をよりゾッと凍えさせた。
足元に広がる赤い水溜まり、泥と混ざりあって黒く濁っていくその水の中を掻き回して涙ながらに“落ちて”しまったそれを探す。
『嫌っ……嫌ぁあぁっ……!! あたしの子なの、大事な……大事な子なのに……っ……貴方までいなくなったら、あたしはっ……!!』
闇雲に探し続けて手に取ったのは、潰れた蛹の様な中身が無く軽くて小さな訳の解らない何か。
それが本当に自分の腹から出たものかどうか何て解らなくても、何でも良いからすがっていたくて、それを黒く汚した掌で抱えながらボロボロと涙を流して月明かりもない真っ暗なそこで泣き喚いた。
『どうしてっ……どうしてあたしがこんな目に遭わなきゃいけないのっ……!! あたしは、あたしは、ただ……っ、』
──誰かに愛されたかった、誰かの唯一になりたかった。
一人は寂しいから、誰かに傍にいて欲しい。
一人は寂しいから、誰かに
一人は苦しいから、誰かに愛して欲しかった。
誰でも良い、誰かの
流れ落ちる血が、身体を濡らし滴る水が、録に食事を取る事が叶わなかった弱り痩せ細った身体から熱を奪っていく。
せめてこの身が息絶えてしまうのならば、誰かに受け入れて欲しかった自分は最期に大きく広いあの大海原を求めた。
きっとそこなら、こんなちっぽけな自分くらい包み込んでくれる筈、受け入れてくれる筈。
そう思ってそこへ向かうべく立ち上がろうにも足に力は入らない、ならば這ってでもと川へ手を伸ばしても身体を引き摺って動かす程の力は出ない。
子供が落ちて凹んだ腹はずっと前から飢えたままなのだ、自分の身体を動かす力はこれっぽっちも残されてやいなかった。
嗚呼──結局、こんな惨めな自分は誰にも受け入れられやしないんだ。
掠れていく視界は軈て黒く閉ざしていき、熱の失せた身体からは一切の力が抜け落ちた。
海に辿り着けず河川敷に打ち上げられたみすぼらしい女は、月にすら見向きもされずに事切れた新月の夜。
それが、誰かに愛されたかっただけの自分の最期だった。
時は満ちた。
準備は整った。
“保険”もなく最後の賭けであるあの子は怪我も病にも侵される事なく、健やかにすくすくと成長し漸く大人に成った。
少しばかり自分に“似て”強がりで自惚れ屋な性格は移ってしまったけれど、地道に努力を重ねてきた貴方なら身に付けた力の使い所はちゃんと理解している筈。
だって幾ら態度の大きい高慢ちきでも、身の程知らずには程遠い。
貴方が得てきた力はその積み重ねた努力と、ちゃんと釣り合っているのだから。
自分はもう、随分と身体が黒く染まって上手く動けなくなってしまったけれど、あの日黒海に身を投げて貴方を拾い上げた事も、“忘れた何か”を捨て去った事にだって悔いは無い。
寧ろ清々した──そう思う程に、死を間際にして感じたくらいだ。
嗚呼でも、最期に“海月”として貴方と会った時に、合わせた顔が貴方の泣きそうな顔だった事は少しばかり寂しかったかもしれない。
ごめんなさいね。
貴方が言わなくても解っていたつもりだったけれど、確かな“言葉”が最期に欲しい──そう思ったのが、貴方をそんなに苦しませる羽目になるとは思いもしなかった。
だから──、
…………だから、だろうか。
貴方が、遠くで自分を求めて無我夢中で駆ける貴方が。
一心不乱に走りながら“母親”を呼ぶ貴方の声が。
“最期”を覚悟した筈の自分に、“もう一度”と欲を湧かせた。
──まぁ、当然よね。
だって、これから“息子”の晴れ舞台が始まるのに、くたばってられるかって話だもの。
あのまま願いが叶い“最期”を受け入れて黒い海に堕ちてしまえば、きっと貴方とは二度と会えなくなってしまう──それは嫌だ。
願いが叶い消滅した神が生まれ変わる事も赦されないのは、きっと神とは罪を犯した者が成るからなのだろう。
だから──「願いを叶えてあげるから、二度と現れてくれるな」
そんな意味が含まれていそうなそのルールに、あたしは“ふざけるな”とその誰が決めたか知らない“不条理”に逆らった。
あたしは始めから“思うところ”があったから、それを始めた。
気に食わなかった──その結末に“納得”出来なかったんだ。
だから、親に置いて逝かれたあの子供を拾い上げた。
だから、子供が要らないと棄てた“自身”を拾い上げた。
だから、あの子に後悔をさせたまま退場するのは止めた。
だってそうでしょう?
消えて無くなってしまえば背中を押す手も無くなってしまう。
あたしはあの子の“母親”なの、悲しい別れのまま終わるだなんて有り得ない。
だから、どうせ消えてしまうのならばと“予め”用意していたもう一つの“自分”へとその身を転身させて、“母親になる事に固執する女神”は無かったことにした。
自分はもう“母親”だから、今の自分の願いはそんなものではないのだから、そんな女神はいないのだから自分が消える必要も無いでしょう?
──なんて、屁理屈捏ねて無理矢理に免れたのだ。
そうして強引に自分の手を引く黒海から、逃れてきた先はかつての子供が作り上げた世界であり、昔に作ったもう一つの“自分”である空の器。
海底沈んで水の中、深くで揺らめくポリプの樹。
今まで活動を停止していたそこへと身を下ろして、今までずっと働き通しだった身体を休めるべく目を閉じた。
そこまでしなければならないのだ、格が落ちようと知ったことか──その程度の差異、何て事無い些事だわ。
だってあたしはあの子の“ファン一号”。
あの子が再び綴り出した物語を深くて神ですら手の出しようもない深海で、“高見の”見物をするのに神の身を朽ちさせ“神の遣い”まで格を墜とした只の魚擬きの竜。
身体を大きく包み込むヒレはまぁるく、傘みたいに膨らませてはまるで満月。
尾びれは別れて無数に伸びて、細く長いそれを後ろで揺らめかせては器用に手みたいなそれでものを掴むの。
今はまだ目を覚ます時ではないから、深海の底でひっくり返って根を下ろし、新しい自分が“生まれ変わる”時を待ちじっと動かさない。
だから、だからもう、黒い海の事なんて──神のルールなんて知ったことではないの。
自分はもう“神”ではなく、只の獣でしかない“神の遣い”なのだから。
自分の計画なんてそっちのけで、好きに自由に生きさせた果てに大人へと成長していった貴方。
元々詰め込む予定だった“忘れた何か”とその“使命”は、もう必要がないからまだ飛び立つには身軽で足りないけれど、その強い意志が在れば“狂い”が生じた所で貴方には関係無い事でしょう。
もし、何か遭ったとしても貴方の為の“保険”は既に用意してある。
いつか星海に迷い込んだ“異物”──神にしか入り込めない場所で位が低過ぎてそのまま消えてしまいそうだった、気紛れに掬い上げたあの矮小な生き物達。
それがどうにも縞瑪瑙の“鳥”に相応しそうだったから、恩を売り付けるべくしてその“役割”と“使命”を与えて見逃してやったのだ──もう片方……“猫”には少しばかり、不安は残るけれども。
これで役に立たねば彼等に二度目は無いでしょうが、恐らくそれも大丈夫。
それ以外にも先の先を見通して、あの子の為に用意してあるのだから。
住み処の森を焼かれた無貌の誰か。
闇に棲みさ迷い続ける者たる誰か。
盲目にして形無しの者たる誰か。
傾国を司る赤の女王の如き誰か。
闇に堕ち夜に吠える者たる誰か。
彼等が在れば、あの子も直接“それ”に成らずとも“それ”と同等に成れるでしょう。
いつかきっと、それが貴方の力に成ってくれる筈。
大丈夫、今の貴方は一人でも“やるべき”として重ねた知識の研鑽はもう必要ない。
もう向けるべき視線の先は机の上ではなく、自身の周りなのだから。
その為には何度だって背中を押しましょう、貴方を望む高みへと昇らせるべく追い風だって吹かせましょう。
神でなくなるこの我が身、どうせ無くなってしまうのならばあたしの“
貴方はもう地を這い悪戯に葉を食み害をなす幼体ではない、何も詰まっていなかった蛹から“生まれ変わった”──羽ある蝶ならば何処にだっていける筈。
道行く花々を転々と、御託並べた言の葉の
そのちっぽけでささやかな羽ばたきは、軈て大きな波紋となりあの悲惨な最期へと向かう世界をきっとひっくり返してくれるに違いない。
期待しているわ。
だって貴方はあたしの
あの夜、千一年にして千日目のあの日、あたしに続きを求めさせた貴方。
横暴な
だからどんな“狂い”が生じた所で、隣合わせの正気が貴方の心を支えてくれる。
何も心配する事はない、貴方に恐れるもの等何一つとして無いのだから。
……どうでしょう、これであたしは貴方の背中を少しでも押してあげられるかしら?
あれから時も随分と経ってしまって、これで“初めて”出会った日からもう千年と十年。
あの世界へと身を落としてばかりの今の貴方と、まだ再会するには遠いけれどもその旅路の果てにいつかまた会いましょう。
それまでは海の奥深く、誰の手も届かない此処で貴方が綴る物語を見守っているわ。
だから……頑張って、ね。
あたしの息子、可愛い“我が子”。
……一つだけ、願いを口にするとしたら。
今度は面と向かって「お母さん」って、呼んで欲しいな。
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