15.劣が優を凌ぐに至る迄。

「納得がいかん!! こんなの認められる訳がない!!」


 ばしんっと床にものが叩き付けられる音と共に、不満を主張する声が部屋に響き渡る。

 投げ捨てたものから踵を返し怒りのままに部屋の片隅に据え置きされた電話機へと手を伸ばす彼を、床に散りばめてしまったその“書類”を拾っていた彼女が慌てて駆け寄って持ち上げられた受話器を持つ手を押さえ付ける。


「一織! 何がそんなに不満だっていうのよ、貴方の第一志望校なんでしょう? 合格したならしたで“良かったー!”って喜べば良いじゃないの!」


 拾い上げた書類の“合格”と大きく書かれたそれを彼に見せるようにして目の前に差し出すも、キッと鋭い目を向けた一織が「喜べるかッこんなものッ!!」と吐き捨てては乱暴に取り上げたその書類を瞬く間にビリビリに裂いていく。

 そんな彼の暴挙に「ああっ…!」とショックを受けたらしく声をあげた彼女は床に用紙の破片が散らばっていく様に、へたりこんで呆然と俯いてしまった。


「どうしてこんなこと……!」

「俺は確かに点数が足りなくて受かる筈が無かったんだ!! だって試験が終わった後に確かめたんだ、あと一問あってればギリギリ合格のラインを俺は越えられなかったんだよ!! これは明らかな学校側の採点ミスによる不当な結果なんだ、素直に喜べる訳がないだろう!?」


 床に散った破片達を集める彼女に怒鳴り散らす様にしてそう言っては「そんなもの要らない! 捨ててしまえ!」と彼女が集めたそれを奪い取り上げると、側にあったゴミ箱へと叩き付けた。

 それにはもう見ていられないと涙が少し目尻を濡らした彼女が一織の腕を掴み上げる。


「貴方の考え過ぎよ! 間違っていたなんて、気のせいかもしれないじゃない! ねぇ一織、受験勉強の疲れでおかしくなってるんじゃないの? 休みなさいよ、そんなチャンスを自ら棒に振るみたいなことしないで……!」

「そんな事はない!! 良いから離せよ海月ッこんな形で受かるくらいなら俺から辞退してやるッッ!!」


 そうして掴まれた手を振り払うと一織はまた受話器を取り、合格した学校へと辞退の旨を伝えるべく番号を打っていく。

 しかしそれも後ろから伸ばされた手にまたも阻まれる事となる。

 学校の電話番号を打ち込み後は通話が繋がるだけという時にフックを押さえつけられて切られてしまうと、今度は持っていた受話器を取り上げるべく海月の手が一織の手首を掴んだ。


「止めなさい! なんでそう自分に厳し過ぎるのよ、このくらい楽したって良いじゃないの。だって貴方はこれを望んでいたんでしょう?」

「いいや違う、こんなの望んでない! だってこれは自分の実力で成せたんじゃないんだ! こんな不公平な結果、納得出来る筈が無いだろ!!」


 言い争う二人の間で引っ張り合った受話器が振り回される。

 取り上げようとする手と取られまいとする手に右往左往とコードが揺れる中、夢中で口論を続ける彼等に一際遠く引っ張られてしまいぴんと張り詰めた線が本体である電話機を台の上から床へと滑らせていった。


「あ、やばっ──!!」


 まずいと思った頃には時既に遅く、そのまま持っていかれたそれは受け止められる事なく“ガシャンッ”と床にぶち当たり砕けた破片が散らばっていく。

 その光景にあれ程言い争っていた二人が呆然とそれを見下ろしては沈黙し、軈て「ああもう……」と呻いては頭を抱えた一織がしゃがみこんでしまった。


「……ごめん海月、カッとなった俺が悪い。」

「良いのよ、このくらいどうとでもなるから。気にしないで。」


 漸く冷めたらしい頭をくしゃりと掻き回しては素直に謝罪する一織の声に、優しく穏やかな声が返される。

 そして彼女も一織に並んでしゃがみこむと、砕け散った破片を集めるべく床に転がるパーツを拾おうとして横から遮る手に阻まれてピタリと止まってしまう。


「良い、俺がやっておくから。海月は何もしないでくれ。」


 一織はそう言って海月が取ろうとしたパーツを手に取ると、他のパーツにも手を伸ばしてはてきぱきと散乱する部品を片付けていく。

 その間する事を無くして只眺めるだけになってしまった海月が目の前に転がった電話機本体に気付き、せめてこれくらいならと手を伸ばしてもそれも又伸ばされた手に、取ろうとした物は先に取り上げられてしまう。

 そうして立ち上がった相手を見上げると、台の上に電話機を設置し直しては散ったパーツと見比べつつそれらを元の位置へと戻していく一織の姿に、肩を竦めた海月が溜め息混じりに声をかけた。


「ねぇ一織、それもう古いから新しい物に買い直しましょ。ほら、最近流行りのスマートフォンとか……ああいうの、今時の子って持ってる子増えて来てるんでしょう? 一織ももう携帯を持ってて良い年頃なんだし、お母さんが買ってあげよっか。」


 掌を合わせて名案だと言わんばかりにそう提案するも、ドライバーを手にして何やらカチャカチャと修理に励む一織が「要らん」と一蹴する。


「必要がないし金が勿体無い。連絡手段だって学校か家かしか行かないから無くても困ることはないし、海月以外する相手もいないんだから家電だけで十分だろ……よし、直った。カバーが割れて取れてただけで済んで良かった。」


 至近距離にて電話機と睨めっこしていた一織はそう言って屈んでいた身体を起こしては一息吐く。

 改めて見直して「あー…液晶が少し割れちまってんな」などとぼやく様を見ていた海月は、此方の言う事など一切聞く耳を持ってくれないらしいその様子につい呆れたような表情を浮かべてしまう。


「……そういえばまた学校で喧嘩したんだってね? そんなに他の子を蔑ろにしていたら、進学した先でも友達出来ないわよ。」

「煩ェな。要らねェよ、ンな邪魔なもん。」


 海月の言葉に、その話題を毛嫌う一織が苛立ちを感じてはそう口悪く吐き捨てると、「一織?」と名前だけ口にして嗜めるみたいな彼女の声がすかさず返ってくる。

 言いたいことは解っている、只でさえ父親似の誤解をされやすい目付きの悪さにこうも気難しい性格なのだからせめて口調だけでも正しなさいと、ここ最近でより荒れ始めた口の悪さを海月は嗜めてくれているのだ。

 それには罰が悪そうに、うぐ、と言葉を詰まらせた一織は口を一の字にして閉ざすと、少し間を置いては「ごめん、気を付ける」とぼそりと声に出して肩を落とした。


「貴方ね……幾ら自分で何でも出来るからってそうやって他人を遠ざけていたら、いざ自分が動けなくなって困った時に誰が助けてくれるの? そうじゃないにしても、勉強ばかりしてないで誰でも良いから仲の良い子を作って他の子達みたいに一緒に遊びに行ったりとか……色々あるじゃない。」


 腰に手を当てて真面目な顔をして説教を始める海月に、拗ねたような顔をした一織はツンとそっぽを向いている。

 その不満たらたらそうな態度を見て「ねぇ聞いてるの?」という海月からの声に「聞いてる聞いてる」とおざなりに返しては、壁に追いやられる形の立ち位置だったそこから彼女の横をするりと通り抜けてい自室へと向かうべくリビングから出る扉へと足を進めていく。


「ちょっと! まだ話が終わってないわよ、此方に戻ってらっしゃい!」


 自分を呼び戻そうと海月の声が背後から聞こえて一瞬嫌そうに顔をしかめるも、くるりと振り返った一織は彼女の言葉を蔑むようにして鼻で笑い飛ばした。


「人を便利屋みたく思うような程度の低い奴等と仲良く出来るかよ、馬鹿馬鹿しい。何にしたって他人を頼るより自分でやった方が早いんだし、自分で出来るんなら誰かに頼る必要もない。」


 そう言っては「その為に勉強してるんだから、放っといてくれよ」と残して退室していく一織。

 ばたん、と控え目な音を立てて閉められる様を眺めていた海月は行き場の無い手を宙に浮かせたまま、軈て疲れたような溜め息を溢した。


「本ッ当、頑固な子ね……!」


 思わず出てしまったようなその一人言に、扉を背にしていた一織は口をきつく閉ざすと静かに足早にと自室へ向かっていった。


 そうして辿り着いたのは整理整頓が行き届いた物が散らばっていない、本棚ばかりが所狭しに並んでいる見慣れた自分の部屋。

 部屋の片隅にある机の上には、相変わらず教材が縦に詰まれて端に寄せられており、そこには勉強する時直ぐに取り出せるようにと選別されたものだけが置かれている。

 しかし今は勉強する気になれず、部屋に入って向かいのベッドへと身体を倒すとふかふかとした感触とベッドのスプリングに身体が緩く揺さぶられた。

 うつ伏せだった顔をもぞりと起こすと、何と無くに傍にある本棚へと手を伸ばして手頃な本を取り出してみては身体を仰向けにして、開いたその本の頁をパラリパラリと捲りながらもう何度目と見るその内容を再びじっくりと目を通していった。

 まだ夕方よりも早い時間帯、少し眩しいくらいの日差しが窓から射し込んでいる静かな部屋で、紙が擦れ捲られる優しくも心地よい音に耳を傾けながら熟読するこの瞬間。

 それは彼の最も好むものだ。

 そんな彼の部屋には、所狭しと並ぶ本棚には漫画や小説だけでなく、様々なジャンルの図鑑もあれば実用書、参考書に専門書、ノンフィクションと文芸本も、それから父と母が残してくれた絵本や児童書だってずらりと並んでいる。

 昔から、子供の頃から本の虫だった彼は本が読めるならジャンルに拘らずひたすらに読み続けた。

 自身の知らない世界や知識を見せてくれるそれが好きで、暇さえあれば本を読み、苛立つことばかりな学校でだって友人も作らずに休憩時間には人気の無い場所で静かに本を読むのが彼の日課だった。

 勿論本ばかり読むのではなく勉学にも励んでいるけれども、自らを凡人と称しつつその割にプライドが高く気難しい彼は特別他者より秀でた何かがある訳ではなく、只ひたすらに努力を重ねられるだけ重ねて出来ることを増やした上での“人より出来る”実力を維持しているからこその自信の現れだ。

 けれどもやはり彼も只の人の子、疲れる時は疲れてしまう。

 当然頑張り過ぎて父の様に身体を壊してしまっては元も子もないので、そこは上手く調節して休息すべき時とそうでない時はちゃんと分けている。

 故に身体を壊した事など、父が亡くなった後からは一度もないし病気知らずにて健康体で今までを過ごしてきた。

 幸い調べる事や学ぶ事に億劫さを感じないからか、自力で色々と知識を得てきた彼は何をするにもどうしたら良いのかは何となくにも解る。

 物の仕組みや物事の成り行き、自身の危機が近付くのならばどうしたら回避出来るのか、対処法は、等と。

 勿論専門家な訳ではないから一概に絶対そうだとは言えないけれども、只自分とその傍にいるもの程度なら身を守る事が出来る程度には知識を付けるに至れていた。

 当然それも時代が進むに連れて変わることもあるだろう。

 その為に世間へと目を向けて世界情勢なり物価の上下の具合などにも関心を向けたり、新聞紙などで報道される学会などで発表される論文にも興味があるものがあるならば図書館なり何なりと利用し理解出来るまでにとことん詰めた。

 ……まぁ、そんな事をしているからか、彼には暇が余り無い。

 毎日が忙しくて堪らないのだ、故に遊びに使う時間が足りない所か勿体無くも感じてしまう。

 その為に唯一無二の娯楽として彼が楽しむのは読書だけ……ではなく、元々はもう一つだけ有った。


「……ん、これ良いな。ネタとして使えそうだ。」


 ふふん、と鼻歌混じりに一人呟いて開かれていた頁のその内容に思わず笑みを溢す。

 しかし少ししてその笑みも失せ、頭を横に振っては脱力して溜め息を溢してしまうと本を持っていた手を布団の上に横たわらせた。


「もう書かないんだった……ああくそ、ネタ探しが癖になってやがる……!」


 自棄気味にぐしゃぐしゃと頭を掻いて不要になった思考を振り払う。

 そうして再び何度目かの溜め息を吐いては天井を見詰めて物思いに耽ていく。

 少し前に書き続けていた筆を置いた、“お話”の事だ。

 昔から本を読むのが好きな彼は、とある出来事を境目に自らそれを作る事へ興味を示したのだ。

 今まで見てきた物語の中で、好きだと思ったシーンや見たことの無い展開、自身が知るものを混ぜ込んだり、決して有り得ないけれどもそうなったら良いなと思った事を思うがままに書き綴った、初めてのその稚拙な作品は知識も教養もまるで足りてなくて人に見せるには恥ずかしい代物になった。

 けれども、只一度だけ自ら義母に見てもらった時に「面白かった」という初めて貰った他人からの感想が、当時の自分には余りにも嬉しくて堪らなく、同時に受けたダメ出しを参考にしてそれからはひたすらに知識を増やし、見聞を広め、得たものをその創作物へと落とし込んでは手を真っ黒にさせていた事は今でも覚えている。

 その最中に如何にして病気が発症しうるのか、その治し方や対処法を知る機会もあり、毎年起きるインフルエンザの流行ではクラスの誰かしらが寝込み休む中で唯一一度も掛かる事なく休んだこともないのは自慢出来る事だと、別段誰かに言うつもりは無いので密かに思っている程にだ。

 そうこうしてると知識を増やすと如何に自身を助ける事になるのかを理解してからは学ぶ事に夢中になって、大して裕福ではない生活だけれどもその得た知識に助けられて特に困る事もなく、無駄に大きな出費をする必要もなく堅実的に節約しつつ父が残してくれた財産を使いきる事なく過ごしてきた。

 勿論失敗することだってあって、うっかりやらかしてしまった事だって時にはある。

 その時には、自身が学校へ行っている間日中何しているのかよく解らない、何処で働いているのか、寧ろ本当に働いているのかすら怪しい、昔から掴み所の無いあの義母である海月が簡単にポンと出した大金に助けられる事も有ったけれども、その金額は細かくメモして自分で働ける年になったら返そうと心に決めてある。

 何分他人に借りを残したままでいるのが好かない性分なのだ。

 故に、やられたらやり返す、勿論それは良くも悪くも関係なく。

 だからこそ、なのだろうか。

 先程の海月の発言から「学校で喧嘩をした」事を思い出してみる。

 それは勿論諍いがあったからに他ならないのだが、それだってやられたからこそやり返しただけに過ぎないのだ。

 喧嘩両成敗という言葉があるだろう。

 一織はそれを自身の教訓としているのだからその時も……まぁ、殴られたから同じように殴り“返した”だけ、だ。




『神村ァ、今日提出の課題のこの問題解けるか? 授業聞いてても全ッ然解らなくてさぁ。』

『復習って言葉を知らんのかお前は。その基礎を先週に習ったばかりだろうが、一からやり直せ馬鹿。』


『神村くん、これのやり方解る? 上手く出来なくて……。』

『そもそものやり方が間違ってるんだ。先生の説明をよく聞け、お前の耳は飾りか? …そうじゃなくて……ああもう貸せ、俺がやる!』


『神村~、今度の学祭さ、劇やるけど経費削減で衣裳を手作りしようと思うんだよ。お前裁縫って出来る?』

『……3日、否2日時間をくれ。つーか他におらんのか、出来る奴は?』

『家庭科で習ったくらいならー!』

『同じくー』

『…………俺が覚えてやった方が早そうだ。仕方ない、俺が作るから素材の費用はお前らが持てよ。俺は出さんからな。』

『ヒューッ流石万屋神村! 何でも出来てすげぇよなぁ、頼りにしてるぜー?』

『煩せェな、ベタベタ触んな鬱陶しいッ! このくらい出来て当然だろうが、何も努力せずに出来ないのを棚に上げて他人頼りで事を進めるなッどうせ始めからそうするつもりだったんだろ!?』

『えー? まあなぁ、だってお前──、』




『頼んだらやってくれるし、便利だから。』




 ──ダンッ


 布団の上を叩き付ける音が部屋に響く。

 悔しげに顔をしかめた彼は絞り出す様な声音で呟いた。


「……糞が、何が便利だ。俺は別にお前らの為に努力してるんじゃないってのに……ッ」


 ギリ、と歯を食い縛ってやるせない気持ちに腕で目元を覆うと自身を苛立ち昂る感情を落ち着かせるべく深呼吸する。

 性格に反して強面だった父親に似た彼の顔付きは性格も相まって尚更人を寄せ付けなくしていたのだが、その努力故の有能さと母親に似た困っている他人を見過ごせない性格からか、周りからは“都合の良い”時だけ彼を頼るべくすり寄ってくるようになってしまったのだ。

 亡くした親を反面教師にしていた彼は彼等のようにならないよう安請け負いや働き過ぎる事が無いように努めてこそいるものの、他人任せな奴等というのは総じて断った所でギリギリになってどうしようもなくなった時にもまた自分を頼りに来てしまう。

 断った際に“出来ない”と思われてしまうのが癪だというのもあるだろう、それでつい「自分がやった方が早い」と請け負ってしまう事だってある。

 だからこそ放っておく訳にもいかないし、自分は関係無いとそれを見放してしまうと後々になってにっちもさっちもいかなくなった奴等が結局泣き付いてきて、決めていたスケジュールを狂わされてしまうだけならまだしも、努力も何もしていないからこそこなせない彼等から無理せざるを得ない状況にすら持ち込まれてしまう事だってある。

 そうして挙げ句の果てに酷い目に遭うのはいつだってそれをこなせてしまう自分の方なのだ。

 怠けていた奴等こそ悪いというのに損をするのは決まって真面目にこなしていた者だ、それを理不尽だと思わないだろうか?

 だからこそ彼は“理不尽”も“怠け者”も人一倍毛嫌う、そうやっていつも頼られ任せられてしまうのだから。

 しかしそんな彼等の内にも自分からすり寄って来た癖に、もう癖に成ってしまった人を遠ざける為の悪印象与える口調や態度が癪に障ると言い掛かりを付けてくる者も中にはいる。

 そんな奴等には相手の言い分を正論で叩き伏せてしまうのだから、何も言えなくなった奴等と言うのは大抵頭に血が上り挙げ句の果てには暴力行使に走るのだ。

 故に殴られては殴り返すの反覆が繰り広げられ、堪え性の無い奴等だからこそ向こうの方が先に音を上げる。

 そうこうしていると彼の扱いに慣れたらしい周りの奴等というのは、ヘラヘラと頼み事を残していっては後は自分任せにして、そうして自分も結局良い様に扱われてしまう訳だ。

 決して彼等の為にではなく自分の為だから、と言い聞かせる様に自身を納得させようとするのだけれど、果たしてそれは自身を蔑ろにして他人の事ばかりだった母と何が違うのだろうか?

 そう、いつも自己嫌悪してしまう。


「……はぁ……」


 重い溜め息が口から溢れる。

 今こうして自分が思い悩んでいる内にも、勉学に励み無我夢中で知識を取り込んでいる間にも、悩みの種である呑気で楽観的な奴等というものは誰かと何処ぞへ行っては遊び呆けているのだろう。

 自分には友達なんぞ居たことは無いけれども、本音を言えば誰かと肩を並べて同じもので遊んだり、悪ふざけをしてみたり、共通の話題で笑い合ったりしてみたい、そういう気持ちは確かに在る。

 クラスの同級生達を見ていても、楽しげに会話をする様に心惹かれるものはあるのだけれども、やはり“彼等”では駄目だなと常々思う。

 好意的な感情になれない、どうしようもなく気が合わないのだ。


「俺の事を頼りにしなくて、俺以上に何でも出来て……煩くなくて好きなものが同じで………そんな奴がいたら、友達になっても良い、けど……。」


 呟いてごろりと寝返りを打った一織は再び本をぱらりと捲ってみる。

 その物語の中では、何でも出来る無敵の天才が周りを巻き込んで仲間と共に世界を救うべく奔走する、というありきたりだけれども読むには退屈しないものだ。

 それを眺めてはまた溜め息を溢してしまう。

 きっと、自分の理想というのはこんな“天才”みたいな人物の事を言うのだろう。

 幾ら彼がどれだけ努力して出来ることを増やそうとも周りはそれに着いてくる筈はないし、結局は只の一般人で凡人な自分の前に都合良くそんな“天才”じみた人物が現れる筈もない。

 そもそもの話、そんな常軌を逸するレベルの“天才”なんてものは現実にいる筈がないのだ。

 精々誰よりもたゆまぬ努力をして漸くその域に辿り着いた者がそう言われているだけで、何でも出来る天才というのは最早御伽噺の中でしか有り得なかろう。

 大体今は友人なぞ作って遊ぶ時間すら勿体無く感じる程に、自身に取って“やるべきこと”というのは多いのだ。

 だからこそ、“友達”なんて存在は必要なく一人の方が気が楽なのだった。


「はぁ~あ……そういうのは大人になってから考えるか。」


 そう呟いては身体を伸ばすべく両腕をぐぐっと頭上へと向ける。

 そして脱力し一息つくと、よっと、と身体を起こしては傍らの本棚へと手に持っていた本を仕舞った。

 ずっと萎んでいたやる気が漸く湧いてきたのだ。

 勉学に励むべくデスクへと向かうと彼はまた、将来の自分に役立てられる様にと、机に広げた教材とノートを前に再びペンを手に取った。






 *****






 相も変わらず白く果てしない空間で、いつもなら静かな場所だというのにその時だけは違い幼い子供の泣き声が辺りに響く。


「うわあああんっごめんなさい、ごめんなさいぃっ! もう反省したからぁっゆるしてよぉお兄ちゃぁんっ!!」


 そんな許しを乞うのは、同じ世界の同じ時代でも別の世界線パラレルワールドから別の事情にて命を落としたという経緯を持つ幼い子供の姿のままの自分であり、この全く別の彼が作った異世界である“箱庭”において最高峰に立つ万能たる“神様”だ。

 先程まであんなに唯我独尊にて自身のやりたいように周りを巻き込んでは好きにしていた彼は、同じ顔同一人物でありながら大人の背丈をした、神ではなく、特別偉い存在という訳でもない“只の人間”である一織の膝の上で泣き言を叫びながらじたばたともがいている。

 物干し竿上の布団の如く、腹這いで跨がされた小さな身体の臀部を、ピシャリと叩いた一織は「まだダメだ」と一蹴してはまた叩くべく平手を振り下ろした。


「まだ俺がされた事に対して全く足りん。大体力を入れてないんだし、入れたところでお前に取っちゃ痛くも痒くもないだろうが。甘んじて受けろ、やんちゃ坊主め。」

「痛くなくてもぼくの神としてのプライドがズタズタだよぉぉ! ううっこんな仕打ち受けたなんて誰かに知られたら恥ずかしくて、知った奴全員殲滅しちゃいそうっ……!」

「物騒過ぎだッ! ったく……寧ろ力では敵わんお前だから、その為にこうしてるんだ。あんだけ殺されまくったってのにこれで済ませてやってるんだぞ、このくらい我慢しろ!」


 そうしてまたぱちんっと叩かれた神様が「うう、ふぁい……」と情けない顔をして項垂れたのを、目を点にした猫は呆然として眺めていた。




「ううぅ……お兄ちゃんに人前に出られない身体にされちゃったよぅ、ぼく可哀想でしょ? 慰めてよ猫くん……!!」

「ふぇっボクですか!? ええーっと……こうすればいいのかな? よしよし、よしよし…。」


 漸く解放されて自由の身となった神様が、傍で状況を読み込めずフリーズしていた猫の傍へと駆け寄ってはしゃがみ込んだ。

 それには猫も、まさか自分に白羽の矢が立つとは思いもしなかった為に驚愕に顔を強張らせて恐縮してしまう。

 しかし自身のすぐ傍で両手で顔を覆い、実際今までにも一粒たりと涙を流していないというのにそんな“フリ”をしてはぐすぐすと鼻を啜る神様に、その頭に柔らかな肉球を左右に動かしては慰めるべく撫でている“素振り”をしていると、そこへ歩み寄ってきた一織が口を出した。


「オイ甘やかすなよ、そいつはお前も殺しにかかってたんだから。」

「そうは言われても……ボクはこの方から漏れでた魔力から昇華した精霊の一つなんだから逆らえないよ。」


 そうは言ってもやはり先程まで殺されそうになっていたのもあるからか、直ぐ傍にいる神様を横目に猫は少し緊張に身体を強張らせてはいる様だ。

 そんな中でも神様の頭を撫でる仕草を続けながら一織を見上げると困ったような顔を浮かべる。


「この方を世界と置き換えたら、魔力は身体を流れる血液で精霊のボクらは赤血球、みたいな? そういうものなんだよ。」


 猫の話に「ふーん…」と納得しかねる様子で返す一織。

 そんな一織に疲れたような顔をした猫は二又の尾を揺らして再び口を開いた。


「それよりもさ、お前よく神様にあんなこと出来るよな……何? 怖いもの知らずなの?」


 “見てるこっちの方が怖かったんだけど!”と訴えるみたく言う猫に「ンなもん知るか」と軽く返した一織は少し考える素振りをすると困ったように頭を掻いた。


「別に怖くは無かったがな……スゲー痛くて腹が立ってたってのは解るが、なんか、殺されそうになってんのに何とも感じなかったってのは、どうも違和感があるな…?」

「何とも感じなかったって……ええ……お前、なんかおかしくない? さっきの変な格好といい……。」

「……変な格好? 何の事だ?」


 呆れた声でぼやく猫の言葉に、キョトンとした一織が不思議そうに見詰める。

 すると今までずっと顔を覆って伏せっていた神様が、はっと顔を上げた。


「そうそう、さっきの! ホントあれなんなの? 何かスッゴく嫌な感じしたんだけど! 黒くてうねうねが、ぐるぐる~って!」

「はあ……? 何の話だ?」


 彼等の言葉に思い当たりが一切無い一織は眉間に皺を寄せては疑問符を頭に浮かべる。

 そんな全く覚えがなさそうな彼の様子に顔を見合わせた猫と神様は子首を傾げては「うーん?」と唸る。


「気のせい……じゃないもんね、猫くんも見てた訳だし。」

「でもあの様子だと本人も解ってないみたいですし……何だったんでしょうね? アレ。」


 揃って首を捻ってうんうんと唸る彼等に、何の話かも解らず置いてけぼりにされていた一織は苛々と機嫌を悪くしていきその口から低い声音が発せられた。


「お前らな……人に聞いといて勝手に決め付けてんじゃねぇ! 先ず何の事かハッキリ言え!! 話はそれからだ!!」

「まあまあ落ち着きなよ、ええと名前は……にゃるらいおくん? ってなんか変な名前だな、違ったっけ?」

「か、む、ら、だ!! 何処ぞの邪神みたいな名前の聞き間違いすんな!!」


 頭を捻って思い出しながら間違った名前を言っては首を傾げる猫に苛立ち露に声を荒げる一織がそう返す。

 すると今度は神様の方が首を傾げると、不機嫌に顔を険しくする一織へとその疑問を投げ掛けた。


「ねぇお兄ちゃん、“じゃしん”ってなぁに?」


 その質問に「ああ!?」と荒く返すも、純粋にキョトンとしたその顔を見てはあれ程苛立っていたのが気抜けていき、軈て落ち着くと普段の声音でそれを返した。


「邪神っつーのはだけどな……とある作家達が書いたコズミックホラーの話の中に出てくる、理不尽かつ無慈悲で冒涜的な……まあ簡単には言いやよこしまな神様って奴よ。」

「へええ! そんな面白そうな話あるんだ? コズミックホラーというと……宇宙? ねぇどんなお話なの? それ!」


 一織の話に神様は途端に前のめりになってその目を輝かせる。

 ワクワクといった擬音が似合いそうな様子で急かすようにして一織へと続きを求める神様に、見た目通りの無邪気さに何だか微笑ましさすら感じてしまう一織は思わず口元を緩めてしまうも、ふととあることに気付く。


「お前、知らないのか? ネクロノミコンって奴もいたことだし、知ってるもんだと思ったんだが。」

「ネクロノミコン~? ああ、ずっと眠ってたあの黒い人間擬きのことか。知らない名前だから結局解らず仕舞いでねー、気付いたらいつのまにか目を覚ましていたみたいだけど。それが何?」

「禍々しい怪物や邪神を召喚する為の魔導書だよ。……お前なぁ、そいつの兄貴ぶっ壊してんのにそういう事言うのか。恨まれても知らんぞ?」


 どうでも良さげに返す神様に呆れたような声でそう言えば、心外だと頬を膨らませた神様が「壊してない、一から直したの!」と訴えた。


「恨まれたってぼくは干渉しなければ有象無象に対しては無敵だし、精々同格の神くらいに成らなきゃ相手なんてしないもーんだ! …それにしても邪神ねぇ、そんなもの召喚してどうするんだか。その世界に入る枠が無ければ神なんて召喚しようにも出来ないだろうに。」


 神様曰く、世界には三柱までしか神の入る余地はなく、入れたとして自由に行き来出来るのは“その世界を作った神”を筆頭に“その神の昇華に携わった神”と“その世界に生まれ昇華した神”なのだと言う。

 だからこそ余分な神を呼び寄せるにしたって必要な手順や手間が多く、例え準備を万全にして儀式を行った所で成功する事の方が可能性はずっと低い。

 それだって下手すると容量オーバーした世界が自壊してしまう事だって有り得るのだから。


「……にしても、まさか“意味の無い”邪神召喚を行う為の“存在しない”架空の魔導書だったとはね………待遇と言い名前と言い、女神からしたら余程邪魔な存在だったんだろうねぇ。」

「全てにおいて“仲間外れ”だもんな……一体何があったんだろうな。」

 

 そう言ってその場にいない者について物思いに耽っているとその話に飽きてきたらしく「そんなことよりも続きー!」と訴える神様。


「(じゃあ神様は“クトゥルフ神話”を知らないって事か……嗚呼、確かあれが流行ったのは俺が中学生くらいの頃だったか? なら神様くらいの年にはまだ知らなくて当然か。)」


 神様に身体を揺さぶられながら彼はそんな事を考えてみる。

 そしてその催促が余りにも鬱陶しく感じる程に神様が駄々をこね始めてしまったので、適当にその“創作物”である神話の一部を一織が語り始めた。

 冒涜的とされる神々の狂気に有象無象の人々が立ち向かう、そんな話を綴られたその様々な作家が書き連ねた物語群は“世界を脅かす魔王を勇者が倒して平和になる”と言った単純明快な話ではない。

 そんな話に、始めは期待に満ちた表情で聞き耳を立てていた神様とその傍らにいた猫は話の流れの雲行きが怪しくなるにつれ段々と表情を曇らせていき、ラストの結末を締め括る頃にはすっかり気落ちて陰鬱とした様子で項垂れてしまっていた。


「うう……バッドエンドはもうお腹いっぱいだって言ったのにぃ……!」

バッドエンド最悪の結末って程じゃないだろ、精々トゥルーエンド犠牲はあっても何とかってとこか……ま、そういう話があるって事だ。他にも色々と作品を見てきたが結構面白いんだよなぁこれが。どうだ、満足したか?」

「救い、救いが欲しいよう……なんでそんなもやっとした結末なんだ……!」


 いつからか胡座をかいて座っていた一織の膝の上に腰掛けていた神様が一織の腕の中で身体を揺さぶりながら不満を訴える。

 猫もあれ程恐れていた神様の開いた足の間で一織の足を枕にして伸びきっており、何だかんだで図太い奴なんじゃないか? と胸の内で一織は思いつつ声もなく小さく笑ってしまう。


「その神達の気持ちも解るけど、それにしたってもうちょっと慈悲があっても良いんじゃない? ほら、ぼくみたいに優しーい神様の方が親しみあって良いでしょ!」

「何言ってんだ、お前も他の神だって同類だよ。さっきの賢者達との事だって、全部お前の都合で否応なしに纏められちまってたじゃねぇか。それは優しいとは言わねぇよ。」

「やだーっぼくはまだマシだもん! 特に性格悪い女神、あれと一緒にされるのが一番嫌!! ぼくの方がまだ良心的だし、あの自己中な賢者達だってぼくの御使い達の方がずっと優しくて良い子だもん! ……作ってくれたのは賢者達だけど!」


 シートベルトみたく肩の上から覆い被せた一織の腕の中で不満を溢す神様に、彼は「はいはい、解った解った」とおざなりに返す。

 そんな神様は、腕にしがみついてはその先の自分より大きな手へと自らのを重ねて、それを器用に使って伸びている猫の腕を持ち上げて万歳をさせたりと弄んでいたのをぴたりと止めると、振り返ってじとりと一織を見上げた。


「……信じてないでしょ、お兄ちゃん。」

「そりゃあなぁ、自己中ったってそいつらは言うなれば被害者なんだろう? 確かに、一人を助けるべくして世界を潰したのは解るが、何を持ってして自己中ってんだ。」


 一織の言葉に「解ってないなぁ」と神様は呟く。


「あいつらはね、皆自分の事しか考えてないんだよ。口では誰の為だーって言うけど、その本質は自分のしたいことしか優先しない。身を守るにしたって、自分に危機が迫るようなら命懸けなんて無謀はしないで簡単に折れる。……唯一、素でも一番タフだったグランはまだ持った方なんだけどね。」


 彼の小さな手が大きな手を使って足の間に寝そべる猫の肉球をもにもにと揉むべく指を動かす。

 子供特有の柔らかな肉質と同じく柔らかな猫の肉球に挟まれてふわふわふにふにとした感触は何とも心地好い事か。

 普段ならば喧しく獣臭い動物等余り好まない彼は自らそれ等に近付く事がない為に、初めて触れた猫の肉球は噂と寸分違わず“確かにこれはとても良いものだ”と胸の内に感想を述べる程で新たな発見に胸を打たれる。

 彼の話を聞きながらも頭の中ではさながら此処は楽園かとでも言うような気分にされてしまう中で、それを受けている猫もさながらマッサージでもされている気分なのかぽやんと呆けた表情だ。

 そんな中で神様はそれを知ってか知らずか前後の彼等の事などお構い無しに一織の手越しに猫の手を握りながら、手遊びを交えつつ語り続けた。


「彼等は結局全部が奉仕人形なんだ。だからきちんと定めた主か名付け親がいないとその他よりも自己保身に走る。王だからって集まった所でそれもまた奉仕人形なんだし、尚更得られる情も薄くなってしまうんじゃないかなぁ。まぁ、ほら、感情を糧にして生きるってくらいだし。」

「感情を糧に、ねぇ……。」


 はたしてそれはどんなものなのか。

 精霊の方は生命力を魔力に変換し糧にするとは聞いたものの、賢者はまた違う理屈らしいそれを一織に解りやすく説明をしながら段々と陰鬱とした気分が晴れてきたらしい神様は、心地好さにうとうとと船をこぎ初めた猫を見てくすりと笑う。


「自分の感情でも糧に出来るけど、やっぱり他人から向けられる感情が一番“染み渡る”んだってさ。だから周りに影響されやすいんだよ、良くも悪くも。名前を呼ばれるのだってそう。彼等の存在証明は名前にあるから名前とその意味があればこそ彼等は正しく力を発揮できる。」

「へぇ……じゃあ名前が無くなったらどうなるんだ?」


 一織の質問に神様がくるりと振り返る。


「そりゃあ、自分が何者なのか解らなくて軈て自壊していくだろうね。不安定にもなるだろうさ。形も存在も歪になって定まらない、そうなったら奉仕“人形”だから命令が無ければ自分で考える事も出来ずに言われるがままになるだろうし、善し悪しの判別もつかなくなる。」


 口元に人差し指を当てて考えながらそれを口にする神様はそして「多分そんな感じかなー」とぼやいた。


「でもぼくのは違う! ぼくの存在証明は本の中物語の内にあるからね、語られた存在である程にそれを確立させていくんだ。それにメリットデメリットは無い……事はないけど、それをする必要性がないから無いに等しいかな!」

「へえ、物語の中の世界だけに……ってか?」

「うん。だからこそ読者がいなければ生きていけないし、それを書き綴る為の筆者も必要なんだ。だからぁ、お話を書いてたっていうお兄ちゃんが欲しくて堪らないんだよね~!」


 そう言ってうりうりと自身の胸元に頭を擦り付けて懐く神様を、うんざりとした眼差しで一織は見下ろした。


「またその話か……懲りん奴だな。」

「んふふふー、ぼくは諦めないからね! …あとぼくの御使い達は三頭とも良い子達だよ! 優しくてー強くてーみぃんな自由に、物語の一部としてものびのびと生を謳歌してくれてる……今それが解るのは一頭だけ、だけどね。世界の維持も彼等に任せてて、ぼくが直接手を下さなくても彼等がやってくれるから、楽なんだよねぇ。」


 相も変わらず他力本願らしい神様に、益々呆れてしまい思わず溜め息を溢してしまう。

 すると凭れ掛かっていた神様が此方を見上げるので、それに気付いて視線を合わせるとにこりとした笑みを向けられた。

 彼の勧誘に応えるつもりは更々ないけれども、やはり彼の言う通り子供には弱いのか屈託の無い笑みを向けられてしまうとどうにも無下には出来ず、一織は自身を見上げるその頭を撫でた。


「……ふふ、やっぱりお兄ちゃんは優しいし、一緒にいて退屈しないなぁ。……ずっと一緒にいて欲しいなぁ。」

「俺は別に優しくはないぞ? 気は短い方だし、怒らないのだってお前が悪さをしなければ、だからな。……まぁでも、いつまでもそうは言ってられんぞ。」


 そう言って神様の肩をポンと叩くと、見上げていた神様の顔とその足元の間にいる猫の微睡み混じりの顔が自分へと向けられる。

 そして注目する彼等と視線を合わせると、ゆっくりと頷いた彼は“遊びは此処まで”と言わんばかりにそれを口にするのだ。




「……よし。“雑談”は此処までにしておいて、改めて“話し合い”をしようか。」


 

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