<因果> 3
帰りの挨拶が終わると、
皆次々と教室から出ていった。
翔太と洋が誘ってきたが、
俺は用事があると言って断った。
「あっくん、用事って何?」
「・・や、野暮用さ」
突然目の前に現れた茜に
俺は動揺を悟られないように
努めて冷静に振舞った。
「言えないこと?」
茜は俺の曖昧な返事に納得してないのか
さらに追及してきた。
「とにかく、
早く終わったら俺も顔を出すからさ。
茜も二人と一緒に『楽園』に行ってろよ」
茜はやや不満そうだったが
それ以上は追及してこなかった。
「じゃあ待ってるからね」
茜は手を振って教室を出ていった。
教室には俺一人だけが残っていた。
教室の時計は十五時四十分を指していた。
俺は気を紛らわせるためにベランダに出た。
子供達が校庭を散り散りに歩いていた。
その様子は校門というお菓子を目指す、
纏まりのない蟻のように見えた。
俺はベランダを通って隣の教室へ行き、
こっそりと窓から中を覗いたが当然、
誰もいなかった。
俺はその場でベランダから身を乗り出して
下を覗いた。
葉山はここから落とされたのだ。
花壇の上に落ちたのだとしたら、
今咲いている紫の花は
その後植えられたのだろうか。
そんな疑問が浮かんだ。
そして俺は大吾の死を思い出した。
大吾は十三階から落ちて命を落とした。
しかし、今目の前に広がっているこの高さなら。
はたしてここから落ちて人は死ぬだろうか?
落ち方にもよるだろうが、
どうも腑に落ちなかった。
もしかしたら葉山は殺された後で
落とされたのではないか。
そんな考えが頭をよぎった。
どちらにせよ夏休みの学校であれば
目撃者は期待できない。
真相は犯人にしかわからない。
それに今更、
葉山の殺害方法がわかったところで
何の意味もない。
大事なのは、
誰が葉山を殺したのかということだった。
俺は六年三組の教室に戻った。
指定した時間までまだ一時間以上あった。
俺は机に伏せてもう一度思案した。
ボス猿が屋上に現れたら
それは即ち
ボス猿が葉山を殺した犯人であることを意味する。
その時、
俺は本当にボス猿を罰することができるのか。
『世の中には死んでもいい人間は確実に存在する』
たしかに。
人の命が平等ならば、
それを奪った人間は己の命で償うべきである。
そんな当たり前の理屈が通らないこの世の中だ。
『簡単なことだ。
何度もシミュレーションをしただろう?
アレを餌にフェンスの外へ誘導すれば、
子供のお前でも簡単に突き落とすことができる』
わかっている。
今更躊躇っているわけではない。
しかし、もし・・。
ボス猿が犯人でなかったら?
もし・・万が一でも・・。
ボス猿が・・犯人・・なかったら・・。
俺は・・。
俺は・・。
俺は・・。
はっとして、俺は飛び起きた。
机に伏したまま
俺はいつの間にか眠っていたようだ。
額に汗が滲んでいた。
何か大きな音が聞こえた気がしたが、
どうやらそれは夢だったようだ。
窓の外が紅く染まっていた。
時計を見ると十六時四十分を指していた。
寝過ごさなかったことに
俺はまず胸をなでおろした。
俺は椅子から立ち上がって大きく背伸びをした。
その時、廊下に人の気配がした。
俺は素早く音を立てないように
ドアに近づいてから一気に開けた。
廊下に出て周りを窺ったが誰もいなかった。
神経質になりすぎか。
指定の時間まではまだ二十分あったが、
俺は屋上へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます