<因果> 2
十一月十日。金曜日。
この日、俺はいよいよ作戦を実行することにした。
金曜日を選んだのは理由がある。
五、六年生だけが六時間目まで授業があり、
放課後、学校に残っている生徒が少ないからだ。
目撃者になりそうな人間は極力少ない方がいい。
三時間目の算数の授業中、
俺は腹痛を理由に保健室へ行った。
教室を出ると廊下は静まり返っていた。
廊下に誰もいないことを確認してから
俺は二組の教室へ入った。
この時間、
二組は体育の授業であることは
あらかじめ確認済みだった。
俺は服の中に隠していた封筒を
ボス猿の机の上に置いた。
封筒の中には一枚の紙が入っている。
紙に書かれている言葉を俺は頭の中で暗唱した。
『葉山実果がお腹の子の父親に宛てた手紙がある。
詳しく知りたければ十七時に屋上に来い』
ボス猿が犯人でなければ
当然こんな手紙は無視するだろう。
質の悪い悪戯と考えるに違いない。
しかし、ボス猿が犯人であれば必ず現れる。
お腹の子については
犯人しか知り得ない情報だからだ。
その事実を知る人間が
他にいるとなれば犯人は当然無視できない。
昼休みが終わり掃除の時間が始まると
俺は急いで屋上へ行った。
屋上には誰もいなかった。
俺は六年二組の教室の
真上にあたる場所まで歩いて、
目の前に立ち塞がるフェンスを乗り越えた。
そして屋上の縁へ近づいた。
俺はポケットから封筒と拳大の石を取り出した。
封筒はボス猿の机に置いた物と同一の物だったが、
中には何も入っていない。
これは餌だ。
俺は封筒を屋上の端ギリギリのところに置いて
風で飛ばないようにその上に石を乗せた。
これが葉山の供養になれば。
そう思ってこの場所を選んだ。
俺は腰を屈めて縁から下を覗き込んだ。
花壇が見えた。
紫の小さな花弁が花壇を彩っていた。
あの花はパンジーか。
それともビオラか。
花に対する知識のない俺には
その区別がつかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます