第八章 人造聖剣アルマタイト
アルマがその剣を《門》から引き抜いた。勇者ではないアルマが触れられるということは、聖剣じゃないのか?
「アルマ、それは?」
「何だいそれ。変な雰囲気がするね」
アルマはその剣を俺の眼前に突き立てた。
「これは私の研究の成果。誰でも使えるように改良した量産型聖剣。名付けるなら――人造聖剣アルマタイト」
誰でも使える。つまり、偽物である俺にも使えるということか。アルマにアイコンタクトで確認すると、アルマは満面の笑みでウインクして見せた。
俺はアルマタイトを引き抜き、ムクロと相対する。
「神造兵装である聖剣の量産。貴様ら、どれだけ勇者を侮辱すれば気が済むんだっ……‼」
ムクロは魔剣に魔力を込め始める。だが、その量が尋常ではない。まるで自身の魔力を全て使って、世界でも滅ぼしそうな勢いだ。
「聖戦は叶わない。この一撃で、死ね。《魔砲》」
魔剣から放たれたそれは、純粋な魔力放出。ただし、純粋な魔力は属性を付与されていない分、威力が高い傾向にある。それを、魔王という規格外の魔力を持つ存在が本気で撃ったら偽物の勇者である俺は消し飛ぶしかない。
俺はアルマタイトに聖力を送り込み。一気に放出する。ムクロの《魔砲》の聖力バージョン。名付けるなら――
「《聖技》」
白と黒。陰と陽。光と闇がぶつかり合う。
だが、競り合っていたのは一瞬だった。少しずつではあるが、すぐに《聖技》が押され始める。
「ぐっ、ううううううっ……‼」
俺は苦し紛れの中、何かを掴んだ。しかし、それは意外にも簡単に地面から引っこ抜けた。
「くっそおおおおおおお‼」
俺は左手で引き抜いたそれに聖力を込め、もう
光が闇を祓い、辺りが希望に包まれた。
明かりが満ちたことによって、俺が左手で引き抜いたものの正体も明らかになる。
それは――聖剣だった。右手で握っていたアルマタイトではない。本物の聖剣だ。
『よくぞ我を引き抜いた』
声がする。それが聖剣からの声だと、今の俺はなんとなく分かっていた。
『我を使い、魔王を討ち果たすのだ。我は神より作られし――神造聖剣オリジナリテ』
「認めよう。レイド・マーシャル」
見ると、ムクロが立っていた。だが、大きな傷こそないものの、肌は傷だらけ、服はボロボロだ。今までのムクロとは違う。
「しかし、やっぱり勇者になっても弱いままだね。過去の勇者には及ばないよ」
「聖剣一本ならな。二本ならどうだ?」
俺は右手にアルマタイト、左手にオリジナリテを構える。
そう言うと、ムクロは笑った。今までの憎しみのある笑い方ではない。清々しい、吹っ切れたような笑い方だ。
「次で最後だ。受けてくれるかい?」
「……来い」
オリジナリテを魔剣で受け止め、アルマタイトを右手を掴むことで受け止める。
「全く。聖剣と渡り合うために魔剣を作ったのに、まさかもう一本聖剣を用意されるとはね」
「仲間には恵まれている」
俺は聖力を解放して身体能力を強化し、右手を強引に振り払い、そのまま切り裂く。
「流石だね。勇者レイド」
俺は血振りをして、聖剣オリジナリテを鞘に戻した。しかし、アルマタイトの鞘がない。
「やったわね。レイド」
「やりましたね。勇者様」
「やったすね。師匠」
俺は偽りの勇者だ。魔王を倒しても、仲間と笑いあうことはできないと思っていた。
だが、俺は本物の勇者になった。だからみんなと対等に、心の底から笑いあえる。それが、なによりも嬉しかった。
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