<真実> 6

「あっくん!」

不意に背後から声をかけられて

俺は心臓が飛び出るほど驚いた。

振り返らなくてもその声の主が誰なのかわかった。


「・・茜、どうしたんだ?

 家はこっちじゃないだろ?」

「翔太さんと二人で学校から出ていくのが

 見えたから」

そう言って茜はにこりと微笑んだ。

「・・それで尾けてきたのか?」

「うん。

 話したいことがあったから」

茜は俺と翔太の会話を聞いていたのだろうか。

掌に汗が滲むのを感じた。

「話って?」

俺は茜の表情を窺った。


「あっくん、奥川さんとは別れたんでしょ?」

予想外の質問に俺は困惑した。

「・・ああ」

「じゃあ今好きな人はいないの?」

どうして茜がそんなことを聞くのか疑問だったが、

俺は茜の他愛ない恋愛話に付き合うことにした。

頭に相馬沙織の顔が浮かんだが、

それは恋ではなく好意である

というのが自分なりの分析だった。

奥川に対する未練がまったくないと言えば

それは嘘になる。

しかしそれには醜い欲望が付き纏う。

どちらにしろ俺には

恋というモノがわからなかった。

少し考えてから俺はまた「ああ」と答えた。


「よかった」

茜は「ふぅ」と溜息を吐いてから

安堵の表情を浮かべた。

「よかった?」

「うん。

 だって好きな人がいないのなら、

 私にもチャンスがあるでしょ?」

俺は茜の顔を見つめたまま固まった。

俺の記憶に残っている茜は

こんなにも大人っぽい表情を

みせることがあっただろうか。


「あっくん。

 私、あっくんのことが好き」

俺は茜から目をそらした。

「じゃあね、あっくん。また明日」

俺の返事を待たずに茜は踵を返すと駆け出した。

俺は茜の後姿が視界から消えるまで、

その場に佇んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る