<真実> 3

学校ではプールの授業が終わり、

運動会の練習が始まった。


二十年後であれば

春に開催される運動会も珍しくはない。

しかしこの時代、

運動会といえば秋に行われるのが一般的だった。


運動会の練習は学年ごとの合同練習で、

六年生はボス猿がその指導をした。

ボス猿の指導は

まるで軍隊であるかのように厳しかった。

少しでも私語をしようものなら怒号が飛んできた。


ある日の組体操の練習中、

六年二組のお調子者の男児が

ちょっとした悪ふざけをした。

ボス猿はそれを見逃さず、

すぐさまその子の所へ飛んでいくと

容赦のないビンタを食らわせた。

当然ボス猿の指導に対しては

多くの生徒が不満をもっていた。

しかし、この時代このような指導は

ごく当たり前のことだった。

指導という名の下で行われる体罰は

学校という小さな社会では教育と呼ばれた。

この時代、

運動中に水分補給など、

もっての外だった。


努力。忍耐。根性。


これらの言葉が無心に崇拝されていたし、

誰もがそれを当然のことと考えていた。


これから二十年で社会は大きく変わる。

この時代に当然とされていたことが、

ことごとく否定されていく。


我が物顔で喫煙している人間が、

二十年後には片隅に追いやられるなんて

本人たちには想像すらできないだろう。

マスコミの先導による

プロ野球人気も陰りを見せてくる。

CD販売で巨万の富を築いていたミュージシャンは

インターネットの発達とともに

その稼ぎを失っていく。

葉山の死もあと二十年遅ければ、

大きな問題となっていたかもしれない。

子供の自殺を簡単にスルーする時代ではない。

何らかの原因を突き止めようと周囲が騒ぐはずだ。

それにマスコミが騒がずとも、

二十年後であれば

個人で情報を発信することができる。

声を上げる人間が一人でもいれば

それは大きな波を起こすきっかけにもなる。

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