<卒業> 2

池田圭。


この男はいつも突然現れる。


「は、話があるんだけど・・」

その声はこの誰もいない静かな教室でも

耳を澄ませていなければ

聞き取れないほど小さかった。

「皆、外で待ってるぞ、話なら後にしてくれ」

俺は池田を相手にせずに

そのまま教室を出ようとした。


「い、一体・・。

 き、君は・・。

 な、何者なの・・?」


俺は池田の言葉に足を止めた。

そしてゆっくりと振り返って池田と向き合った。

池田は俺と目が合うとすぐに視線をそらせた。

「一年間、

 共に過ごしたクラスメイトに

 その質問はおかしいだろ?」

「だ、だからこそ・・。

 き、君は

 ぼ、僕の知ってる『あっくん』じゃない・・」

池田の言葉が小さな棘となって俺の胸に刺さった。

その棘は一瞬だけ心臓の鼓動を止めたが、

俺は平静を装った。


「お前は俺の何を知ってるんだ?

 転校してくる前の俺と

 会ったことでもあるのか?」

池田は小さく首を横に振った。


「き、君だけが異端なんだ・・」

異端。

その言葉を俺は以前にもこの男の口から

聞いたことがある。

あの時の違和感の正体が今わかった。

小学生は「異端」なんていう言葉は使わない。



「こ、この一年・・。

 な、何かが少しずつ変わっていった・・。

 は、初めの違和感は奥川さん・・」

俺の思考を無視して池田の話は続いていた。

「か、彼女と君は・・

 ほ、本来なら交わることは・・

 な、なかったはずなのに・・」

交わるという言葉に

俺は大人の世界の下品な匂いを嗅ぎとった。

しかし池田がそういう意味で

言ったのではないことはわかった。

「男と女なんてちょっとしたことで

 くっついたり離れたりするだろ?」

「ほ、他にも・・。

 き、君が熊谷君のグループに入ったこと・・。

 そ、そのすぐ後で熊谷君が死んだこと・・」

「大吾の死が俺のせいだと言いたいのか?」

池田はそれには答えなかった。


「そ、そして猿田先生も死んだ・・」

「他殺説を唱えていたお前の出した結論は

 俺が犯人ということか?」

池田はそれにも答えなかった。



「に、二学期の終業式の日に聞かされた・・

 は、畑中先生の突然の離職も・・。

 そ、そして時を同じくして・・

 ×、××××△△が失踪した・・」

俺は動揺を悟られないように

小さく息を吐き出した。

「き、極めつけは相馬さん・・。

 か、彼女は本来なら卒業式の三日前に・・

 し、失踪してるはずだった・・」

その言葉に、

俺は頭をハンマーで殴られたかのような

衝撃を受けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る