トゥエンティ・トゥエンティ

トゥエンティ・トゥエンティ

 2020年の1月1日にネット上をとあるビッグニュースが騒がせた。


「モンスター頭脳バトルゲーム、2020≪トゥエンティー・トゥエンティー≫本日リリース! 基本プレイ無料!」


 ここまで聞けばただの暇つぶしにしかならなさそうな凡庸なゲーム。この後にあったある宣伝文句、


「――そして、リリースから半年経った夏に行われる全プレイヤー一斉大会、賞金総額10憶を奪い合え! 誰もが賞金を獲得するチャンスあり!」


 そして多くの人にそれが可能だと思わせるようなゲームの内容が人々の興味を引き付けた結果、『2020』は正月から7日間、テレビCMや広告などで多くの人の目に留まったのも相まって、合計ダウンロード数、100万を1週間で成し遂げる偉業を達成したのだ。






 そもそも、このゲーム『2020』は、ある大富豪が、採算度外視で世界中から最高峰の技術者を集めて、最高のクオリティで作り上げたゲームなのだと聞いたことがある。


 そしてこれから開かれる大会も、半年の慣れと練習期間があれば十分であること、そして子供大人が参加しやすい休みの期間があることの2点から、スポンサーの意向で夏休みの時期に行われることになったらしい。


 スポンサーである大富豪はこのようなコメントを残している。


『とにかく楽しんでほしい。そんな君たちを見て満足するのが、僕の意地悪い趣味なんだ』


 そして運命の夏はとうとう訪れた。


 大会には賞金がでるということもあり、いい成績をとって賞金をもらいたいプレイヤーも多い。その賞金で何かしらの野望を持っている人も多いのではないだろうか。


 僕もさすがにコメントはしないけれど、楽しみでならない。半年このゲームに熱中してこの大会に向けて用意をしてきた。


続けるモチベーションは意外と高かった気がする。かなり昔から準備を始めていたことが伺えるキャラクター数と、質の高いイラストを見ることができて、さらにゲームも常勝とはいかないものの勝ちやすいルールなことが主な要因だろう。




 ソシャゲの大会ということで参加は、スマホかパソコンだけあればできる。しかし、運営は初回の大会ということもあり、さらに趣向を凝らしたイベントへと変化させた。


 テーマパークを3日間貸し切りにしてイベント会場とするものだった。ファン同士の交流ができるというのも利点だが、貸し切りにしたのはそれだけが理由ではない。


「本日はご参加ありがとうございます。こちらをどうぞ」


幸運にも抽選に大当たりした僕は今日、テーマパークの正門で透明なゴーグルを受け取った。正門をくぐってすぐ、『2020』のアプリを起動。そしてスマホとゴーグルをコードでつないだ後そのゴーグルをつける。


目の前にゲームの中でしか見たことのない。そのテーマパークにまるでゲームの中のモンスターが現実に出てきたのかと錯覚しそうだ。AR、いわゆる拡張現実というらしいが詳しいことは知らない。僕としても、ゴーグルをつけてARを楽しめる時代とは驚いた。


 そこらで爆発が起こっていて、ソニックブームが完全に自分に当たっている。炎やらレーザーやらが飛びかって、空を竜が飛んでたりとかしているところを見ると、興奮していると同時に若干怖い。心臓がバクバクしている。


 危なさそうないろいろに当たっても痛くないのを早々に確認できたのはよかったかもしれない。ARだから当然といえば当然かもしれないが。


 これで憂いなく遊ぶことができるというものだ。


『対戦申し込みがあります。後方をご覧ください』


 いきなり目の前にこんなメッセージが出てまた驚かされた。指示通り後ろを見ると、自分を見ているやや年上の人がこっちを見ている。


「やりませんかー」


 何を、というのは野暮だろう。当然このイベントでやることといえば『2020』のバトルに決まっている。僕は快諾の返答を送る。


 ゲームの操作は今まで通りスマホで行う。これパソコンの人は大変そうな気がするが、参加者はそれを承知済みなのだろう。それは僕が心配することじゃない。


 いざ勝負! スマホの画面の馴染み深い戦闘準備画面へと移行する。




反射神経も頭の良さも特に突出した能力があるわけでもない僕だが、それでもアクションゲームとは違って、このゲームなら勝ち目があるので自信をもって大会に参加できる。


 このゲーム。ルールはとてもシンプルだ。互いに手持ちの使い魔を1体出して決闘させる。その決闘のやり方に、このゲームのタイトルである2020が関係してくるのだ。


 互いのモンスターの体力は20で固定。つまり体力20と体力20という状況でバトルは行われる。それぞれのモンスターは、いくつかのバトルのための技を持っているのだが、1から20のうち1つの数をバトル直前に、それぞれの技に設定する。


例えば僕が今から使う『ヴァルキュリャ・フリスト』であれば、10・グングニル・フリスト、7・天乙女の神衣、2・スタン、1・弱攻撃、の4つを持っているが、数字の合計は20になるようにするのだ。


それぞれの攻撃には特殊な効果があるものもあるが、それも言い始めたら時間が無くなりそうなので割愛。


 もちろん相手が使うモンスターも同様に、20の数を振り分けた技を持っている。互いに体力20で20ずつの技を出し合って戦うことも『2020』という名前の由来だ。


「た、対戦よろしくお願いします!」


「こちらこそよろしくー!」


 相手は見た目から年上とわかるので、こちらが丁寧語を使うのは当然の流れだった。


 相手が繰り出してきたのは、巨大なワニ。黒くまるで金属のように光沢を放っているところを見ると、やはりこの世界の生物ではないように見える。


 バトルはそれぞれの技を1回ずつ同時に出し合うところから始まる。そして出した技の数字を比べるのだ。


原則、大きな数を持つ技のほうが勝利して、相手の体力を数の差の分だけ減らす。そして互いに同じ数を持つ技を出したら、互いに3ダメージが入る。その後、その後それぞれの技に特殊効果がある場合は、それを発動する。ただし。


1から5の数字を持つ技は12以上の技に勝利して。相手の体力をその分だけ減らして、技の効果を発動不可能にする。


6から11の数字を持つ技は5以下の攻撃に勝利した後、5以下の技の効果を発動不可能にする。


12以上の数字を持つ技は、6から11の攻撃に勝利した後、6から11の技の効果を発動不可能にする。


その他の戦闘ルールを含め、技の効果の内容をバトルでは優先的に適応する。


 つまりこれは己の使い魔の持つ数字から何を出すかという頭脳戦だ。


 最初の選択。最初をしくじるとこれ結構辛い。


 選んだのはさっそく自分の使い魔の大技。10の数字をもつグングニル・フリスト。


 対戦。相手が選んだのは3の数字をもついわば大技に対してのカウンター狙い。これは例外処理の効果も相まって1フェイズ目からいい感じだ。


 光の槍の投てきによって大ワニはダメージを受けた! そしてこの技の効果を発動する。


 開始から2フェイズ以内にこの技で攻撃が成功した場合、相手のその技を次のフェイズに使えなくする。


「ぬお、マジかぁ、これはキツい、やられたなぁ」


「ど、どうも」


「いやあ、やっぱり、思い通りにならないな。ははは」


 目の前にいるお兄さんはそう言いながら楽しそうに笑っていた。


 向こうのお兄さんの話には大きく同意だ。ゲームというのは、なんでもかんでも自分の思い通りになると、先の展開が読めてしまう分、期待がなくなりとてもつまらなくなる。


 もちろんイライラすることもあるが、ゲームとは本来楽しむものだ。あまりにクリアできなくて、勝てなくて、時には投げ出したくなる時もあるけれど、結局それは、クリアしたり勝ったりしたときの嬉しさへのスパイスになるので、つまらなくなるよりはいい。


 2回目の技選択。今度は自分の使い魔である彼女に、2の数字を持つ技、スタンを命令。


 対して相手は7の数字をもつ、体当たりを命令してきた。使い魔である僕の相棒に巨体が突撃。とても痛そうだ。


 実際5のダメージは手痛い。先ほど自分がやったことと同じことを見事にやり返されたことになる。


 『2020』というゲームは勝ちやすさや負けやすさをできる限り取り除いてかつ面白さを追求したゲームなので、思い通りにいかなかったり、どうしても勝てない時もある。


 3回目の技選択。僕が7の数字を持つ、天乙女の神衣を選択。


 相手が選んだのは、10のテールアタックという技。


 また負けたんだが。悔しい。こっちにまた3のダメージが入ってしまった。


「よし! 入ったぁ」


 笑みを浮かべる相手を見て悔しさも増すというものだが、悪いことばかりではない。これで相手の数字はすべて判明した。数字のシャッフルは、自分がすべての技を使った次のフェイズ終了後のため、僕は次、相手にどの数字があるかすべて分かった状態で数を選べる。


「まだまだ……!」


 こうしてしのぎを削って試合をしている感覚がとても面白い。誰とでも互角にゲームができるこの状況がたまらない。自然と唇の端が吊り上がるというものだ。




 6フェイズ目。同じ数を持つ互いの攻撃をぶつけあい、互いの使い魔が3ダメージを受けて、ギリギリこちらの勝利。


「いやあ、負けた負けた」


「いえ、僕もギリギリでした」


「いい試合だったぜ。そうだ、タッグ戦もできるから、一緒に回らない?」


「いいんですか?」


「タッグ戦でもスコア勝てばスコア上がるし、こうしてせっかくゲームの縁で会えたんだから、少しこのゲームのファン同士語りながらやろうぜ」


 ゲームを通じて、話し相手ができるとは、嬉しい。


 もちろんその誘いを快諾する。今日は1日楽しくなりそうだ。


「君、もしも賞金手に入ったら、何に使うつもりなの?」


「いきなりですね……」


 僕はその人と今日、この大会で一緒に盛り上がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る