裏庭:其の壱 17話後のアーサーとニエ

 アーサーは兎も角、ニエ、お前後で覚えとけよ。


「はぁーっ!? やだし、おれ悪くないもん!」


 あんなに笑ってたんだ。

 “中二”臭い俺はさぞ滑稽だったんだろうなァ?


「笑ったくらいいーじゃん別に! ていうかアイツは良いの狡くない!?」


 アーサーは笑ってないからな。


「……ざまぁ。」

「は? ンだよ泣き虫、喧嘩売るなら買ってやろうか? ええ?」

「囀ずるなよ、喧しい……弱い癖して良く鳴くなぁ。」

「…………。」

「……ハァ、面倒臭。睨まないで、その女顔気色悪いんだから。」


 おいコラアーサー、それを言っちゃ──、


「ぶっ殺す!!!」


 ……まァたニエを怒らせやがって。

 そいつにそのワードは禁句だっていつも言って──、


「殺ってみろよ、返り討ちにしてやる。」

 

 ……嗚呼もう喧嘩をするなッこの馬鹿共!

 後で二人共“お仕置き”確定だからな!!


「ええーっ!? やだー!!」

「……むう。」



 全く、いつまで経ってもあの二人は変わりゃしないんだから。

 いつもこうやって喧嘩ばかりして、毎回俺が身体を張って止めざるを得ない。

 ……一体何度それで“死ぬ”羽目になった事やら。


 変わった事と言えば、アーサーは人間と魔物が共存していく為の研究に邁進する名高き“魔物研究家”として、羨ましい程に有り余る頭の良さをもってして国に貢献する様になった事かな。


 何よりも魔物が好きなアイツだ。

 人相手は未だに苦手意識はあれど、魔物相手なら誰よりその扱いや生態に詳しいし、そして彼等を良く理解している。


 その好きが高じて研究に没頭してしまう程、のめり込んじゃいるが……たまにこうして研究所を抜け出してサボる事もある。

 それに今アーサーが住んでいる家には、奴が骨抜きになる程惚れ込んだ“新妻”がいるから、幾ら研究が好きでも四六時中夢中という訳でもないようだ。


 そう、あの“女嫌い”のアーサーが今じゃ“新婚生活”を堪能しているのだ。


 今そこで、その“新妻”の話題が出てから思い出したらしい嫁さんとの毎日に幸福感からうち震えている“骨抜きポンコツ野郎”は困難こそ多くあったが見事めでたくゴールインした、今じゃ立派な“リア充”代表だ。

 末永く爆発しろ、ってな。


「はぁッ……駄目だ、思い出したら顔がにやけて止まらないッ……好きだ、今すぐ会いに行きたい……!!」

「うわー……良くもまぁここまで惚れ込んじゃったよね。ま! 出会い頭はビンタで大失恋だったけどね! ぷくくーっ、あの時のお兄さんスッゴく面白かったよねー!」

「ぐっ……うう、古傷が……僕の黒歴史の話題はやめてよ……!」


 まぁ、な……あの時のアーサーは、まあ、見るも無惨にフラれたもんだ。

 その話だって……まぁ今此処で話す事ではないし、その内正規の物語の中で語られるだろう。


 此処は所謂裏庭バックヤードだ。

 箱庭の裏側で在り、時間軸に囚われない“メタ”も“ネタバレ”も何でも有りの【番外編】。


 ネタバレ嫌いな神様が此処に来る事は滅多に無いが、その内“会う筈のない”人物達だって此処に迷い込んでくる事もあるだろう。

 この二人みたいに、自ら来る“暇人”達もいる訳だから。


「ここに来れば何処に居たって関係なく“せんせー”に会えるからね! 眠ってる間しか来れないけど、退屈な夢を見るよりずっと楽しいからつい来ちゃう!」


 ……はっ、嬉しい事言ってくれやがって。

 アーサーまで黙って頷いちゃってさ、本当物好きな奴等だな。


 まぁでも、拒みやしないぜ。

 好きに過ごしてくれ……勿論仲良く、な。


「はぁい。……ね、ね、おれは? おれの話はしてくれないの?」


 ん? ニエは……まぁ………今はまだ言えないが、毎日がとても幸せそうだ。

 言えることと言えば、相変わらずロヴィオの奴と世界中を旅しているってくらいか。


「んふふふー! ロヴィとの旅はいつだって楽しいよぉ、色んな景色見てー色んな食べ物を“お供え”して貰ってー……ああ、思い出したらお腹が空いてきちゃったなぁ。」

「粟でも食べる? それか霞。」

「もっとマシなの頂戴よ! そんなの食べてもおれのお腹は満たされないよ! オラーッ腹ペコに暴れられたく無くば、炊事係は働けーッ!」

「ええ……やだよ面倒臭い、そんなに腹が減ってるなら自分で作れば良いのに……。」


 嗚呼そうだ。

 旅の途中でアーサーが何でも出来る事を知ってから料理を教えたことが切っ掛けで、それでアーサーが“炊事係”になったんだっけ。


「そうそう。こいつ面倒臭がりだけど、教えたら何でも出来る“天才”だからね!」

「うっ……、」

「何だってやらせたらピカイチなんだもん! ムカつくけどコイツが作るご飯、スッゴく美味しいんだよねー。」


 そうだなぁ。

 始めこそ包丁使いも危うかったが、面白いくらいするする覚えが早くて優秀で……つい、教える方の俺がのめり込んじまって……。


「ううっ……!」

「……んふふふ。ほーんと、褒められんの弱いよねぇ。どーお? ご飯作ってくれる気になった?」

「うぐ……し、かたないな……少しだけなら。」

「やったー! ふっふっふー、何作ってくれるのかなー? あー楽しみ!」


 褒められる程に胸を押さえて踞っていく、にやけ顔が隠しきれていないアーサーはニエの格好の玩具だ。


 感情が糧の“賢者”が内側にいたこの二人だからこそ、褒める感情である喜びの共有という“共感”と、美味しいものを他者より与えられる“幸福感”を糧にして彼等は互いに“賢者”としての飢えを満たし合う。


 悪い感情を受け取れば意地悪く醜く劣化していき、善い感情を受け取れば受け取る程に純粋な力を増していく。

 そんなこの“賢者”共というのは聞こえこそ良いがその実、受け取る他者からの感情に影響を受け易い上に、それ以上に厄介な事がある。


 “賢者”という存在が生まれたその別世界。

 それは俺からして見れば女神が自身をちやほやして貰うべく美男美少年の人形を侍らした……云わば“乙ゲー”の世界だ。


 だからこそ、奉仕人形である“賢者”の奴等というものは女神に似て確かに自分勝手ではあるものの、自身が惚れ込んだ者“主”に対しては全身全霊で尽くすし滅茶苦茶一途で盲目的。

 尚且つ、その“主”相手に手を出そうものなら死ぬ程キレるし、その上力がある分相当に厄介極まりない。


 とにもかくにも、相手が女や人間じゃなくても気に入ってしまえばひたすらに“恋愛脳”な奴等なのだ。


「別に恋愛に限らず、友愛、親子愛、兄弟愛や主従愛だって、愛があれば何だって一直線だよ~! 勿論、憎愛もね。」

「愛情が一番“染み渡る”からなぁ。自分から他人からとか関係なく、一度経験すると……こう……ハマる。」

「解るぅ~! 堪んないよねぇ、あの満たされる感覚! 幸せ~って感じ!」


 賢者共の感覚というのは解るようで解らん!

 話を聞く限りじゃ、さながら“薬”でもヤってるかのような……。


「んもうっ、止めてよそういう萎える事言うの! もっと夢のある例えとか言ってよ!」

「でもそれが結構近い気も……、」

「お兄さんは黙って!! しゃらっぷ!!」


 ……ニエに叱られてしょげたアーサーが縮こまってしまった。

 部屋の隅に寄っていって体育座りで拗ねてるアーサーの周りには、そのじめじめとした空気感で思わず茸を幻視してしまう程だ。

 その内復活するとは言えなぁ、余りアーサーに強く当たってやるなよ、ニエ。


「ふーんだ! やーい、弱虫!」

「弱くないし…。」

「泣き虫ー!」

まだ・・泣いてな……、」

「マザコ──」

「マザコンじゃないッ!!」

「うわっ!? …もー急に立ち上がらないでよ、ビックリするなぁ。」


 ん? アーサーの奴が復活した……というか、必死になってるな。


「僕はマザコンじゃない!! 別に母さんのことは母親として好きだけど……“あのヒト”の事だって、そういう・・・・目で見ている訳じゃ……!!」

「でもさーこの前“お母さん”って呼んでたトコ、聞こえちゃったなー?」

「あっあれはッ……その、釣られて・・・・、うっかり……!!」

「んふふふ、あの時のお前の真っ赤な顔、爽快だったぁ。……“あのヒト”はスゴい嬉しそうな顔してたケド。」


 あー……そうだな、“あのヒト”の口癖は「お母さんは~」だもんな。

 釣られるのも仕方ない……俺もつい、そう呼びそうになるもんな。


「う……う゛うーっ……違う、違うんだ……!! お母さんじゃなくて、僕のお嫁さんだから……!!」

「あーあ、ほらまた泣いた。追い詰められると直ぐ泣いちゃうよね~? マザコンって呼ばれるの、そんなに嫌?」

「スッッッッゴく嫌!! あの“糞蜥蜴野郎”と一緒にされるのは、断固として拒否したいッ……!!」

「あちゃー……」


 嗚呼……まァ……色々あったもんな。

 お前の中のグランの力に助けられた事は沢山あったが、お前には散々な目に遭わされた事も沢山だったしなァ。


「あーんなに気に入られていたのにねぇ? ホラ、あの時だってさぁ。」


 ん? ……嗚呼、あれか。

 あれは確か──、


「目が覚めたら周りが“汚物”まみれ!! 挙げ句、此方から誘った事になってる同衾を迫られた状態で……嗚呼もう、思い出すだけで気持ち悪いッ!!」

「女嫌いは勿体無い~だっけ? 荒療治だとか何とか言ってたけど、流石にあれはおれも同情しちゃうな……。」


 グランの奴は見境のない“女好き”だもんな、それにアーサーの一番苦手な強気なタイプが好みだし……確かにあれなアーサーが不憫だった。


 何せ、“目を覚ましたら目の前で酒池肉林の宴が始まっていた”……だもんな。

 流石元魔王って思っちまったもんだ。


「あの糞蜥蜴、余計なお世話だって言っても聞きやしないんだからッ……本当、もうっ……ううーっ……!」


 気持ちは解らんでもないが……そうべそべそと泣くなってアーサー。

 お前は男なんだから。

 それにもう今じゃ立派な大人になったろう?

 嫁さんの前でもそんな情けない姿見せる訳にいかないんだし、良い加減しっかりしろよ。


「ぐすっ……いーおーっ」


 ……はいはい、どうどう。


 全く……直ぐ喧嘩するわ、直ぐ怒るし直ぐ泣くし。

 いつまで経っても子供っぽい所が抜けんなァお前らは。


「んー? ふふ、そうかねぇ? いつも・・・ならもうそんな事は無いんだけど、ね。」


 ……俺の前でだけは甘えてるってか。

 俺は別に保母の仕事をしに来てる訳じゃ無いんだがな?


「それだけ頼りにしてるってコトだよ。ね、せんせー?」


 …………あっそ。

 んじゃ、好きにしてくれ。

 俺は拒まんよ……喧嘩はやっぱり控えて欲しいがな。


「善処しまぁ~す。……あ、ロヴィが帰ってくる。」


 ん、また留守番でもしてたのか?


「見回りの間だけ、昼寝してたんだぁ。んじゃおれはもう戻るね、せんせー。また来るよー!」


 おう、またなニエ。


「うう……、……あ、不味い、見付かった気がする。」


 今度はお前か。

 何だ、今回のサボりスポットも“遠い親戚の妹分”に見付けられたのか?

 それとも……“親友”か?


「“アイツ”だ……また怒られてしまう。……ちぇ、少しくらい仕事を放っぽいたって良いじゃん、直ぐ終わらせられるんだから……。」


 そうは言ってもだな……。

 お前の場合幾ら急かしても遣らん癖に、〆切過ぎて漸くその重い腰を上げるから周りの予定が狂うんだよ。


 どうせ今抱えてる仕事も、お前用に前倒しの〆切で渡されているからって高を括っているんだろ?

 毎日が忙しくてたまには休みたいってんなら俺は止めはしないが、そろそろ休憩は終わりにして行ってやれよ。


「んー……」


 納得しかねるみたいな顔しやがって……世話の焼ける奴だな。


 アーサー、お前は遣れば出来る奴なんだ。

 周りにお前の有能さを見せ付けてやれよ、誰にも文句を言わせないくらいにさ。

 出来ていないと思われているもんを、既に終わらせて見せてやったらきっと周りの奴等だって驚くだろうよ。

 そしたら皆言うだろうな、「お前は凄い」って。


「……うん。」


 勿論、やらなきゃならんことをやるのは早ければ早い程良い。

 お前はやり始めれば終わらせるのは早いんだから、終わったら気兼ね無く、誰に邪魔される事無く自分の好きな事が出来るだろうさ。


 そう思うと、やろうって気にならないか?


「……ん、そうだね。」


 よし、じゃあお前も早く戻ってやれ。

 “アイツ”はお前のお守りに兄の介護にと、さぞや忙しい身だろうし……余り苦労掛けさせてやるな。


「うん、じゃあ……僕も行くね。」


 応、元気でな。

 ……背中を押しといて何だが、余り無理はするなよ?


「しないよ、面倒だし。……嗚呼そうだ、ソロモンが君に会いたがっていたよ。今は忙しくて中々来れないみたいだけど、近々遊びに行くってさ。」


 嗚呼……国も色々あって一時は滅茶苦茶になっていたもんな。

 後処理も復興も、きっと相当に忙しかろうよ。


 ゆっくり眠る暇も無いのなら、無理して来る必要も無いんだがな……。

 まァ、来る者は拒まず、だ。

 その時は気兼ね無く来てくれ、と伝えておいてくれ。


「うん、解った。……じゃあ、またね、一織。」


 嗚呼、またな。




 …………。


 さて、いつもの喧しいのが居なくなると途端に静かになってしまうな、この部屋空間は。


 本棚には今まで集めに集めた沢山の本。

 ペンと白紙の用紙だけが置かれた机。

 その引き出しの奥に隠したノート。

 ベッドの上には……嗚呼もう、シーツが捲れて皺になってやがる。


 ……さては犯人はニエだな?

 さっきまで此処でゴロゴロと転げ回っていたもんな、全く。

 そうしたい気持ちも解らんでもない。

 何せ此処で横になれば、陽射しが当たって暖かくて心地良いからな。


 アーサーお気に入りの特等席だ。

 気付けば本を片手に此処で船を漕いでいるくらいだし、ニエだって気に入っているんだろう。


 たまには仕舞っていた折り畳みの小さなテーブルでも出して、飲み物や茶菓子でも出してやろうか……“母さん”が見たら茶々を入れてきそうな気もするが。




 ……何て事を考えていたら、次のお客さんか?

 はてさて、どんな変わり者の暇人が来たのやら──嗚呼、お前か。


 今日は珍しい日だ。

 来ると思わなかった奴が顔を見せに来るのだから。


 ……人が居ないのを見計らって来た?

 嗚呼、そういうことか。

 成る程成る程……まァ何にしたって好きにすると良いさ、俺は誰だって歓迎してやるよ。


 今はお前以外に他に誰もいない、居るのは俺とお前の二人だけ。


 こんな深い所に来るとは思いも寄らなかったが……嗚呼否、実際そんな事は一ミリたりとも思った事はないが。

 いつか来るとは思っていたさ、“約束”だもんな。


 此処は裏庭バックヤード

 そこにいるのに存在しない、矛盾まみれな俺の為の空間。

 物語の中である箱庭の裏側で在り、時間軸に囚われない“メタ”も“ネタバレ”も何でも有りの物語の外側番外編


 夢の中の世界の奴等が夢を見た時、そこは果たして夢の微睡んだ世界なのだろうか?

 いいや、違う。


 “俺”を鏡見た空間だからな。

 夢を見せるフィクションよりもずっと現実的ノンフィクションに寄っているだろう。

 そしてそれは現実とは程遠い矛盾だって孕んでいる。


 故に“メタ”有り、“ネタバレ”有り、だ。


 既に居ない奴だって、もう会えない奴にだって、世界の隅っこよりも向こう側でならば望めばきっと叶うだろう。

 夢でだって有り得ない様な“出逢い”が在っても、たまには良いだろう?


 何せ、物語にゃ関係無いんだからな。

 “ネタバレ”だけでなく“メタ”だって此処には溢れる程ある。


 物語の都合なんぞ関係無し。

 そんな矛盾解釈違いは放っぽって、楽しみたい奴だけ楽しみゃ良い──それがこの、俺の裏庭だ。


 そう、関係無いからこの手はお前に“ルール”関係なく触れられるし、願いが叶った“神”がその後どうなったとしても、お前さえ望めば俺達は幾らでも逢えるとも。


 時間が進めば進む程に世界は変わっていく様に、物語も進めば進む程展開は変わっていく。

 だから始めは“ネタバレ”が嫌いな神様だって、いつか何かの出来事を経て気が変わる成長する事だってあるだろう。


 俺だってそうだ。

 だって可笑しいだろう?

 “物語に介入せず”が物語の中に居るんだ。


 本来綴られる事がない“自分”の出来事を綴るようになった俺は、あの頃の自分にはまだきっと理解出来ないだろう。

 人嫌いで誰とも関わりたがらなかった、そんな俺だ。


 あの場所で沢山の出逢いが在った。

 あの場所で沢山の出来事が在った。


 それが今在る自分を新しく作っていく、新たな要素を詰め込んでいく。

 ──それが、成長だ。


 主を切り替えた“俺の”世界では、前に進みたい……大人に成りたい奴程、誰もが自身に“ルール”を定める。

 それに従って出逢いを重ね、様々な要素経験を重ねる毎にきっとその幼かった視界はより広く、鮮明に映る事だろう。

 物事の成り立ちを知り、知るだけでなく経験して身を持って理解し、その上で自分が何をすべきなのか明確にしていく。


 誰もが現状に満足している訳ではない、守りたいモノがある奴ならより一層望んでいく。

 そして、それを成し遂げた奴は“本当に成りたかった”自分へと変わっていく事だろう。


 故にこそ、望めば成る。


 試練は確かに在るだろう、何だって簡単に済む話じゃないからな。

 物語だって、幾つも話数を重ねてよりその世界観に厚みを出していくのだから。


 ……只、やはり頑張り過ぎるのは良くない、過労死なんてもっての他だ。

 怠け者も理不尽も嫌いだが、“自己犠牲”っつーのが一番嫌いなんだ。


 だから、此処がある。


 裏庭バックヤードは休憩所だって意味もある。

 成すべき事の為に奔走するのも良いが、時には立ち止まって休んでくれ。

 卵の殻を破り空へと飛んでいく鳥達に、翼を休める止まり木として、な。


 今より幼くなったって良い、大人のままでも良い。

 果てには過去に存在していた、生まれ変わる前の自分とか。

 はたまた未来の全く別の自分にだって成ったって良い。

 時間に囚われないからこその自由だ。

 好きに、自由にやってくれ。


 ……ん? 好きにさせ過ぎだって?


 嗚呼、このくらいはどうって事はないさ。

 何故ならばその程度、幾ら差異は在っても俺には些事だからな。

 俺がこうして“介入”しているのだって、俺がそれを望んだからこそ此処があるんだ。

 だから誰が来たって構わない、来る者は拒まず、大歓迎さ。


 なら去る者は追わずかって?

 馬鹿言え、そんなものはもうないさ。


 “さる”者はここにはもう居ない。


 見ざるアーサーはちゃんと前を見据えている。

 聴かざるニエに声は届いている。

 言わざるはもう伝えずに後悔は二度としない。


 三つの猿はもう、必要無いんだ。


 だから、な。

 俺はいつでも、お前達を歓迎するよ。



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