エピローグ RemembeR

三月

<卒業> 1

卒業式が終わり、

校庭では華麗に着飾った子供達が

名残惜しそうに友との別れの時を過ごしていた。

俺はそんな校庭の様子を

六年三組の教室のベランダから眺めていた。


六年三組のクラスメイトが

校庭の隅にある砂場に集まっているのが見えた。


翔太がいた。

その隣に茜がいた。

洋の姿も近くに見えた。

少し離れたところで奥川が

女の子達に囲まれて笑っていた。


しかしそこには大吾はいなかったし、

ナカマイ先生の姿もなかった。


三学期になってナカマイ先生の代わりに

七原という金髪の若い男教師が

六年三組の担任として赴任してきた。

七原は頭は悪かったが、

子供達からは比較的人気があった。

今も子供達に囲まれて

間抜けな笑顔を浮かべていた。


そしてそこには相馬の姿もあった。

二月になってすぐに

相馬は児童養護施設に保護された。

ナカマイ先生から事情を聞いていた

七原の計らいだった。

相馬の証言から、

同居していた男が

年明けから家に帰っていないことが

明らかになった。

相馬は一か月もの間、

あの家で一人で暮らしていたというのだ。

その事実を知った大人達は

一人で寂しかっただろうと同情していたが、

相馬にとっては一人の方が幸せだっただろう。


ここ一か月で相馬は随分と明るくなった。

相変わらず本は読んでいたが、

休み時間は皆と遊ぶことも多くなった。

とくに茜とは意気投合したようで、

今や相馬も探偵団の一員だった。

初めの頃は相馬に反発していた洋だったが、

今では相馬の言うことには素直に従っている。

洋が相馬に好意を抱いていることは明らかだった。

一方、翔太と茜の関係は依然として曖昧だった。

それでも俺は

きっと二人は結婚するだろうと信じていた。

そしてもう一つ。

相馬が探偵団に入ったことで

変わったことがあった。

俺達は相馬によって煙草を吸うことを禁止された。

皆、多少の不満を口にしつつも

最終的には相馬の言葉に従った。



今、俺が見ている校庭の風景は

俺の記憶の中の光景とは大きく違っていたが、

晴れやかな子供達の顔はどちらにも共通していた。


その時、砂場にいる翔太が

俺に気付いて手を挙げた。

隣の茜もこちらを見上げて大きく手を振った。

洋が万歳をして何か叫んでいた。

俺は皆の所へ行こうと教室へ戻った。


すると誰もいないと思っていた教室に

男が立っていた。

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