<真実> 4

ある日の合同練習が終わって

校舎へ戻っていた俺の隣に洋が並んだ。

「あ~あ。疲れたぜ。

 ボス猿のヤツ、

 散々怒鳴り散らしやがって本当嫌な野郎だぜ」

俺は「そうだな」と相槌を打った。

洋の様子はどことなくおかしかった。

落ち着きなくキョロキョロと周囲を窺っていた。

「どうしたんだ?」と聞いてみたが、

「う、うん」

と洋にしては珍しく歯切れが悪かった。

皆が校舎に消えていく中で、

俺と洋だけがゆっくりと歩いていた。


「・・俺さあ、

 最近茜ちゃんのことが気になるんだ。

 あの夏休みの別荘のときからなぜかさ」

何の前触れもなく洋が呟いた。

俺は驚いて足を止めた。

「やっぱり、駄目だよな。

 だって茜ちゃんのことは

 翔太がずっと好きだからな」

洋はきまりが悪そうに頭を掻いた。


そこで俺はハッとした。

洋は今「夏休みの別荘」と言った。

あれは「前世」では起こらなかった出来事だ。

あの一泊二日のお泊り会が

洋の心に変化をもたらした。

もしこれがきっかけで

茜と翔太の未来が壊れることになったら。

それは俺の責任でもある。

しかし人を好きになることに

駄目とか先着とかあるのだろうか。


俺は

「茜だけは絶対に駄目だ。

 翔太と茜は将来結婚するんだ」

という言葉をぐっと飲み込んだ。

代わりに

「人を好きになるのは仕方のないことだ」

そう小さな声で答えた。

俺の言葉に洋の表情がパッと明るくなった。

「そっか。

 ありがと、あっくん。

 でもこのことは内緒だぜ」

そして洋は駆けていった。

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