第5話 戦う運命
6
「何の用だ」
家から5メートル離れて、俺は連中と相対した。
「お前の家に裏切者がいるだろ」
副リーダーを名乗る、よく知らない奴が言った。今は夜。見えるのは副リーダー含め数人だが、周りの森の茂みには多くの兵が夜の闇に紛れているのだろう。森の木の下は夜になるとものすごく暗くなる。俺はそれが防犯に役立つと思って、森の中に家を建てたのが、まさかこう利用されるとは思わなかった。
「証拠はあるのかよ」
「さっき、偵察の1人がお前と1緒にここに入っていくのを見たそうだ」
「証拠になりえないな。そんなの見間違いかもしれないし、もしかしたらお前らを欺いているかもしれない」
「なら、この家ハチの巣にしても問題ないな? なに、家くらいすぐに建ててやるさ。それなら構わないだろう?」
「人の家勝手に壊すなよ」
「軽すぎる犠牲だ。もし裏切者がいなかったら、俺がお前の贄になってやってもいい。だから容赦なく撃つぞ」
少し話しただけで、俺の立場がかなり弱いことが分かる。自分の命まで担保にされては、これ以上こちらがここを撃たせないためにできる交渉の材料が思いつかない。
「わざわざここを撃たなくても、裏切者が出た瞬間ハチの巣にすればいいだろ」
「俺はそんなに気の長い方じゃなくてね、ただでさえもう時間がない。ここで取り逃がしたら、もう会えない可能性もある以上、手は抜かない。確実に殺すよ」
交渉が無理なら戦うか、とは一瞬考えはしたが、包囲している人間が何人いるか分かっていない。いくらこちらにチート級の人間がいたとしても無謀な戦いになる。
「だが、お前は1回班長が連れて来いって言ってる」
「班長?」
「班長とお前が話している間は、攻撃しない」
「信じられないな」
「無理やり連れていく」
「分かった」
どうあがいても強制的に連れて行かれるなら仕方がない。それにこいつらの言っていることが本当なら、俺が班長とやらと話している間は琴音が襲われないで済む。
「連れてってくれ」
副リーダーは俺への監視に、数人をつけ、俺は後ろで銃を構えられながら、街の方角へ森の中を進むことになった。
1時間ほど不気味な雰囲気の、木々の集まりの中を進む。
監視の1人が灯りをともしていて、かつ迷わず町の方角へ向かっているので、少なくとも俺を森の中で暗殺することはないようだ。
すると前を先行する奴が、何かを落とす。
何か。金属製の。
その時。
俺の目を激しい光が襲った。
閃光弾と呼ばれる、相手の目に激しい光をぶつけ、目の機能を麻痺させるもの。
前言撤回。おそらく俺はここで殺されるだろう。
その言葉通り、いきなり後ろから、先ほど家を襲っただろう銃を構えた人間が見えた。
俺が愛用する武装。レーザーアームズアサシアスは、元々対閃光弾用の薄いバリアが目のところに貼られている。俺は問題なくたたくことが可能だ。
弾丸を撃つ際の発光が2方向に確認された。迫る弾丸は、俺の武装を展開したときに自動的につくバリアによって阻まれる。このバリアは3回攻撃を防ぐものだが、ただし、スナイパーライフルかショットガンの実弾銃以外の銃攻撃はすべて無効化する。というおまけがついている。よって向こうが使うレーザーマシンガンの弾丸では傷1つつかない。
俺は落ち着いて、自分のハンドガンで自分を撃ってきている方に狙撃。炸裂弾なので1回当たっただけで、向こうの武器は壊れる。バリアがない限りは致命傷だろうと推測した。
後ろから光剣で斬りつけられたのが、バリアが放った音で分かった。俺はすぐに後ろを向き、迫っていた剣使いを、短刀を使って迎え撃つ。
幾回かの剣戟を交えた時、横から再び銃撃に見舞われたこれで隙ができるかと思ったのか、剣使いは前のめりになる。しかし銃撃は先ほどと同じ種類の弾を使ったもの。俺は気にせず剣使いに集中、前のめりで隙ができている剣使いに短刀を刺した。そのついでに、向こうを炸裂弾で撃つが、なぜか効果がない。
「同じバリアか……」
つい口に出てしまい、向こうも気付いたようで距離を取ろうとする。仕方なく俺はそいつに向かって真っすぐ短刀を投げた。短刀はしっかり突き刺さり、そいつはそこで倒れる。
倒れたところに俺も行くと、そいつはそこで、短刀を真っ2つ折って死んでいた。最後の抵抗だったのだろう。
もう4人も殺した。これで俺は合計6人殺したことになり、立派な殺人者試験の合格を勝ち取ったことになる。
しかし、まだ終わりではない。琴音がまだ無事でない。
このまま終わってはいけない。
俺は町の方へ向かう。
7
森の出口は何か所かあるが、俺はその中で、町で1番大きい商業通りという道に1番近い出口から出た。昼に来れば、原住民が店を開いて活気づいているが、夜ともなればやはり静かだった。
道沿いにあるのはすべて木造の2階建て1軒家。店をやる以上、1階を店で、2階を自分の家としてやるのがこの島では1番いいのだろう。
そして、その中央に1人、俺が良く知っている人間が立っていた。
「まさ、来たのか」
「達也じゃん。まさかお前が班長とは、偉くなったな」
「ああ。お前こそ裏切者をかばう人間だとは思わなかったよ」
達也は中学生時代からの俺の知り合いだ。1年前までは多分友達として普通に遊んでいた仲だった。
しかし、1年前、達也は俺にカミングアウトをする。琴音が好きだと。ちょうど俺も例の病気にかかった頃だったため、複雑な気持ちになった。疎遠になったわけではなかったが、それからは恋敵になってしまったため、何かと張り合うことが多かった。
「裏切者は琴音だ」
「知ってる」
「お前、それを知ってもやる気なのか?」
「俺だって辛い。……だが、1ヵ月この島で過ごせば分かるだろう? 何人死んだ? これ以上死人を増やしていいのか?」
「それはお前らが勝手に死んだだけだ」
「琴音だってそんなの望んでいない。きっと自分を殺してほしがってる」
達也の勝手な決めつけに、俺は怒りを覚えた。琴音の嘆きを知らない奴の勝手な思い込みを許せない。
「お前、何もわかってないよ。琴音はそんなこと望んでいない!」
「俺には分かる。口でどう言いつくろおうと、琴音の本当の気持ち」
「それはお前の決めつけだろうが!」
俺の叫びに達也はやれやれと言わんばかりに、ため息をつく。
「まさ、俺からすれば君が決めつけているだけに聞こえるけどね」
そうかもしれない。
しかし、このまま琴音は殺させない。あの言葉を伝えて、返事をもらうまでは。たとえそれがどんな返事でも、それで悔いはない。だから今はまだ悔いがあるのだ。
「君にお願いがある。まさ。君の手で、彼女を殺してほしい」
「お前がやればいいだろ」
「君がかばっているんだろう。君がやれば確実に彼女は隙を見せる」
「変わったな。達也」
俺は銃口を達也に向ける。
「いまお前が嫌いになったよ」
「君が彼女の味方をするなら、殺すしかない。Eコード。ファンクションレーザーアームズソルジャー。テイルオン」
達也は、右手に座高ほどある大きな光の盾、左に刀身が腕ほどある刀型のレーザーブレードを出した。
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