<秘密> 9

昼休みが始まると、

子供達は次々と教室を飛び出していった。

今日は男女に分かれての「警泥」の日だった。

女子が警察で男子が泥棒だ。


相変わらず相馬は机で本を開いていたし、

空気のような存在である池田は

机に座ってぼぅっとしていた。

俺は一人ベランダに出た。


子供達が校庭を

無邪気に走り回っている姿を見ながら、

俺の頭の中では今朝見た映像が再生されていた。

映像はあの後少し続いていた。



池島は呆然と立ち尽くす一色の前に跪いて、

気の抜けた一色のモノを口にくわえた。

「おおぅぅ」

一色が小さな声を出した。

「綺麗にしてあげますからね。僕ちゃん」

池島はそう囁くと

ゆっくりと丁寧に時間をかけて

一色のモノを嘗め回した。

それが終わると

二人は並んで机の上に腰を下ろした。

「すごく気持ちよかったよぅ、千代さん」

「こんなおばさんのどこがいいのかしら」

「全部だよぅ、

 僕ちゃんは若い子にはまったく興味がない

 って何度も言ってるじゃないかっ」

そう言って一色は

池島の小さな胸に顔を埋めると

夢中でその乳首を吸った。

池島が優しく一色の頭を撫でた。

「はいはい。

 若い子に興味がないって言っても

 私は僕ちゃんのお母さんよりも年上でしょう?」

「関係ないよぅ。

 まだまだ若すぎるくらいだよぅ。

 あと十年経てばもっと魅力的になるよぅ」

「まぁ、十年後には七十前よ。

 そんなお婆さんでもいいのかしら」

池島はもう一度一色の頭を撫でた。


思い出しただけでもゾッとする映像だった。



帰りの挨拶が終わると、

子供達は我先にと教室を飛び出していった。

翔太と洋が「楽園」に行こうと誘ってきた。

俺は二人に「茜は?」と訊ねた。

洋は「わからない」と首を振り、

翔太は無言で俯いた。

茜の席に目をやるとすでに茜の姿はなかった。

「そう言えば

 最近の茜ちゃんは付き合いが悪いよな。

 なあ、翔太」

「う、うん・・」

洋の問いかけに翔太は歯切れが悪かった。

「でもそれを言うならあっくんも同じか。ひひひ」


「わかったよ、今日は付き合うよ」

正直なところ俺もニコチンに飢えていた。



「Twilight Avenue 城之三崎」で

煙草を燻らせている間も、

葉山とボス猿を殺した人物のことが

頭を離れなかった。

最も有力な容疑者だった一色が

白だったことで犯人探しは振り出しに戻った。

そして犯人の手掛かりは何一つなかった。


俺は早くも三本目の煙草に火を点けていた。

翔太と洋は

嵌っているゲームの攻略について話していた。

主人公の勇者の名前が洋で、戦士が翔太。

魔法使いは茜で、俺は賢者らしい。

最期のボスを倒すために

もう少しレベル上げをすることで

二人の意見はまとまったようだ。

二人の他愛もない話を

ぼんやりと聞いているだけで

俺の気分は不思議と落ち着いた。

「どうしたの?あっくん」

「何だよ、こっち見てボーっとして気持ち悪いぜ」

「・・別に。ちょっと考え事をしてたんだ」

俺は小さく破顔してから

ゆっくりと煙を吸い込んだ。

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