<果報> 3

これは夢か。

はたまた俺は狐に化かされているのか。

俺は目の前に立つナカマイ先生の顔をじっと見た。

その表情は

とても嘘を吐いているように見えなかった。

そもそも。

ナカマイ先生が俺に嘘を吐く理由がない。

ならば。

ボス猿がナカマイ先生に嘘を吐いていたのか。

何のために?

自分と葉山の関係を隠すため?

しかしそれは

ナカマイ先生が二人の関係を疑っていた

ということが前提になる。

だがナカマイ先生は

遺書に書かれたような二人の関係を信じていない。

つまり、

ボス猿がナカマイ先生に嘘を吐く理由もない。

では葉山がボス猿に嘘を吐いていた

という可能性はあるだろうか。

それこそ無意味である。


「せ、先生、その話は本当なの?

 何かの間違いじゃないの?」

それでも俺は確認せずにはいられなかった。

「ええ。それは本当。

 私も一度、

 猿田先生に頼まれて葉山さんに確かめたの。

 同性だから

 私には話してくれるんじゃないかって、

 猿田先生はそう考えたのね」

しかし葉山はナカマイ先生にも

詳しいことは話さなかった。

「私は葉山さんから信用されてなかったのかな」

そう言ってナカマイ先生は

目尻にそっと指を這わせた。


俺は息苦しさを感じた。

全身の毛穴から

じっとりと汗が吹き出してくるのがわかった。

「遺書は偽物。

 猿田先生は絶対に葉山さんを殺してないし、

 遺書に書いてあったような

 関係にはなってないことは断言できる」

ナカマイ先生の目が俺の目を正面から捉えた。

恋人を信じたいというナカマイ先生の想いが

痛いほどに伝わってきた。

だが葉山の妊娠は事実なのだ。


「だって、

 彼には子供を作ることができなかったのよ」


その言葉は

俺の目の前の景色から

色という色をすべて奪っていった。

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