<秘密> 18

「Riverside Doom 春日」に着いてから

一本目の煙草を吸い終わった時、

茜が現れた。


「こうしてあっくんと二人きりで話すの

 って久しぶり」

俺から煙草を受け取ると

茜は火を点けて「ふぅ」と煙を吐き出した。

「なあ、茜。何かあったのか?」

茜は俺の問いに答える代わりに、

ポンポンポンと煙の輪を三つ吐き出した。

それから立て続けに煙草を吸った。

茜はあっという間に、

一本目の煙草を吸い終わった。

そしてすぐに二本目の煙草に火を点けた。

俺も新しい煙草に火を点けた。

俺は茜が話し出すのを待った。


俺達は同時に二本目の煙草を吸い終わった。

俺は間を持たせるため三本目の煙草を手に取った。


「あっくん、私に隠し事してるでしょ?」

不意に茜が口を開いた。

正直なところ心当たりが多すぎて、

俺には茜の発言が何を指しているのか

わからなかった。

「急に何を言い出すんだよ。

 隠し事?

 そんなのあるわけないだろ?」

それでもとりあえず俺は否定した。

「嘘。私知ってるのよ。あっくんの秘密」

茜が真っ直ぐに俺の目を見つめてきた。

隠し事と秘密では微妙にニュアンスが違う。

そして秘密という言葉に俺の心臓は大きく跳ねた。


「でも大丈夫。私はあっくんの味方だから」

茜はそう言ってにこりと微笑んだ。

まさか茜は俺の正体に気付いたのだろうか。

しかしそんな非現実的なことを

一体誰が信じるだろう。

いや、サンタクロースを信じる子供ならあるいは。

そしてそれは子供に限った話ではない。

サンタクロースを信じる子供がいるように、

神の存在を信じている大人もいる。

子供はいずれサンタクロースは幻想だと気付く。

しかし、大人は幻想の神を追い続ける。


だが、たとえ茜が俺の正体に気付いたとしても

それは想像でしかない。

証明することは不可能なのだ。

わかってはいるが、それでも。

「あ、茜。

 それはおそらく茜の勘違いだと思うぞ。

 俺には秘密なんてないし、

 当然隠し事もない」

「心配しないで。

 絶対に誰にも言わないから」

茜は俺の言うことに

まったく耳を貸そうとしなかった。

子供を理屈で説き伏せることが

どれだけ難しいことか

俺はこの半年で十分に理解していた。

強弁を振りかざす子供の前で詭弁は通用しない。

「茜・・」

「大丈夫。

 あっくんは絶対に『しけい』にならないから」

そして時に子供は突飛なことを口にする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る