第2話 ガチムチコミュ障門番、クビになる
日が暮れて、門が閉まり、一日の仕事が終わる。
俺は騎士団本部にある団長室に向かった。
団長室に呼ばれたのなんて、入団時以来だ。
だから、迷った。盛大に迷った。
こういう場合、普通だったら、人に尋ねるのだろう。
だけど、俺にそんなコミュ力はない。
普段からまったく口を動かしていないので、人を前にすると「あうあう」としか言えない。
まったく言葉が出てこないのだ。
結局――さんざん迷った末に、なんとか壁に貼られた地図を見つけ、ようやくたどり着けた。
団長室に入ると、見知らぬ男が二人いた。
服装から判断するに一人は団長だ。
入団時に会った団長とは別人。
3ヶ月ほど前に新しく変わった団長だろう。
その際、騎士団員を集めて赴任式が行われたのだが、俺がその通知を受け取ったのは赴任式の3日後だった。
ゲララから「なんで参加しなかったのだ」と叱責された上、3ヶ月の減給になった。
今でも納得がいかん……。
そして、もう一人は白衣の男だ。
騎士らしからぬことは推測できるが、男がどんな肩書きを持つのか想像もできなかった。
「ロイル。長年ごくろう。きみは今日でクビだ。明日から来なくていい」
誠意の欠片もない声でクビを告げられた。
ポカンとしている間に、団長と白衣がつらつらと説明を続ける。
俺は口を挟むことも許されなかった。
二人の話を要約すると、俺の後任は魔道具が務めるそうだ。
白衣は魔道具技師だった。
この男が開発した魔道具は、モンスターの気配を察知して自動攻撃するものらしい。
この魔道具があれば、俺は不要。
これからは魔道具が街を守ってくれるそうだ。
俺は仕事中に北門で働く人たちの会話を盗み聞きして仕入れた情報を思い出す。
数年前の魔道具革命以来、人々の仕事は魔道具に取って代わられるようになった。
魔道具は制作費用こそ高いが、一度設置してしまえば定期的に魔力を供給するだけで動き続ける。
人間のように文句を言わないし、賃金を払う必要もない。
雇い主としては、魔道具サマサマだ。
魔道具はここ数年で、様々な分野で幅を利かせるようになった。
そのせいで、多くの人が職を失った。
将来的には、すべての仕事は魔道具がこなすようになるとも言われているらしい。
そして、この新団長は魔道具推進派だ。
赴任以来、大規模なリストラが行われ、多くの騎士がクビになり、その仕事は魔道具に取って代わられた。
その影響が、つい俺のところにまで回ってきた。
それだけの話だ。
ただ突っ立ってるだけなんだから、魔道具でなくてもカカシで十分じゃないか。
そう思うが、口にはしない。
「はっ……」
反論がムダであることは承知している。
それに、なにか言おうとしても、口が回らない。
俺は頭を下げ、団長室を後にした。
未来永劫続くと思われた俺の門番生活はあっけなく幕を閉じた。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『旅立ち』
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