最後の日 最初の日
第1話 最後の日
ここは孤島。島のどこから見ても別の陸が見えない。
2週間ほど前、結成された調査団が1週間ほどをかけて計測したところ、島の直径は約10キロの、ほぼ円形の島であることが分かった。
中央に標高300メートルもない緑に覆われた山があり、南側は小さな町、北側は森が広がっている。
さらに、島全体にアリの巣のように広がる、1階につき高さ8メートルとして3階層に匹敵する深さの地下道が張り巡らされている。
この島に住んでいる人種は2種類。原住民と、移民だけだ。原住民は移民を支援する形でこの島の町を機能させている。
ある男は言う。ここは死者の島。
未練のある少年少女を憐れむ神が移民としてここに転生させ、この地で試練を与え、この世界で生きるにふさわしいかを問う神聖なる場所だと。
しかし、この島にたどり着いたが最後、生きてここを出られた者もいないと言う。
この島の真実を知る者は未だ現れていない。
1
「ねえ、何で私はここに居るの?」
その問いに、俺は答えることができない。
「何で、殺さなくちゃいけないの?」
それにも答えることができない。
「神様は私達にそんなことをさせて何が楽しいの?」
答えられない。
「私……こんなことなら、死んだままでよかった。こんな苦しい思いをするなら、いっそ……」
「駄目だ。それを言ってはいけない」
彼女は激情を隠さずぶつけてくる。
「だっておかしいよ! 何で……何で……」
彼女の叫びは響き、空しく消えていく。
ここは地下道を進んで1番奥の教会。陽の光は当たらず、蝋燭の火で部屋を照らそうとも、その力はあまりにも小さく、多くの小さな灯も部屋の全体を明るく照らすまでには至らない。薄暗いというまでにしか、明るくならないこの部屋は活力を感じられない無機質な装飾とも相まって、はっきり言って不気味なことこの上ない。悪魔が命の勘定をしてる場所と聞いても信じるレベルだ。
「……地下道で人を襲ってるのはお前らしいな、琴音」
「……そうしなきゃ死んじゃうもん」
「死んだままが良かったなら……死ねばいいだろ」
またこれだ。俺は憎まれ口を叩く癖が治っていない。
自分で言った言葉に嫌悪感を覚えるのはいつものことだったが、これは最近で1番刺さる。俺という人間はここにきてさらに汚れてしまったらしい。
「1回試したけど……、あっちは体全身が針にめった刺しにされてるような痛みが来るの。死ぬまでずっと。苦しくて、我慢できない」
言ったことの意味が理解できない。
「そうか」
「おかしいよね。……私を殺しに来たんでしょ?」
せっかく2人きりなのだ。本当だったらこんな話はしたくない。昔からずっと、ずっと一緒にいた大事な幼馴染なのだ。
この世界に来てからずっと待ってた機会。理不尽な世界に耐え、ただただ再会を求め生きてきた。あの日。言いたかったあの言葉を言うために。
しかし、今言うべきではないのは、16歳に相応な知性を持っていれば分かることだ。
「まあ、連中はな」
「殺して」
「やだ」
「……何で?」
「俺は嫌だから。それだけだよ」
俺だって何度も何度も夜うなされながら、この世界に生かされた理由をずっと探し求めてきたのだ。しかし、昨日諦めた。そうしたらゆっくりと眠れた。自分が殺してした人間の断末魔が初めて夢の中で聞こえない夜だった。
そう、考えるだけ無駄なのだ。俺たちは、死ぬまで生きる。この理不尽で埋め尽くされた島で。
2
この島に来る前、神を名乗る男は言った。
『チャンスをあげよう。世界は違えど、再び生きるチャンスを』
世界適応試験。
奴はこの島に俺の学校の生徒みんなを1度転生したと言う。
そこは俺達が元いた世界とは違う世界。
Eコードと呼ばれる、文字が世界を支配する世界。
なんでもつくり出せる万能粒子を扱うための文字らしい。
詳しい原理はどうでもいいのだ。問題は次にあった。
試験に合格するために、俺達がするべきことは2つのうち1つ。
条件1つ目。学校の人間を5人以上殺すこと。
2つ目。移民の中にいる裏切者を1人見つけ出して殺すこと。
試験期間は1ヵ月。合格条件を満たせなかった者は、即座に体が爆発して四散するらしい。
どちらにしても確実に、同じ所属の人間同士で殺し合いをすることになった。
神を名乗る男は言った。
『こんなことわざがある。郷に入っては郷に従え。戦いこそがこの世界のルールであり、人が生きるためのエンターテイメントだ。この世界で生きるためには、君達にもこの世界に慣れてもらわなくてはならない』
この言葉と共に、俺たちの戦いは幕を開けたのだ。
最初は多くの生徒が何もできなかった。しかし、500人もいれば、動く人間が必ず存在する。今回の場合、何かの不思議な夢だと割り切って、神の試験を真面目に受けようとするやつが50人ほどいた。
その中の7割は条件の1つ目を、残りが条件の2つ目のクリアを目指す方向になった。
そして開始1日目で前者の人間の1人は早速1人目を殺した。それを機に多くの人間の何かが狂い始め、今まで同じ学校の生徒だったのが急に互いを標的とした殺し合いの関係を築いた。
3
「ごめん……。こんなこと言って」
彼女は涙をぬぐい、コードを唱え始めた。
「Eコード。メイン、ファンクションロービアット、ミドル、ワン。テイルオン」
彼女の近くにソフトボールほどの光の球が出現する。それは蝋燭の火より何倍も明るく輝き、彼女をよりはっきり映し出した。
「まさ、なんで私を生かしてくれるの?」
「それ以上言うと、本気でぶっ殺すぞ」
「うう……ごめん」
しょんぼりしてしまった彼女を見てまた胸が疼く。彼女が弱っているのは明らかだ。昔は、俺がどれだけ悪口言っても、決して引き下がらずケンカばかりしていたのに、今の彼女からはそんな活力は感じられない。
「何日間、外に出てないんだ?」
「2週間前から」
「やっぱりか。……お腹は?」
「もう……3日も何も食べてない」
ここに来てから彼女が妙にやつれているように見えていた。原因が分かったので俺はコードを唱える。
「Eコード。メイン、リプレ、グラタン、エクスタホット。テイルオン」
すると俺の手に、湯気が出ているアツアツのグラタンが目の前に現れる。俺はそれを持ち、アツアツとつぶやきながら、彼女に差し出した。
「食え」
「いいの? ありがと」
琴音は息を吹きかけ冷ましながら、それを口に運ぶ。もぐもぐと口を動かしている姿を見ると、どうしてもこいつが可愛く見えてしまう。この症状は高校生になってから。俺は急にこいつを意識してしまう病気にかかってしまったらしい。
「温かい」
「当たり前だろ。苦労して加熱状態にしたんだ」
「そうじゃない。まさが隣に居ると、なんだか前みたいに元気になれた気がしたの」
「本当に1人だったのか」
「だって……私は……裏切者だから」
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