第3話 人間好きの変わった魔王

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 体が治りそれからの10年間を語った俺。


 そして、懐かしの宿の中で、苦しい10年間を過ごしてきた彼女の話。


 再会の時間は、そんな話で盛り上がっていた。


「ところで、今日はどんな用事で」


「……君に伝えたいことが2つある」


「なあに?」


 彼女はあの頃と変わらず、俺と話をしてくれるあの時の娘と同じ馴れ馴れしい態度だ。


 期待通りのその態度に、俺はあの頃と同じように話をする。


「1つ目。俺はもうすぐ王となる。それと同時に、人間の国に攻め入るつもりだ」


「うん」


「うんって驚かないのか」


「だって君言ってたじゃない。別れの時、人間は滅ぼすって」


「何……そんなことを言っていたのか。それは忘れていた」


「私はあの時冗談だと思ったけど、本気なんだね」


 全く怖がっていないイレー。


 魔人の王になるはずの俺なのだが、これには俺もびっくりで、むしろ俺がドン引きしてしまう。


「俺はすべてを破壊し蹂躙する。きっとこの町も無事では済まない。皆俺を裏切った人間への恨みはかなりのもので、大戦争になるに違いない。きっと国境付近のここは、もうまともに生活できなくなるだろう」


「うん。そうだろうね……」


 やや表情が暗くなった。


 やめてくれ。


 そんな顔が見たかったわけじゃない。


 この10年間俺は呪いのような執着を抱いていたのだ。


 イレーの、この宿屋を離れた後、どうしても、その当時のことがフラッシュバックして、イレーのことをもう一度ずっとそばで見たかった。


 そしてそれは刹那ではなくずっと長い時間見たいという欲望だと気づいたのは、帰還してわずか1か月もしないうちだった。


「そこで2つ目だ。俺は結局侵略者の王だ。俺には野蛮な方法でしか交渉はできない。俺は、この町は救えないが、この町の人々は救える。今日はそのために来た」


「……本当?」


「前の恩がえし……、いや、これは俺なりに考えた、君たちが望むことだと思う。今ならまだ間に合う。町は無理でも命は救える。明日、俺と一緒に町を出てほしいんだ。移住先は用意してある」


「それ、私に話すこと?」


「……実を言うと、俺は君に協力をしてほしいんだ。町の皆に俺ではなく君から、俺の提案を受けるか受けないかを聞いた方が早いと思ってね」


 ――まて。


 違う。そうじゃない。そんなの脅しをかければいいだけだ。


 俺がイレーに最初にその話をしたのは、彼女に死んでほしくないからだ。


 だから一緒に来てほしかった。


 人間たちの悪になっても彼女の命は救いたかった。


 人間は一括りにしてはいけない、彼女は生きるに値する人間なのだから。


 そして。


「……すまない、言い直す」


「言い直す? ……どういうこと?」


「俺は君が好きだ。だから君は俺と一緒に来て生きてほしい。そして町のみんなも一緒に来てほしい。生きてほしい」


「あら、急に王子様、いえ、王様発言? へえ、あの時のけが人さんがねぇ」


 イレーは愉快に笑って、返事をくれた。


「ずっと、私と一緒に過ごしたときのこと、覚えててくれたんだね。それだけ、私はあなたにしっかりおもてなしできてたんだ。恩を感じてくれるほどに」


「あ、ああ。ああ! そうだ」


「嬉しい。なら……私も正直に言うと死にたくないから、お言葉に甘えて。よろしくお願いします王様」


 来てくれるのか。


 そうか。良かった。


 まずはこれでいい。王になるにあたってずっと心残りだった問題が良い方向に解決したのだ。


「では王様。こんな質素な宿屋でよろしければ、今日は泊まっていきませんか」


「……町の皆に伝え、準備とすれば数日かかるだろうからな。その間はお世話になる」


「前みたいに、ご面倒を見ましょうか?」


「……そうだな。ぜひ」




 後に発生した大戦争。


 結果は魔人の国が勝利して、人間の国は滅ぼされました。


 しかし、人間族は滅亡したわけではなく、善き心を持つ者は魔人族に暖かく迎えられそしてその生を全うすることができたと言います。


 そのきっかけをつくった宿屋の少女は、後に魔人の王の熱心な求愛によって妃となるのですが、それはまた、別のお話。

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