第9話 パーティー結成

 ディズと出会ってからは、時間がたつのが早かった。

 彼女は話上手で、口下手な俺相手でも、次々と話題を提供してくれる。

 おかげで、会話が途切れることがない。

 久しぶりにいっぱいしゃべったせいで喉が痛いが、それを忘れるくらい楽しい時間だった。

 そして、気がついた頃には、森に入って半分以上が過ぎていた。


「ロイルのランクは何なの?」

「ランク?」


 馴染みのない単語が出てきて、思わず聞き返す。


「冒険者ランクよ。結構長いんでしょ?」

「い、いや…………」


 ディズはなにか勘違いをしているみたいだ。

 この格好のせいだろう。

 さすがは騎士団で採用しているだけあって、駆け出しの冒険者では買えない装備だからな。


「ん?」

「俺も、……これ、か、ら……冒険者、に……なる」

「えッ!? ホントなの!? 今までなにしてたの?」

「門番、やって……た…………サラクンで」

「門番かあ。確かにお似合いね。ロイルみたいな強そうな門番だったら、悪い事する人は減りそうだわ」

「いや……俺、……見かけ……倒し。…………戦う、の……弱い」

「ええ〜、謙遜しちゃってえ〜」

「役立、たず……だから…………門番、やって、た」


 謙遜なんかじゃない。

 俺はただの門番だ。

 いや、武器が使えない、普通以下の門番だ。

 立っていただけの門番だ。


「へえ〜、まあ、人それぞれ事情があるのね。でも、どうして冒険者に? 門番だったら安定しているし、お給金もそれなりなんじゃない?」

「クビ……なった」


 ディズは大きく目を見開くと、顔をほころばせる。


「なんだっ、私と一緒じゃないっ! だったら、一緒に冒険者をやろうよっ!」

「一緒…………に?」

「ええ、一緒にパーティーを組んで、一緒にダンジョンに潜って、一緒にモンスターを倒して、一緒にお宝を探すの。どうかしら?」

「……………………」


 すぐには返事が出来なかった。

 嫌だったからではない。

 誘ってくれたのは嬉しかった。

 ただ、戸惑いが大きかったからだ。


 俺は一人で冒険者生活を送るつもりだった。

 ご存知の通り、俺のコミュニケーション能力は壊滅的だ。

 宿を取るので精一杯。

 とても、誰かと一緒に行動できるとは思えなかった。


 ディズは凄い。

 途切れ途切れの俺の片言で、しっかりと俺の意を汲みとってくれる。

 ディズと話すのは楽しかった。

 喉の痛みも忘れるくらい、楽しかった。


 ディズなら、誰と組んでも上手くやれるだろう。

 そんな彼女がわざわざ俺を誘ってくれたのだ。

 ここで断るようでは、俺は一生ひとりぼっちだろう。


「うん……ディズが、よかった、ら……よろ、しく」

「じゃあ、これからヨロシクね!」


 ディズが右手を差し出してきたので、俺も右手を伸ばす。

 柔らかい手だった。

 だけど、細腕の少女とは思えない強い力だ。

 腕っぷしに自信があるというのは本当なようだ。


「よしっ。これで私とロイルは同じパーティーね。名前はどうしよっか?」

「…………名前?」

「パーティー名よっ」


 ――うわああああああああ。


 考え込んでいると、前方から悲鳴のような声がかすかに聞こえてきた。

 かなり遠くからの声だ。


「モンスターッ?」

「…………ッ」


 俺とディズは顔を見合わせ、前を向く。

 前方の道は湾曲しており、50メートルほど先までしか見通せない。


「――【世界を覆う見えざる手ムンドゥス・コゥヴェ・インヴィジ・マヌス】」


 この魔法は魔力を身体の外に広げていき、周囲にいる人間やモンスターを把握する魔法だ。

 物語ではよく出てくる【探知魔法】と効果はほぼ一緒だ。


 見通しの悪いこの森に入ったときから発動していたが、その有効範囲は50メートルに設定していた。

 それだけあれば、不意打ちは避けられる。

 叫び声はもっと遠くから聞こえてきた。

 そこで俺は、慌てて【世界を覆う見えざる手ムンドゥス・コゥヴェ・インヴィジ・マヌス】の有効範囲を広げていく。

 500メートルまで広げたところで、反応があった。

 覚えがあるモンスターだ。


 【世界を覆う見えざる手ムンドゥス・コゥヴェ・インヴィジ・マヌス】はかなり練習を行ったおかげで、捉えた対象の姿形まで識別できる。


 このモンスターはタブレットの『モンスター図鑑』で確認したし、何度も倒したことがあるヤツだ。

 見知らぬ強大なモンスターではなかったことに、ひとまずは安心した。


「500メートル先ッ! ハイオークが3体ッ! 人間が襲われてるッ!」





   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 次回――『襲撃』

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