第10話 襲撃
「500メートル先ッ! ハイオークが3体ッ! 人間が襲われてるッ!」
情報を正確に伝えるため、ハッキリと大きな声を出した。
慣れないせいで、怒鳴ったみたいなってしまった。
喉が焼けるように痛い。
だが、ディズにはちゃんと伝わったようだ。
「わかったッ!」
一言残し、ディズは一目散に駈け出した。
――疾いッ!
100メートルを10秒もかからずに駆け抜けそうな速さだった。
これなら一分もかからないだろう。
誰かもわからぬ相手を助けるために、危険も顧みずに飛び出したディズ。
彼女の人柄がちょっとわかった気がする。
俺は少し嬉しくなった。
感心してないで、俺も自分の役割を果たそう。
ディズも速いが、俺の方が速い。
俺も魔法を発動する。
緊急時なので、もちろん、詠唱はキャンセルだ。
この距離で打つのは初めてなので、少し不安だが、失敗しないように慎重に魔力を練り上げていく。
「――【
俺が魔力を放出すると、目に見えない魔力の弾が飛んで行く。
その数、3つ――。
ハイオークに向かって、音より早く飛んで行く魔弾。
またたく間にディズを追い越し、ハイオークたちに着弾し――。
――ドゴオオオオオオオン。
物凄い音と大地を揺るがす振動がここまで伝わってくる。
――ああ、やっちゃった。やっぱり、
それはともかく、【
――ふう。間に合ったかな?
【
誰も死んでいないということだ。
だけど、怪我をしているかもしれない。
まだ、油断はできないな。
ディズは回復魔法を使えない。
俺が急がないとッ!
鈍重な身体を揺すりながら、懸命に走る。
鎧と槍の重さが嫌になる。
自分のノロマさにも嫌気がする。
たっぷりと時間をかけて、現場に到着した頃には、息が上がりきっていた。
心臓もバクバクと抗議している。
馬車が一台。
ハイオークの襲撃を受けてか、凹んでいる。
それと、見知らぬ人間が何人か。
そして――ディズが立ち尽くしていた。
目の前の出来事を受け入れられないように。
もしかして……間に合わなかったのか?
「ディ、ズ……」
かすれ声で呼びかけると、ディズはゆっくりと振り向いた。
「ロイル?」
「怪我……人…………だい、じょぶ?」
「怪我人? ええ、ええ、大丈夫よ。誰も怪我していないわ」
「よか……った…………」
間に合ったか。
ホッとする。
「ねえ、それより、これ、ロイルがやったの?」
「これ……?」
「私が着いたときには、ハイオークはもういなかったわ。その代わり……」
ディズが地面を指差す。
今まであえて、気づかないフリをしていたのだが……やっぱりごまかせないよね…………。
地面には大きく抉れた3つのクレーター。
その原因は俺の【
この魔法は2つ欠点がある。
ひとつは射程と威力調整に関してだ。
この距離で試したことがなかったので、手加減を誤ってクレーターをこしらえてしまった。
まだまだ、練習が必要だな。
まあ、人や馬車に危害は及ばなかったのは不幸中の幸いだ。
「ロイルがなんかやったんでしょ?」
ディズがジト目で詰め寄る。
しらばっくれることはできなかった。
「うっ、うん……。魔力……とば、した」
「まあ、ちょっとやり過ぎだったけど。凄いわよ、ロイル。やっぱり、強いじゃない! なんていう魔法なの?」
ディズは俺に飛びつき、ぴょんぴょん跳びはねる。
彼女の嬉しさが飽和して、俺にまで伝わってくる。
「【
「へえ、聞いたことない名前ね。でも、強そうな名前だねっ」
だが、俺は微妙な気持ちでいた。
それこそが、この魔法の2つ目の欠点だ。
――【
魔法としては申し分ない。
問題は――その名前だ。
実のところ、俺はあまりこの名前が気に入っていない。
この魔法にはもっとカッコイイ名前が相応しい。
だけど……一週間考えても、これ以上の名前を思いつかなかった。
それに比べたら、俺はまだまだだ。
誰か、もっとカッコイイ名前を教えてくれないだろうか……。
そうこうしているうちに、馬車の方から声をかけられた――。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『フローラ・ディン』
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