11.私らしい、その心は?

 近隣諸国が王命によるこの結婚をよく思っていないのでは?と考えはじめます。


 ……それもおかしいですね。


 我が領と接している隣国の領地に置き換えてみれば。


 その領地の娘が、遠くの領地を持つ貴族と結婚したからといって、国防にさほどの影響があるとは思えません。

 だって、もしこちらを狙うために共同戦線を組んだとして、すると我が領とは遠くの地の守りが手薄になるということでしょう?


 それってかえって自滅の道を進んでいることになりますよね?

 我が領としては、そちらの領地と接する国に必ずその仔細教えて差し上げますし、その国だって自前で調べ、好機だと思うことでしょう。


 そんな自分たちでも行わない無謀な懸念を持って危険をおかして結婚を阻止するよりは、表向きの友好関係を保つためにも、父だって結婚を祝福する方を選ぶと思います。



 それではないとしたら……陛下への不信感でしょうか。

 王都で悪い噂が流れているような相手と無理やり結婚させる、という考えに立てば、自分たちを蔑ろにされたと捉えられなくもありません。

 すると王家への忠誠心が揺らぐ……そういうことでしょうか?


 侵略の機を狙い、種を撒きはじめたと……。

 つまり他国にはずっと先の未来を見据えた策士がいるのかもしれません。

 これはすぐに調べた方が良さそうです。



「君の心配は杞憂に終わると思っているが。もちろんこちらでもすぐに調査をはじめるから安心してほしい」


「ありがとうございます。ところで私の噂とは、どのような内容かお聞きしても?」


 侯爵様がまた渋いお顔を見せました。


「……聞けば気分を害するかもしれない」


 私はここで自分に対する噂の内容が悪い前提で考えていたことを知ります。


 まぁ、噂というものはどこかに悪意が潜んでいるもので、時に嬉しい内容の場合もありますけれど、そういったものにまで何故か不要な尾ひれ羽ひれが付随して、いつの間にか良い内容の中に悪意が混在し、そうなってはじめて沢山の人に面白おかしく語られるものですからね。


 侍女たちも楽しそうに他人について話していたことはありましたけれど。

 嬉しくて幸せでいっぱいの内容については、長く話している彼女たちを知ることはありませんでした。


 誰かが失敗した話だとか、誰かがふられた話の方が、よく盛り上がっていたものです。

 ときには友人の結婚式が素敵だったーと目をキラキラさせて語っていながら、同時に結婚相手の劣った点を語り始めて、望まれぬ心配を勝手にしているようでしたから。


 悪い内容の方が、より早く、より広く、伝わるものなのです。

 だから、そういうものだと思えば。


「問題ありません。気分を害する予定はないので、お気遣いなく」


「予定はないか……それも君らしいね」


 私らしいというのは、どういう意味なのでしょう?


 貴族は暗喩を好みますが、それはつまり言葉の裏に込められた意味を読み取れなければ、貴族としては未熟者ということになります。

 けれども我が領地では、そういう腹の探り合いを避けているところがありまして、私には貴族としての学びが足りていない自覚もありました。

 周りの者たちもまた、同じようでしたから……。


 けれども育ちに甘えてはいられません。

 私も貴族の令嬢としてこの地に嫁いできたのですから、これは頑張って勉強しなければなりませんね。


 ……どのように勉強しましょうか?

 まずそこから考えることにします。




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