12.分からないことが続きまして

 私が貴族らしくなるにはどうしたらと悩んでいましたところ、侯爵様は話を戻してくださいました。


「まぁ、私も同じと言えば同じか。家を貶めようと噂する者は許さんが、私個人についての噂なら放っておけと指示していたからな」


 侯爵様の個人的な噂話だとしても、ご当主であるのですから、それは家を貶めていることになるのではないでしょうか?


 私の疑問にもすばやくお気付きのようです。

 何か言う前に察する。

 これぞ、貴族という感じがしますね。


 私は本当に頑張らねば。


「あまりにくだらない内容ならば、放置しておけと言っただけだ。家を貶めるに値する私の噂なら、それは対処していたよ。だから、君のところにそんな話が流れるはずはなかったのだが」


 それはまた不思議な話ですね。


「もっと奇妙なことにはな。君についても概ね同じ内容なのだ」


「同じ……というと?」


「君には領地に想い人がいて、王命により遠い地へ嫁ぐことになり、二人は泣く泣く引き離されてしまうのだと」


「まぁ!」


 驚きですね。

 想い人?

 思い当たる人さえ浮かびませんが。


 やはり他国の者が絡んでいるのかと考え始める寸前のところで、はぁっと息を漏らす音が聞こえ、それは中断されました。

 侯爵様の溜息です。


「良かった。それであんなことを言われたのかと思ったら……少しは傷ついた」


「それは申し訳ありません。ですが、想い人などは」


「その顔を見たら分かる。そもそもな、君が令嬢としての立場を顧みずに、結婚前だからと身分差の恋など楽しむとは思っていなかった。だが恋というものは意のままにならぬものだから、万が一ということもあり得るだろう?」


 顔?私の顔に何か書いてあるのでしょうか? 


 よく分かりませんが、私は確かに恋をしたいと思ったことはありません。

 万が一ということも、起きたことはありませんでした。


 そういえば従姉妹たちは、そんな人生はつまらない。

 王都に出れば恋が溢れているとかなんとか言っていましたねぇ。


 だいたい従姉妹たちの話はよく分からないものですが、恋って溢れていいものかしら?とそこだけは疑問に思いましたよ。

 それって単に王都の風紀が乱れているだけではなくて?


「君は連れてきた騎士の一人もこちらで雇えとは言わないし、侍女もつけずにやって来ただろう?そんな可能性はないだろうと安心していたところに、あの発言だったからな」


 どこでどのように安心出来たのかも分かりませんが、想い人がいると思われなかったことは良かったです。


 ……当事者になりますと、自分がいかに失礼なことをしたか、改めて知ることが出来ますね。

 私はなんということをしてしまったのか。


「申し訳ありません。本当にどうお詫びしたら良いものか」


 私が頭を下げようとしましても、詫びは要らないと侯爵様は繰り返します。

 そうは言っても、私の気は晴れません。


 誰がなんと言おうとも床にひれ伏して頭を下げたいところですが、それもこの強く握られた手が許してくださいませんし。


 そんなに強く握りしめて、私を捕まえておきたいのでしょうか。

 それも片手でがっしり握ったうえに、上からさらに手を重ねて挟み込む、強固さですよ。


 どこにも逃げる予定はありませんのに。


 もしや罪人として逃がさまいと……詫びは要らないと言われているのでした。

 とするとやはりお作法なのでしょうか。



 こうも分からないことばかり続くと、何も考えられなくなってしまうのですね。

 これからどうすべきか、考える時間を頂きたくなってきました。


 そのように望める立場にもありませんが。



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