<因果> 13

家に帰ると母が慌てた様子で玄関に駆けてきた。


「あっくん!丁度良かったわ。

 お母さん、トマトを買い忘れたの。

 悪いけど今から『食〇』に

 お使いに行ってくれないかしら?

 好きなお菓子があれば一緒に買ってもいいわよ」

「別にお菓子はいらないけど、

 いいよ。行ってくるよ」


俺は千円札をポケットに入れると自転車に跨った。


「スーパー食〇」は

家から自転車で三分のところにある。

店に入ると、

いきなり一面の赤が目に飛び込んできた。

それは山積みに陳列された様々な赤い果物だった。

いちご。りんご。さくらんぼ。

珍しい物ではイチジク、柘榴もあった。


俺はりんごの山の中から

「フジ」

と書かれたPOPの下のりんごを手に取った。

その直後、

俺は「あかね」と書かれたPOPを見つけた。

俺は少しの間逡巡してから「フジ」を戻して

「あかね」を籠に入れた。

それから野菜コーナーでトマトを選んだ。

俺はトマトとりんごの入った籠を持って

レジに並んだ。


店を出る時、

赤い果物で埋め尽くされたゴンドラの前で

俺はふたたび足を止めた。

りんごの隣に陳列されたさくらんぼの中に

「さおり」と書かれたPOPを見つけたからだ。

一瞬迷ったが、俺はそのまま店を出た。

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