第九章 これから
『乾杯!』
俺たちは王都に帰り、酒場で魔王討伐の祝勝会をしていた。本来なら、国王が王城で大々的に祝勝会を開いてくれてもいいところなのだが、俺が偽りの勇者だと告白した時、国王や大臣は俺を即刻処刑しようとした。
だが、ヤナ、アルマ、ミンクの懇願により、俺の勇者としての功績を帳消しにする代わりに俺を助命すると約束したのだ。
そんな経緯により、俺たちは自分たちの持ち金で細々と祝っていた。
「で、レイド。これからどうするの?」
三日後には俺が魔王討伐した吉報と、俺が先代勇者の右腕を切り落とし、偽りの勇者として旅立ったことを発表するはずだ。
「俺の故郷の村に、墓参りに行こうかと思っている」
思えば、魔王の呪いを受けて、這う這うの体で近くの村に逃げ込んだから、燃えた村も両親の亡骸も放置していたのだ。
「お前らはどうするんだ?」
俺は酒を飲みながら、しんみりした空気を払うために皆に話を振った。
「私は今まで通り屋敷に籠って聖剣の研究。国は協力してくれないし」
王国は聖勇教を国教としている。アルマの研究は聖剣の量産だ。協力はしてくれないだろう。
「私は聖女として聖勇教を守っていきます」
まあ、ヤナは元々聖勇教所属だから、元の鞘に収まるか。
「私は最端の町に帰って、冒険者を続けるっす。カイザースライムもいるから大活躍っす!」
カイザースライムは魔王軍の幹部だ。最端の町であっても高レベルの冒険者になれるだろう。カイザースライム頼みというのは感心しないが。
「じゃあ……お別れだな」
俺は言った後にしまったと思った。再び自分で話題を暗くしてしまった。
「私は屋敷にいるから、会いに来てくれればいいわ。何か用事があったら私の方からも会いに行くし」
アルマが何でもないことのようにいう。まあ、魔法の使えるアルマなら、俺がどこにいようと探し出して会いに来れるだろう。
「わ、私は会いに行くことはできませんが、王国に来てくだされば、いつでも最優先で時間を取ります」
ヤナは聖女だ。国の重要なポストである以上、国から簡単には出られないだろう。それでも、おそらく多忙になるであろう聖女が、最優先で時間を作ってくれるという。それが最大の譲歩なのだろう。
「私も、最端の町に来てくれれば、いつでも会えるっす!」
ミンクが肉を頬張りながら、元気に答える。冒険者はかなり行動範囲が広いが、ミンクは最端の町に家があるし、最端の町を離れないだろう。
「皆、会いたくなったら行くからな」
「ええ」
「はい」
「はいっす」
皆でもう一度乾杯し、また会うことを誓い合う。
聖剣と聖者の右腕(改) 八月十五 @in815
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