<秘密> 11

翌日は朝から雨が降っていた。

チャイムが鳴って教室に現れたのは

校長の勅使河原だった。

「はぁい、皆さぁん、おはようございまぁす。

 今日、畑中先生は少し遅れまぁす。

 ですからぁ、

 一時間目と二時間目は自習をしてもらいまぁす」

自習という言葉に子供達は歓声をあげた。



二時間目が終わる直前に

ナカマイ先生は教室に現れた。

「ごめんなさい。

 ちょっと具合が悪くて病院に寄ってたの」

ナカマイ先生は教室に入ってくるなり

元気よくそう言ってペロッと舌を出したが、

俺には無理をしているように見えた。


昼休みになっても雨は降り続けていた。


普段はまとまりのある六年三組の子供達も

雨の日は教室で過ごす子や図書館に行く子、

はたまた体育館で遊ぶ子など様々だった。

俺は翔太と洋に「かくれんぼ」に誘われたが、

断って校内を一人で散策した。

少しでも真犯人の手掛かりが掴めればと

淡い期待を寄せていた。


校内は狂喜の声に包まれていた。

俺は廊下を駆ける子供達を見るたびに

肝を冷やした。

「廊下は走らない」

と声を大にして注意する

大人の気持ちが理解できた。

大人は子供達の安全のために口煩く注意するのだ。


職員室を覗くとナカマイ先生の姿はなかった。


奥の机で池島千代が

紅葉と呼ばれていたあの若い女教師と

話しているのが見えた。

そのすぐ近くで一色が二人の男性教師と

話をしていた。

一人はこちらに背を向けていたが

その白髪が目を引いた。

もう一人はパンチパーマにサングラス

そして口髭を生やした男で

とても堅気の人間には見えなかった。


ほとんどが俺の知らない顔ばかりだった。

この中にいる。

葉山を妊娠させた挙句その命を奪い、

さらにボス猿を殺し、

葉山殺しの罪を着せたうえで

自殺に偽装した人間が。

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