奇祭開演!「見る人は語る『マジで⁉』」(KAC20202)
ある日。
俺はどこかに迷い込んでしまったようだ。
「にいちゃん迷子かい?」
気づいたら鳥居の内側にいた。
長い長い石畳の道の先には、ここからは見えないが何かがあるのだろう。鳥居だから神社か何かなのか。
話しかけてくれたのは、知らない男だった。
いや、前言撤回。知らないことは知らないが、頭に角が生えている。
まさか、鬼?
まさかまさか。そんなの伝説上の存在だ。
「へへへ、こりゃいいぼんくらだなぁ。兄ちゃん、一緒にこの先へ行かないかい?」
そう言ってこの鬼的な存在は俺の手を握る。いや、握力が強すぎる。痛い痛い。
俺を手を引っ張り奥へと連れていくこの男。その中で俺は変な光景ばかり見た。
屋台が並んでいる。祭りでもやっているのかな。そう思った俺の目には様々な人たちが、否、何者かが映っていた。
「よー、鬼のにいちゃん」
「お前……、六尾のところの妖狐の娘か。大きくなったなー」
「母さんは今年いけないからウチに行けって。ひさしぶりやねー」
まずい、大変まずい。
俺はとんでもないところに迷い込んでしまったのではないか。
「どうした、迷子くん」
俺の名前いつの間にか迷子くんになってるし。
「あのーここは?」
「ああ、今日はいろんなところからいい感じの奴らを集めてワイワイ騒ぐのよ。この奥がお祭り会場さ。ここで食べ物を買って、向こうでワイワイ騒ぐのよ」
ワイワイねー。
とっても嫌な予感がする。
先ほどからいろいろな存在とたびたびすれ違っているが、非常に賑わっていること間違いなしなのに、どうも人間っぽいヤツが一人もいないのである。
鬼らしきこいつが急に立ち止まった屋台を見ても人間じゃない。
「おお、お前吸血鬼か」
は? え、ここ妖怪やら鬼やらの日本的な奴らがいるんじゃないの?
「鬼の! やっぱあんた来てたか」
「今回もトマトジュースか?」
「今日は血生臭いのはNGだからな。最高のトマトジュースにしたよ」
「こいつの含めて2つだ!」
「お待ち」
「おお、お前今『お待ち』って」
「今回の会場はジパングだからねぇ、それっぽい雰囲気の挨拶は覚えてきたんだよ」
「いいねぇ、粋だねぇ」
ジパングって、たぶん日本のことだろうけど、ここ日本なのか? ならなんで吸血鬼みたいな海外っぽいのがここにいるんだ。
俺はもう一度周りをよく見ると、どうもいるのは日本の妖怪だけではない。首なし騎士的なのや、天使、悪魔的な存在もいる。
日本に限らず、伝説的な存在が生まれの国(?)の垣根を越えて楽しく話をしながら、道の奥へと進んでいく。
今気づいたが不思議と戻っているヤツは1人――人と数えていいのか?――もいないのだ。
「さあ、奥へ行こうか」
もしかして、俺はいけにえにされたりしないだろうか。今からとても不安だ。
「人間の兄ちゃんだ! まいごだぜぇ」
一番奥には宴会場と舞台があった。舞台の上では、これまた見たことない、南米っぽい、名前は知らない何者かが躍って、それと屋台で売られていた肴をつまみに、様々な種類の奴らが交流している。
ていうか、なんで俺が来たっていうんだ。
万が一人を食うような奴がいたらどうするつもりだ。
「おお、珍しい。この祭りに人間とは、5年ぶりか。こっち来い、語ろうや」
ガイコツに手招きされた……。
「あの、ここは?」
念のため、俺は鬼っぽいこの男に尋ねた。
「ん、ああ。そういや言ってなかったな。年に一度、どこかの国に集まって、こうして妖怪たちで大騒ぎするのか。もちろん日本だけじゃない、海外でもやるぜ。互いに神秘がなくなってきた時代でどうやって人を驚かせたり、怖がらせたりしてんのか自慢しながら、異文化交流をしてるのさ」
なるほど。それなら納得――するか!
とんでもないところじゃないか! 俺なんかが来ていいのか?
しかし迷い込んでしまったら仕方がない。
「人間の兄ちゃん、おいらにスマホとやらの使いかたを教えてくれよ。そろそろ時代もデジタル、我らの存在もデジタルになっていかないとな」
その前にガイコツさん、スマホつかえるのか。
こうなったらヤケだ。
この
しばらくして。
めっちゃ話した。
めっちゃいろいろな踊りを一緒に踊った。
めっちゃ何かで遊んだ。
めっちゃ楽しかった。
「そろそろおわりかー」
「来年だな……待ち遠しいぜ」
妖怪たちがそんな話をするのも分かる。
なぜなら、人間が一人もいなかった祭りだったけど。
思いの外、最高に楽しかった。
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